百三拾八
6月19日(火)?時??分
宮崎の全力と童子切の三割の闘いが始まった頃、阿部は途方に暮れていた。
「いや、無理だろ…」
宮崎に言われて時計台の下まで来たのはいいが、宮崎は¨上¨と言っていた。
「ぎやまだったら楽に行けるんだろうけど…」
時計台は目測でだいたい25~35メートル(←大ざっぱ)くらいある。
杉山と違って鎖を伸ばしたりできない(そもそも持ってない)阿部には登る手段がない。
助走をつけても絶対的に¨上¨には届かない。
時計台には等間隔に通気孔のようなものが見えるが、間隔も広いし足場には出来そうもない。
「ウルトラマンみたいに飛べたらな…」
さすがに空までは飛べない。
せいぜい助走をつけて平行に10メートルといったところだ。
垂直にだといって3、4メートルか。
いくらウルトラマンの仮面をつけていても、自力で飛ぶ力は阿部にはなかった。
6月19日(火)?時??分
とりあえずいろいろ試してみた。
縮地を上に向かって跳んでみたり、時計台を斬りつけて足場を作ろうとしてみたり。
でもダメだった。
縮地はさすがに空中では使えない。
足場もある程度以上の高さになると届かない。
「どうしたらいいんだよ…」
この上に何かがあると言っていた以上、つねはどうにかして登れたはず。
でもその手段が…
『誰か来たぞ』
「え…?」
振り向くと傷だらけのジミーがこちらに向かって歩いてくるところだった。
「ジミー!」
ジミーの全身、特に胴体にはそこそこ深い裂傷がいくつもあった。
「あ、阿部君!まだ上にいってなかったの?』
「そんなことよりジミー、何があったの!?」
6月19日(火)?時??分
「…無茶するな~」
童子切の一撃を受けたジミーは、つねの手で戻されると見せかけて正門の中に投げ入れられたらしい。
とりあえずつねがまだ生きてることを願って、こっちは上に向かうことにした。
「こっちにぎやまの鎖があるんだよ』
ワイシャツを裂いて応急措置(包帯代わりに)したジミーは時計台の裏側に行く。
そこには簡単には外れないよう固定された鎖が、上に向かって伸びていた。
「迷わないようにずっと鎖を伸ばしてるみたい(ってつねが言っていた)だよ』
「じゃあこれを伝っていけば…」
ぎやまにたどり着くってことか。
「¨鬼¨も気になるし、さっさとぎやまと合流しよう』
6月19日(火)?時??分
時計台の上には【シュールバルタの鏡】に似た姿見が置かれていた。
鎖はまっすぐ鏡の中に伸びている。
鏡の中から鎖が伸びている光景は、ちょっとした芸術作品のようだ。
試しに鏡面に触れてみると、
「…あっ」
なんの違和感もなく手は鏡の中に吸い込まれた。
どうやらこれも【シュールバルタの鏡】と同じようなものらしい。
俺は念のため鎖を手繰りながら鏡を通り抜けた。
6月19日(火)?時??分
正門前
すでに闘いは数分間続いていた。
「はっ!口先だけじゃなかったようだな!
久しぶりぜ、三割とはいえ5分以上保ったのは!」
辺りには多種多様な武器が散乱し、まるで戦場のように荒れていた。
「は、はは(笑)さすがにきついかなー(これで三割とかどんな化け物だよ…)」
せっかくくっつけた左腕も今度はもげかけてだらんとしている。
「暇潰しも飽きた。…そろそろ、いくぜ?」
今までのお遊びとは違った気配が溢れ出す。
「んー。じゃあおれも奥の手を使わしてもらいますよー」
宮崎もそれに呼応してさらに実力が上がっていく。
静寂
再び闘いの火蓋は切って落とされた。
6月19日(火)?時??分