表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/289

百七拾七

午後7時頃。通行人からの通報により、稲穂学園近くの工場に潜伏していた殺傷事件の容疑者となる青年の身柄を拘束。


発見当初、青年の周辺には十数人の工場関係者が¨無傷のまま意識不明の状態で¨無造作に横たえられていた。


警察の呼びかけにも応じず、数人の警官を所持していた日本刀らしきもので昏倒させ逃走。


十数分の追跡の後、近所のバラ園周辺で呆然と立ち尽くす容疑者を確保するに至る。


容疑者となる青年は無抵抗のまま署まで連行されたが、日本刀は所持していなかった。


凶器をどこで捨てたのか、何故事に及んだのかといった質問に青年は自我を喪失したような様子でこう答える。


「何のことですか?そもそもなんでぼくはここに連れてこられたんです?」


青年は事件に関する一切の関与を否認。


事件の詳細を知るとショックを受けたように口を閉ざし、数日後自殺。


事件の真相は青年の死と共に闇の中に消えていった。


6月25日(月)?時??分


【無制限共有フィールド】


辺りは無音と漆黒とに閉ざされ、弱々しく点滅する街灯のみが唯一の光源である。


そんな無制限共有フィールドの稲穂学園からほど近い位置にあるバラ園。


そこに一人静かに立つ青年の姿があった。


目の前にはアスファルトの地面に深々と突き刺さった、禍々しく血に染まっている日本刀。


全身から黒々とした霧状の何かを発するその日本刀は、見るもの全てを引き寄せる魔力のようなものを発していた。


「よし、これで参戦者の過半数がしばらくの間試合には出れない。当分邪魔してくるやつもいないし、計画通りだ」


青年は懐から純銀性の太い鎖を引き出すと、日本刀に直接触れないように注意深く巻き付けた。


すると刀からは禍々しいオーラが消え、普通の日本刀となる。


それを今度はしっかりと掴んで小さく呟く。


「おやすみ、《村正》」


日本刀、村正を消すと青年は機嫌よく近くのベンチに座る。


「…村正越しに様子を見てたけど、何人かが邪魔さえしてこなければもっと多くの参戦者を再起不能にできたのにな~。体を借りてたあの子を刺した生徒…確か阿部君、とか呼ばれてたっけ。他にも何人かのリアルの素顔も見れたし、まあ誤差は気にしないでいこう」


青年は立ち上がり大きく伸びをしながら呟いた。


「狂ったこの世界を作り直すためにも、絶対にこの¨神を堕とす者¨を優勝しなくちゃ」


そう宣言した直後、バラ園に青年とは別の気配が生じた。


「やっと見つけたぞ!何度も偽物を掴ませやがって…。とうとう尻尾を出しやがったな!」


振り向くとそこには闇に溶け込んでしまいそうな黒いライダースーツに身を包んだ童子切の姿があった。


ここ数日¨鬼¨を探し回っていた童子切は、ようやく正体を現した所有者に向かって獰猛な笑みを浮かべた。


「毎回毎回ここぞという瞬間に姿を消していたのは、どうやら【神器】のみを一般人に寄生させて、危うくなる度に¨現実¨に移動させてたからだったのか。


【神器】に狩りをさせ、所有者であるお前は安全な位置で得物を持ち帰ってくるのを待ってたってか。気に入らねえな」


¨鬼¨の仕組みについて理解した童子切の指摘に青年は声を出して笑った。


「あはっ!だったらどうだって言うの?別にこれは村正がやったことでぼくが命令したなんて証拠はないよ?」


「あ゛ぁ゛?」


青年の言いぐさに、あまり気の長くない童子切の沸点は一気に上昇していく。


「まあおじさんの推理、というか推測が合ってるかどうかなんてどうだっていいよ」


「おじ…」


童子切の沸騰しかかった頭が急激に冷え込む。


「…くくく」


そして暗い笑みを浮かべた童子切は腰に帯刀していた日本刀の柄に手をかけた。


「ボス!」


それを止めたのは離れた位置で待機していた数人の部下だった。


「落ち着いて下さい、ボス!まだこいつには聞かなきゃいけないことがいくつか…」


「…ちっ」


童子切が苛立だしそうに抜きかけの刀を戻すと青年が立ち上がった。


「面倒なことは嫌いなので、そろそろ失礼しますよ」


「おい、待てガキ。話を聞いてなかったのか?てめぇは…」


しかし童子切の言葉を遮るように部下とは別の気配が複数出現した。


「…なんだ?」


姿を確認するまで気配すら感じ取ることができなかった童子切は目を見開く。


目の前の青年と同年代と思われる(すなわち童子切から見れば子供)人影がぐるりと童子切達を囲んでいた。


「おじさんたちのことは村正を通して知っています。もちろん何が有効かも」


「なにを…」


しかし童子切を含め虎武羅の面々は自らの意思とは別に唐突に姿を消す。


残ったのは緻密な装飾の施された小さな手鏡を掲げた青年たち。


中心に立つ青年は手鏡の一つを受け取り、そこに写る憤怒の表情を浮かべた童子切に満足そうに笑う。


「よし、天下五剣の一振りは手の内に堕ちた。¨断罪の一撃¨は双方の世界での活動を活発化させる」


「「「了解」」」


青年たちは返事と同時に姿を消し、辺りには再び静寂が戻った。


6月26日(火)10時30分


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ