拾四
唐突に質問させてもらうが、君は生まれて初めて見たものを覚えているだろうか?
初めて聞いた音は?
初めて感じた痛みは?
たぶんそれらを完璧に覚えている人なんてきっといないだろう。
瞬間記憶能力、だっただろうか。それは生まれてから死ぬまでに見たり聞いたりしたことを決して忘れないという、聞いた限りじゃ羨ましいような能力だ。
学生なら誰もがその能力を欲しがるだろう。
その能力があれば受験で苦労することもないし、そもそも勉強する必要性だってない。
しかし逆に考えてほしい。
生まれてから死ぬまで、見たことも聞いたことも決して忘れることがないということは、忘れたいことも決して忘れることができないということだ。
事故の恐怖や失恋したときの記憶、思い出したくもないと思っていること。
その全てを忘れることができないのは、ストレスが溜まるし頭にも負担がかかる。
人は普通寝ることで脳をリセットする。
脳は無駄だと判断した事柄を1日の終わりに睡眠と共に忘れさせていく。
それは脳が全ての記憶を整理して、いらないものは切り捨てていくからだ。
それは生きていく上で必要なことだし、いつまでも同じものが頭の中を占めていれば負担もかかってしまう。
何故こんなことをここで説明したのかと言うと、俺が¨なにか¨に触れた瞬間、一瞬で頭に生まれてから今にいたるまでの記憶が一気に蘇ったからだ。
頭の中に一気に広がったそれらに、俺は一瞬頭が破裂したように感じた。
?月?日(?)?時??分
まるでもう一人の自分のような¨なにか¨に触れた瞬間。
俺は溢れ出した記憶の奔流に呑み込まれた。
体を動かすことも、何かを言葉にすることもできず、まるで早送りの映像を見るように、生まれてから今にいたるまでの俺の人生を追憶していった。
(いったい何が…!)
生まれてから瞼を開いて初めて見た景色。
今より若い父親と母親の顔。
近所に住んでいたおじさんやおばさん。
小学校入学、卒業。
中学校入学、転校。
失恋、失敗、受験。
受験合格、新たな道へ。
高校入学、退部、……
一気に蘇った記憶は、沸いては染まりそして俺の体から出ていった。
俺の中から出ていったものは触れ合った手から¨なにか¨へ流れていく。
そして全てが¨なにか¨に流れ込んでいくと、突如¨なにか¨は光の珠に変わる。
(…どうなって……)
うっすらと青く発光する珠は、ひときわ大きな光を放つと姿を変えた。
¨なにか¨から珠へと変わり、またそれが変化した跡には、一振りの日本刀が存在した。
?月?日(?)?時??分