百三拾七
6月19日(火)?時??分
実に一年近い時間を【シュールバルタの鏡】の中で過ごした宮崎は、実のところかなりの実力と技術を身に付けていた。
精神的に生と死ギリギリの中で生き延びた経験は、宮崎に多くの経験値と技術を与え、誰よりも本質の近くを理解させるに至った。
(¨夢¨であれば死んでも体が¨欠片¨の状態にまで分解されて¨目が覚める¨。
多分その時に一部の¨欠片¨がゲームの経験値のように倒したやつの一部になるんだろうなー。
【無制限共有フィールド】では¨欠片¨が充満していないせいで死んでも¨欠片¨がその場に留まってしまう、と。
そんで¨欠片¨はそこで再編成される。
それを繰り返していればいつか¨欠片¨はなくなっちゃうだろうし、そもそも精神が保たない。
体の一部が破損した場合、¨夢¨と違って体から失われた部位は塞がるだけで元通りにはならない。
けど…)
独りで【無制限共有フィールド】で調べた結果分かった情報を再確認する宮崎。
ナイフによる牽制でできた一瞬で、宮崎は切り落とされた左腕の落ちている位置にまで跳んでいた。
左腕を右手で掴み、童子切から距離を置く。
一歩踏み出していた童子切は宮崎の行動に眉をひそめた。
(切り落とされた左腕をわざわざ取りに行った?…あのがき、何をするつもりだ)
すると童子切が見ている前で宮崎は切り落とされた左腕を切り株のようになった左肩に押し当てた。
「《繋がれ》」
宮崎が呟くと、分断していた腕が切り口にくっつく。
「…おー、痛い(棒読み)。
やっぱり¨夢¨とは一味違うなー(笑)」
くっついた左腕を動かしながら宮崎はわざとらしく呟いた。
宮崎は¨欠片¨の様子を長く観察することで、言霊による事象の変化について気づいた。
¨夢¨のように¨欠片¨が充満している場所であれば、言霊の響きを鍵として事象が変化する。
一見すると離れた位置に体のパーツがあっても、¨欠片¨に触れているため、簡単に治すことができた。
しかしその¨欠片¨のない【無制限共有フィールド】では、言霊を口にしても離れた位置にあるものを変化させることができない。
ならばと宮崎が試したのは肉体的に直接触れた物を変化させるということ。
阿部の¨光剣¨や杉山の¨鎖の伸縮¨は直接触れて変化させている。
ならば自分が肉体を変化させる要領でいけばくっつくんじゃね?
そんな宮崎の勘は見事に的中した。
「こりゃ早く教えてあげないとなー(笑)」
五体満足になった宮崎は時計台のある方を振り向いた。
「…おい、油断してんな」
一拍置いて宮崎の背後に現れた童子切は、デコピンで宮崎を弾く。
「五体満足になったからって、急激に強くなるわけじゃねえんだろ?だったら喧嘩の最中に意識を逸らすな」
まるで自動車に衝突したように宮崎の体は吹っ飛んでいき、正門の横の塀にぶち当たる。
「…あ?」
童子切は今し方宮崎の頭を弾いたはずの指先に違和感を感じた。
「痛たた(涙目)。ジミー、ありがと」
間一髪出現し、童子切の一撃を受けた斬馬刀の刀身には大きな亀裂が入っていた。
ジミーを仕舞い、手ぶらになった宮崎は仮面に手をかけた。
「そろそろ本気出しますよー。全力は久々なんで手加減とか無理なんで(笑)」
「あ゛?」
宮崎の本気発言は童子切の神経を逆撫でした。
今まで一割も出していなかった童子切は、むかつきによっていっきに三割近くまで上昇した。
(…基本的に参戦者には無干渉が原則だが、三割程度ならいいか)
筋の通らない理屈だが、童子切は三割の本気で宮崎と対峙した。
一方宮崎は、
「《出ろ》…!」
次々と現れる【神器】。
真っ黒に染まったお面の下では珍しく真顔。
「いくよ、トンちゃん…」
宮崎は出せる全力で童子切に向かって行った。
6月19日(火)?時??分