百七拾四
6月25日(月)?時??分
二人が立ち去ったことを確認する間もなく宮崎の体は盾にした斬馬刀ごと吹っ飛び、背後の円柱にめり込んだ。
「かはっ!…くそっ!縛りプレイとか言ってる場合じゃないな(汗)さすがにまだ死ぬわけにはいかないし…てかラ部(笑)の時みたいに柱に縁でもあるのかね」
柱の破片を払いながら素早く立ち上がる。
宮崎は村正にやられたらどうなるかを知っている。
¨現実¨で襲われた生徒は村正の纏う黒い霧のようなものに侵され、一時的に¨欠片¨はおろか身体機能すらもだいぶ抑えられてしまう。
¨現実¨でも密かに村正となった生徒に当たりをつけて尾行しているうちに現場に遭遇してしまった宮崎は、二人以上に¨村正¨の危険性を熟知していた。
情報の重要性やその価値を知る宮崎は、生来の癖でどうしても真実のみを告げることができない。
それに口下手さが加わって最低限の情報しか阿部達に伝えることができなかった。
「トンちゃん、¨拐¨になるよ」
『うむ』
ナイフと短剣を投げて牽制しつつ宮崎はトンファーを構える。
「《我に理不尽な力を与えよ》」
宮崎とトンファーの波長がシンクロし、そして一つになる。
「『ふむ、この状態でどれだけもつか…」』
全くと言っていいほど村正は以前とは実力が違う。
おそらく前回襲われた時真っ向勝負ならば五分の闘いに持ち込めた。
呪いをかけられた後も記憶を探って村正の能力や癖なども研究していた。
しかしほんの数日で村正は比べ物にならないくらいレベルアップしてしまった。
宮崎の見立てではおそらく村正は倒した相手の¨欠片¨を吸収し、それを力に変えている。
ただでさえ¨欠片¨も【神器】も封じられていた宮崎にはブランクがある。
状況は圧倒的に宮崎に不利だった。
「『せい、はあ~!!」』
かけ声と共に放られた円柱の破片を村正は無造作に両断する。
そしてさらに間髪入れずに飛んできた数本のナイフをかわし刀を振るう。
「『ふん!」』
それを正面で受けるのではなく交差したトンファーで受け流した拐は流れるような動作で村正の懐に入る。
「『破!!」』
轟!と凄まじい気迫で放たれた拳が村正のいた空間を通過し背後の壁に穴を開けた。
「『喝!!」』
回転しながら拳を避け、その勢いを利用して振るわれた刀は拐の首に届く前にただの気迫に阻まれた。
「『ぬあぁ!!」』
床を陥没させる勢いで飛び出した拐はトンファーを拳と一緒に突き出す。
ドオッ!!
トラックを正面から粉砕できるであろう拳も当たらなければ意味はない。
ただ正面に残った円柱を跡形もなく破砕するに止まった。
「『ぬぅ!?」』
一瞬で消えた村正に戸惑い拐は動きを止めた。
ズッ
途端に天井を足場に降ってきた村正の刀が拐の左肩に突き刺さる。
「『ぐ…」』
かろうじて脳天への直撃は避けた拐だったが、左肩の傷は浅くない。
村正は引き抜く際に大きく穴を穿つように傷跡を広げていった。
「『ふおぉぉぉお!!」』
満足に動かない左肩を治す隙もなく斬りつけてきた村正を正面から防御する。
右手を始め次々と裂傷が刻まれていく。
「『うるああっ!!」』
縮地によって再び村正の懐に潜り込んだ拐は動く右手で村正の首を掴み上げた。
そして斬りつけられるのも構わずに何度も床に叩きつける。
しかし途中で村正の刃が閃き、がら空きだった左わき腹に深々と突き刺さった。
「『がはっ!」』
内臓にまで達する傷に思わず村正を掴む握力が弛む。
その隙を逃さず一瞬で拐の射程圏から移動した村正は突如として動きを止めた。
「『む?」』
訝しむ拐に背を向けると、村正はいきなり走り出した。
「『ま、待て!」』
面食らった拐だったが、村正が向かった先が阿部と杉山が逃げた方向だと気づくや追いかけようとした拐だったが、
「『かはっ!」』
度重なるダメージにより吐血。
尋常じゃない量の血が湯水のごとく溢れ出た。
体はすでに黒い霧に侵され、傷口からはどんどん血を失っていく。
拐は膝をつきすでに見えない村正に向かって手を伸ばした。
「トンちゃん、」
姿は拐のままに宮崎の声と口調に戻った。
「¨喰らう¨よ」
突如として纏わりついていた黒い霧ごと傷口が吸い込まれるように消えた。
白髪だった髪が黒く染まる。
「キャハッ!」
6月25日(月)14時21分