百八拾
6月26日(火)?時??分
気がつくと俺は地面に倒れていた。
「っ…」
その状態のまま辺りの気配を探ってみる。
「…!」
すると離れた位置に複数の気配を感じることができた。
まずそのことに驚く。
村正の呪いのせいで¨欠片¨を使えない状態ではこんなふうに気配を探るようなことはできないはずなのに…
そこでやっと気づいた。
ここは¨夢¨、もしくは【無制限共有フィールド】のどちらかだと。
「目、覚めてるよね?なら早く起きてくれないかな。あまり時間を取りたくないんだ」
思いのほか近くから声が聞こえて体がピクリと反応する。
仕方ないので注意深く警戒しながら立ち上がった。
声の主は華奢な少年だった。
とくに特徴的なところもなく、取り立てて強調するところもない。
ただ驚いたのは仮面をつけていなかったことだ。
街中ですれ違っても違和感がないというか、いまいち存在感がない顔をしている。
初めて会う…と思う。
「阿部…佑樹君、だったかな?君の名前」
「!!?」
俺は一瞬で頭がの中が真っ白になった。
(な、なんで俺の名前を…!?)
そいつは薄く笑うと俺のことを品定めするような目つきで意外な提案をしてきた。
「ねえ、阿部君。君、こちら側に来ない?」
そう言ってこちらに向かって手を差し出してきた。
何を言ってるんだ?
俺が何も言わないでいると、そいつは補足するように言った。
「仲間にならないかってことだよ」
「!」
思いもよらない言葉に再び思考が停止する。
どういうことだ?
「村正を¨こっち¨でなく¨現実¨で刺すなんて、普通の奴らじゃできない。どうせ夢だから、現実じゃないから、闘いに身を任せて好き勝手する。そんなやつらって、現実だと周りの目を気にして何もできないような臆病者ばかりさ。こっちでゲーム感覚で人を傷つけることはできても、現実ではろくな抵抗もできずに村正にやられていった。仮初めの力で有頂天になって調子に乗ってるやつらほど現実で脆い。もしかしたらそういったやつほどこっちで強くなるのかもしれないけどね。っと…話が逸れたね。君は今言ったような腰抜けどもとは違う。現実でありながら村正のことを刺した。あんな状況だったからこそ君の強さが分かったよ。君みたいに夢、現実問わず強い人には是非とも協力してほしい。君になら村正預けてもいいよ。君なら新しい村正の持ち主に相応しい」
長々と、それこそ吐き出すようにそう言って、そいつは差し出したままの手をさらにこちらに差し出してくる。
一方俺はどうしたらよいのか混乱してしまっていたが、最後の一言だけは聞き逃すことはできなかった。
村正の新しい持ち主?
「もしかして、君が村正を操ってたの?」
村正の本当の持ち主はこいつ?
だとしたら…見逃す訳にはいかない。
「まあ、一応持ち主ではあるかな」
何てことないようにそう言った。
今もつねやぎやまを含めた大人数が入院していたり通院している。
自殺した村正の所有者だって、もしかしたらただ操られていただけかも…
そう思ったら腹の底から怒りが沸いてきた。
「君、いやお前、人を何だと思ってんだ…!」
こんなやつが好き勝手にやってきたからみんなは…!
こいつは放っておいたら多分、いや確実に何かしでかす。そう思った。