百七拾六
6月25日(月)20時45分
長い事情聴取の末、俺はやっと中年の警察二人から解放された。
ここは稲穂町にある総合病院で、稲穂学園の被害に遭った生徒や教師がまとめて運び込まれている。
見た目には傷を負っていない俺のような生徒は病院の控え室で警察から職務質問の受け答えをさせられていた。
俺は早く腕を斬られて10針近く縫う手術を終えたぎやまの見舞いに行きたかったのだが…。
しつこいくらい何度も同じ質問をされていて気がつくとこんな時間だった。
まあぎやまの場合、事件のことをニュースか何かで知った舞霞が飛んできてたからいいのかもしれないが。
あの後つねに強制的に引きずり込まれた村正は一分ほどして復活した。
直後つねの全身には傷が浮かび上がりそして吐血。
ちなみに今は集中治療室にいるため面会謝絶だ。
村正は標的を変えたらしく他の生徒の元に去って行った。
黒い霧に少し囲まれていた俺たちは気力を奪われてしまい、傷を負っていたぎやまは危うく出血多量で死ぬところだった。
病院に搬送されてから聞いた話だと村正、あの¨村正¨の所有者はあの後避難途中の生徒に襲いかかり、多くの負傷者を出したそうだ。
あの状況で俺たちの手で止められたとは思えないけど、あの後に被害があったとなると何となく引け目のようなものを感じる。
村正は俺が刺した傷口から少なくない量の血を流していたとは思うが、未だに警察でも捕まえられていないそうだ。
目印のように床に垂れていた血痕は稲穂学園の近くにある用水路で途切れていたと聞く。
…今でも村正を刺した時の感触が生々しく残っていて、何度もフィードバックする。
何度も何度も手を洗ったのに、手に血の匂いがこびりついているような気がしてならない。
俺の事情聴取が長引いたのもこのためだ。
俺は何にせよ村正を刺した。
鬼丸のことは言えないので、もみ合ううちに村正の刀で刺してしまったことにしたが、傷害の罪に問われるかとヒヤヒヤした。
しかし状況が状況だし、今のところ死体も見つかっていないためおそらく正当防衛で罪にはならないだろうとのことだ。
俺は迎えの車の中で親から質問攻めにあったが適当にごまかしつつあったことを整理していた。
おそらくしばらくの間稲穂学園は休校になるだろう。
俺たち全員は村正から壊滅的とまではいかないが、そうとう深いダメージを受けた。
村正の思惑は俺たち全員を戦闘不能状態にすることだったのだろうか?
何となく違う気がする。
イメージと言うか体感した違和感。
言葉にできない不安定な思考は疲労によるものなのか、はたまた呪いによるものか。
俺は家に着くなり着替えることなく横になる。
8時頃にメールを受信。
村正の所有者(6ハウスの三年生)が逮捕されたらしい。
つねの携帯を使ってジミー(神器の方)が教えてくれた。
呆気ない結果に違和感は膨れ上がるが、依然として答えは見つからない。
そして零時になり、朝になった。
つねの時同様に多分村正の¨呪い¨だろうか。
俺は結局【無制限共有フィールド】に行くことはできなかった。
6月25日(月)?時??分