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百七拾五

6月25日(月)14時21分


「うあ!?」


目の前を光が満たしたと思ったら、次の瞬間胸に鋭い痛みを感じた。


見ると心臓のあたりに刃が突き刺さっている。


元を辿ってみるとすぐ前につねの背中があった。


どうやらあっちにいたのはこちらの数秒から十数秒くらいだったらしい。


すぐに刃を引き抜き息をつく。


痛みはあるが傷はおろかワイシャツには染み一つない。


俺は貫かれたまま動きを停めたつねと、その向こうにいる村正を見た。


どうやら村正の意識はまだつねが引き留めているらしい。


俺は鬼丸を具現化し、村正に向かって振り下ろした。しかし、


ガッ


鬼丸の刀身は村正の刀を持たない方の腕に阻まれてしまった。


「っ!?」


時間の流れる速さの異なるあちらとこちらの世界では、つねの命を懸けた足止めもほんの数秒程度にしかならなかったらしい。


目が合った。


吹き出す冷や汗。


村正はつねから日本刀を引き抜き、今度は逆に硬直した俺に向かって振り下ろしてきた。


「阿部君!!」


ドンッ!


しかしそれを防いでくれたのは走ってきたぎやまだった。


おそらく目覚めると同時に他のハウスからここに向かって走ってきたのだろう。


ぎやまの体当たりのおかげで刀の軌道はずれ、ワイシャツの袖口を掠るだけで済んだ。


「阿部君逃げて!オレが抑えとくから!」


村正の全身を鎖鎌で拘束したぎやまがそう言ってさらに鎖を強く締める。


鎖は今にも砕けそうに軋んだ音を立てている。


「でも…!」


「いいから!」


躊躇う俺にぎやまの追い詰められた声。


村正はいったん消した日本刀を再び出現させ、手首を捻ってぎやまの腕を斬りつけた。


「うああぁ!!」


腕からは血が溢れ出て、ぎやまが悲鳴を上げる。


どうやら普通に斬れる場合と幻痛のみを引き起こす場合があるらしい。


だが今はそんなこと悠長に考えている場合じゃない。


俺はぎやまを置いて行くことができず、鬼丸を抜刀すると村正の胴体に突き立てた。


ズシャッ!


皮膚を裂き、肉を断ち、人体を刃が通過していく生々しい感触が鬼丸を通して伝わってきた。


¨夢¨ではなく¨現実¨で初めて人を刃物で刺した。


闘うのは慣れていたはずなのに、ほんの少し¨夢¨と違う違和感に思わず怯んだ。


急激に生じた吐き気に思わずえずく。


だがその瞬間村正の全身から大量の黒い霧が噴き出し、俺たちまでも巻き込んだ。


「う…」


急に意識が朦朧としてくる。


目の前が靄がかかったように霞んだ。


ぎやまも同じなのかとろんとした目をしているのがかろうじて確認できた。


ガッギンッ!


弛んだ途端村正の腕力で鎖が弾け散る。


そして床にへたり込んだ俺に向かって再び村正が振りかぶり…


「キャハッ!」


その腕を誰かが掴んだ。


「もっと遊ぼうぜ、村正ちゃんよぉ!」


「つね?」


一瞬誰だか分からなかった。


それは目を覚まして一気に村正との距離を詰めたつねだった。


つねは狂った笑みを顔に貼り付けたまま村正を押さえ込み、はっきりとした口調で呟いた。


「《我夢と現の狭間にて神を堕とす者なり》!」


つねと村正は同時に床に崩れ落ちた。


突然の出来事に、俺たちはそれを見ていることしかできなかった…。


6月25日(月)20時45分

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