百六拾四
6月23日(土)?時??分
コロシアム
【【試合開始!!】】
一気に広まる熱気。
どこまでも上がっていく闘争心。
俺は闘技場で対戦相手と向かい合った。
6月22日(金)17時??分
「…とりあえず、今日はここまで、かな?」
「あ、ありがとうございました…」
宙に浮かぶ砂時計の砂が落ちきり、三日月の厳しい修行が終わった。
この砂時計は三日月の所有する【神器】の一つで、最初に指定した時間を知らせてくれる。
…正直普通の砂時計とどこが違うのか分からない。
美しい装飾を施された枠に透き通った二つの水晶がはめ込まれ、その中を黄金の煌めきを放つ砂が移動していく。
もしかしたら鑑賞用として使っているのかもしれない。
「試合では、¨光¨は使っちゃだめ」
「え?」
「不特定多数の中で見せていいものじゃ、ない」
「えっと、はい。分かりました」
せっかく修行して前以上に強くなれたが、三日月(仮にも師匠)にそう言われてはしょうがない。
道場とか流派によって門外不出の技とかあるし、そういうものなのかもしれないな。
「極力自分の剣術だけで闘えるほうがいい。¨光¨や、それに類するものに頼りきって使いすぎれば、いざという時、自分自身を追い込むことになる」
「分かりました。とりあえずよほど追い込まれた時以外は極力使わないように気をつけます」
別にそんな追い込まれる機会なんてそうないだろうし。
それに試合じゃ実際死んでも起きた時に幻痛があるくらいだしな。
別に試合じゃ忍者ほどの強敵にはまだ当たってないし。
「ま、¨光¨より刀(鬼丸)のが使いやすいしな」
この時の俺は、後から思い返すととんでもなく甘かった。
強い力にはそれなりの代償があるのは当たり前だし、いくら修行して手に入れた力だとは言え本来こんな力は有り得ないものだ。
それなのにいつの間にか俺たちにはそれが当たり前のことになり、闘うことが普通になった。
俺たちは改めて自覚して、覚悟しておくべきだったのだろう。
力を、¨欠片¨を、【神器】を一時的にとはいえ使えなくなったつねがどうなったのか。
非日常を日常に取り込んだ代償は必ずいつか自らに返ってくる。
力と記憶を失ったぎやまが、再びそれを手に入れた結果暴走しかけたように、この日常は俺たちには過ぎたものだった。
ただの¨夢¨に過ぎなかったものが、確実に俺たちの¨現実¨を取り込んでいく。
6月23日(土)?時??分
「せあっ!」
上段からの一撃は空をきり、続く切り上げは相手の剣に止められた。
一瞬の鍔迫り合いによって生じた火花が消えぬ内に、再び剣と刀は交差する。
「りゃ!」ガギンッ
踏み込んだ突きをクロスさせた双剣で防がれたのを機に一旦距離をとった。
「…強い」
何故だろうか。今日の相手は今までと違って纏っている空気が違う気がする。
なんというか、ただの生徒でないというか、まるでプロや師範級の大人と対面しているような重圧感がある。
そういえば昨日に比べて今日は癖のある相手にばかり当たる気がする。
観戦席からはいつもより声援が少ない代わりに、どこか互いの実力をさぐり合うような緊迫した空気も感じられた。
「ふん!」
「くっ!」
一旦離れた距離を詰められ、重い一撃が叩きつけられた。
芯に響くようなまっすぐな衝撃が受け止めた腕からつま先まで駆け抜けていく。
『(…まずいな)』
「(どうかした?鬼丸)」
突きのモーションで牽制しつつ、鬼丸の呟きに聞き返した。
『(確証はないが…もしかしたら…)』
再び双剣遣いの猛烈な連続攻撃。
俺はじりじりと闘技場の壁に向かって押されていった。
『(何人かの参戦者が神器に乗っ取られてるかもしれん)』
6月23日(土)?時??分