百六拾
6月22日(金)13時25分
S市某病院
俺とぎやまは学校が休みなのをいいことに、昼過ぎからつねが入院しているという病院に来ていた。
最寄りの駅からは徒歩15分くらい。
「ここか…」
俺たちは受け付けでつねの病室を聞き、エレベーターで移動する。
金曜日の昼過ぎだからか、思ったより人が少ない。
受け付けで聞いた病室の前にたどり着き、ゆっくり扉を開ける。
すると左右に3つずつ並んだベットが目に飛び込んできた。
奥の一つだけカーテンに覆い隠されている。
都合のいいことに同室の人はいないようだ。
一応プレートに書かれた名前を確認してから、カーテンを開ける。
そこには…
「…くくっ」
ブックカバーに覆われた本を読みながらニタニタしているつねの姿があった。
「「……。」」
俺とぎやまは無言で顔を見合わせ、そしておもむろに近くのベットの枕をつねの頭に叩きつけた。
6月22日(金)13時35分
つねは何故か室内で帽子のようなものをかぶった頭を揺らしながらふくれっ面になっている。
枕の衝突で読書が中断されたのが原因らしいが、こちらとしては意識不明だとか聞いて駆けつけてみればこれだ。
一発殴りたくもなる。
「酷いことするねー(怒)一応これでも入院なうなんだよ?」
そう言ってこれ見よがしにベットを叩く。
「宮崎君見た感じ元気そうじゃん。襲われたんじゃなかったの?」
ぎやまの言う通り、見た感じまったく傷もないし、強いて言うなら顔に若干血の気がないくらいか。
「ああ、傷はないようなものだからね」
そう言ってつねは服をはだけた。
元々あった細かい傷跡以外、傷らしいものはほぼないと言っていい。
無駄に鍛え上げられた胸板が憎らしい。
「見ててみ」
そう言ってつねが力を込めるような動作をすると…
「な、何これ!?」
「うわ…」
つねの皮膚に傷跡が浮かび上がってきた。
「これ、普通の人には見えないみたいだよ。…こうやって¨欠片¨を使おうとすると出てくる。今のおれはこいつのせいで¨欠片¨や【神器】を使えないんよ」
ゆっくりと、よりリアルに傷跡が浮かび上がり、ついには…
「うわ…グロい」
まさに今つけられたような生々しい傷跡が体中に這っている。
「これ、痛くないの?」
試しに聞いてみると、現在進行形で常に痛みがあるらしい。
意識不明だったのはその激痛が片時も治まらない状態だったからだとか。
「でも昨日聞いたかぎりじゃ、他の生徒はすぐ起きられたんじゃなかったっけ?」
そう言うと、つねは一瞬考えるように間をおき、それから話し始めた。
「…おれの体って怪我しやすいのしってるよね?両肘両腕を壊して二度と野球はできないし、所々無理を重ねてきたせいでボロボロ。いきなり走れば必ず肉離れを起こすし、しょっちゅう右手の親指の骨は外れる」
え、いや、そこまでは知らなかったけど…
「でも最近は¨欠片¨のおかげで古傷の調子もよくなったし、軽いキャッチボール程度ならできるようになった」
¨欠片¨によって古傷の制限が緩和されたが、まだまだ完治したわけではなかった。
「それを常に¨欠片¨で補ってたんだけど、村正ちゃんに斬られたせいでなくなっちゃってね(笑)反動か何か知らんけど体がボロボロ状態に戻ってこの有り様さねwwまぁ見た目には怪我とか無いように見えるから今日検査して明日には退院できるよ」
つねは明るくそう言うが、俺はかすかに震える指先を見逃さなかった。
無理しているのを隠しているみたいだ。
「そういえば、¨欠片¨も【神器】も使えないならどうやって昨日【無制限共有フィールド】に来たの?」
「ああ、それはジミーに協力してもらったんよ。【神器】の中でもジミーはイレギュラーみたいでさ、単体でいられるみたい(笑)だからおれからの伝言と映像を伝えてもらえたんよ」
そうだったのか。だから途中でジミーに戻ったと。
それにしちゃリアルタイム映像みたいにちゃんと受け答えできていたような…?
「一応おれとは契約的なものが繋がってるみたいだから、【神器】を使えなくてもある程度共有できるみたい。だからしばらくはジミーを仲介して協力させてもらうよ。たぶん少しすればこの¨呪い¨も解けるから」
6月22日(金)17時??分