百五拾八
6月21日(木)18時??分
「ぎやまが電車に乗るのを見送ったあと、軽くTSU○YAで本を物色してから帰ったんよ…」
つねは顎のあたりを掻きながらあったことを説明してくれた。
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いつも通りの向かい風にテンション高く自転車を漕いで稲穂街道を爆走(時速40キロくらい)してたんよー
5分くらいは普通に車道(歩道にあらず)を走ってて、ちょうど信号に引っかかった時だったかな。
背筋が急に寒くなったんよ。
なんていうか、こう、ゾクゾクうっふん♪みたいな。
それが気になったおれは信号待ちを止めてゾクゾクうっふん♪とする方に方向転換したんだ。
あ、いや、ふざけてないって。
本当にゾクゾクってきた後にうっふん♪ってきたんよ!
…ゴホン
まあ、なんだ。とりあえず走り回る件は飛ばすな。面倒だし。
それで気配のする場所に向かったわけだけど、途中からいきなりそれが掻き消えたんよー(驚)
あまりに唐突すぎるし、¨隠形の術¨でも使ったのか、はたまた¨消命¨でもしたのか…
あ、¨隠形の術¨ってのは陰陽道の術で、¨消命¨はそれとは違うけど似たような技だよ。
まあ詳しくは今度説明するから。
それで、いきなり気配の消えた辺りにまで行ったのはいいんだけど、そこには何も、誰もいなかった。…訳じゃない。
そこには私服姿の稲穂学生がいた。…胴体におっきな傷を負ってね。
なんでそいつが稲穂学生だと分かったかって言うと、救急車を呼ぼうとした矢先にそいつの傷が跡形もなく消えたからなんよ。
え、説明?
まあこれだけじゃ分かんないか(笑)。
倒れてたその男子生徒なんだけど、すぐ目を覚ましたから事情を聞いてみたんよー。
そしたら稲穂の後輩みたいで、しかも何で自分がここにいるのか思い出せないみたいだった。
その時トンちゃんが教えてくれたんだけど、そいつに¨欠片¨の残滓と【神器】の気配が少しだけ残ってたらしいんよね。
リタイアしたのと同じ状態で、闘いに関する記憶は全て失ってしまったと。
これっておかしいよね?
だってカリヤ…おいおいぎやま、名前だけでそんな殺気を放つなよ。
まったく…あいつの言う話じゃ、もう自力でのリタイアは出来ないはず(‐ω‐)
なのにその生徒はリタイアしたみたいに記憶を失っていた。突然消えた傷跡と同じように。
とりあえず念のためそいつの体に異常がないか確かめて…変なことはしてない。断じて(‐ω‐)
大丈夫みたいだから気になりはしたけど一旦帰ることにしたんよ。
だけどどこぞやの頭脳は子供見た目は大人な探偵君みたいに、事件はそれだけじゃ終わらなかった。
その後も何度か同じことがあったのだよ(キリッ)。
……。
ツッコミはなしですかい?
…(しょぼん)
ゴホン
少なくとも三回。
おれが最初の生徒を見つけてから、一時間の間に三回ゾクゾクきて三人の生徒をみつけた。
どいつもこいつも最初と同じで記憶をなくしてたよ。
まあ移動に手間取ったせいでもう傷跡は消えてたんだけどね。
つっても二人目の場合は服にも傷があったんだけど、記憶をなくしてたのは同じだった。
それぞれの場所は稲穂学園を中心にバラバラ。
おかげでだいぶ時間をくったよ。
まあここまで言えばもうお分かりだろうけど、どうも犯人は後を追うおれの存在に気がついてたみたいなんよ。
四人目の無事を確認した直後に背後を取られてね。
いきなりズバン!
人目も何もあったもんじゃない。
白昼堂々と日本刀を振り回してきたよ。
こっちは丸腰だったから好き勝手やられちゃってねー(笑)
…不思議なことに、鉄パイプもガラス片もそいつにはまったく当たらなかった。
避けられたんじゃない、当たらないんよ。
間違いなく命中したはずなのに手応えがなくて、傷一つなく向かってくる。
しかもそいつの攻撃は当たると傷ができて激痛が走るのに服には一切の跡が残らない。
いい対抗手段も思いつかなかったし、強烈なの数発食らった直後に死んだふりをしてみたわけよ(笑)
それでもまだ日本刀を突き立てようとしてくるからもしかして、って思って試しに¨欠片¨を消してみたわけだが…
それが大当たりだったみたいで、そいつは日本刀を¨消して¨そのまま自身も消えたんよ。
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「宮崎君、それって…」
つねの話にぎやまも気づいたようだ。
「まさか…¨鬼¨?」
つねは首を傾けながら肯定した。
「そう、たぶん最近の不審者も¨鬼¨であってると思う。実際おれも被害にあったしね(笑)」
言葉とは裏腹につねは首を傾けたままだ。
「…少し前に見かけたときより格段に強くなってた。ぎやま、悪いけどまずこっちを片付けるのが先になりそうだよ。
¨鬼¨はおそらく¨欠片¨を感じ取って参戦者を襲ってる。【無制限共有フィールド】だけでなく¨現実¨でも狩りを始めた以上、前以上に問題だよ。
いくつか不振な点もあるし、カリヤへの復讐を磐石な状態で果たすにはおれたち全員が襲われる可能性のある¨鬼¨を倒してからだ」
珍しくつねからふざけた様子が見られない。
それどころかいつになく真面目な雰囲気だ。
「…そうだね」
ぎやまも¨鬼¨の危険性を理解できたのか頷いた。
「いきなり背後から襲われるかもしれないんじゃおちおち破壊活動もできないし、それにいくら¨鬼¨でもオレたち三人ならすぐにどうとでもなるだろうしね」
そうと決まれば改めて話し合いを…
だがそこでいきなりつねの体にノイズが走った。
「え?」
「どうしたの、宮崎君!」
つねは両手をお面の前まで持ち上げ、体中に走るノイズを見ると嘆息する。
まるでこうなることを予測していたかのように落ち着いた様子だ。
「ふぅ…時間切れか」
そう呟いた直後、突然つねの体から淡い光が立ち上り、その姿を変えた。
6月22日(金)?時??分