百五拾参
6月21日(木)?時??分
【勝者、ウルトラマン!】
デュランの宣言と共に観戦席からは惜しみない拍手が送られてくる。
しかし俺は構えを解けずにいた。
何故なら勝敗が決してなお、つねは地面に膝をついていないからだ。
俺が勝ったのは判定によるもの。
つねは左腕からの大量出血による失血で意識を失った。
補足しておくと、俺はつねの体に一度として傷を負わせることができなかった。
丸腰な相手に鬼丸を使う気にはなれず、俺は結局つねに刃を向けることもしなかった。
刻一刻と血液を失い、死に近づいていくつねの猛攻は筆舌し難いものがあり、異常なまでに膨張した筋肉の鎧に、俺の拳はおろかタイマーフラッシュまでもが弾かれた。
だいぶ手加減したとはいえ、タイマーフラッシュを受けた右腕には焦げ目すらなかったのは正直ゾッとする。
最終的にどれだけ攻撃してもダメージの通らない打撃系の攻撃は止め、龍鳴閃を連発する戦法に切り替えた。
だが三角器官が狂い、まともに直進ができなくなってなおつねは暴れ続けた。
もはやあれは手負いの獣。
もし五体満足だった場合、鬼丸を抜かないで闘えば間違いなく俺が負けていた。
6月21日(木)?時??分
「阿部ちゃん」
「つね…」
【コロシアム】の扉から出ると、すでにつねが扉の前で待機していた。
「やっぱり阿部ちゃんは強いねー(‐ω‐)
さすがに丸腰&片腕じゃ勝ち目なかったよ」
「いや、正直ヒヤヒヤしたよ。つねの攻撃を一発でもくらってたら即死んでただろうし」
「はっはっは( ̄∀ ̄)
当たらなければ意味ないさー(笑)」
(笑)って…
そういえばなんでつねは語尾をわざわざ顔文字で、しかも声に出して言うんだろう?
かっこわらい、って。
「さて、じゃあ行こうか阿部ちゃん」
「へ?行くってどこに?」
どこかに行くなんて話聞いてないけど。
「いや、さっきちらりと見えたんだけどさ。なんかぎやま、また稲穂の敷地から出てったみたいなんよ(←これ重要」
「え?まじで?」
またぎやまは一人で…
そういえばまだぎやまが何をしているのか詳しく聞いてなかったな。
「急いだほうがいいかもね。…最近の【無制限共有フィールド】は物騒だから(‐ω‐)」
「ああ…」
そうだ、三日月にも確かそんなことを言われていた。
今【無制限共有フィールド】に出るのは危険だとか。
「じゃあ早くぎやまを連れ戻さないとね。何があるか分かんないし」
「鬼の出ぬ間に退散できるといいけどねー(‐ω‐)」
この時のつねの一言がまさか不吉な影を落とすなんて、まだこの時点では分からないことだった。
6月21日(木)?時??分
時計台の鏡を使ってぎやまを追って10分。
俺たちは大量の¨断獣¨と黒服に囲まれて闘っているぎやまに追いついた。
「待って、阿部ちゃん」
飛び出そうとした俺の肩を掴んでつねは落ち着いた様子で言った。
「なんでだよ、つね!あの数じゃすぐぎやまが…!」
少なくとも¨断獣¨(前に遭遇したものと同じ個体)が十数体。
少し離れた位置で傍観している黒服は6人ほど。
こんな状況でいつまでも保つとは思えない。
一刻も早く加勢するべきなのに…。
「阿部ちゃん、落ち着いて。…分からない?童子切さんが、くる」
「え?」
俺が聞き返した直後、¨断獣¨の群れの中心に一人の人物が降り立った。
だいぶ離れたここからでも分かる。
童子切、いや、安綱だ。
6月21日(木)?時??分