百三拾五
6月19日(火)?時??分
「おい、どうなんだ」
なんの反応も返さない、いや返せない俺達に苛立ったのかその男はゆっくりと近づいてくる。
俺の頭はパニックのせいか真っ白になってしまった。
鳴り止まない警鐘のせいで耳鳴りを起こしたような錯覚に陥った。
「ちっ!まだ何もしてねえってのに、だらしねえがきどもだ。…おい!」
男は俺の背後、つねが立っている方を向いた。
視線がずれただけでずいぶんと楽になる。
ほんの少しできた心の余裕から、左腕を切断されたつねのことが心配になった。
だが今はこの男から目を逸らしたくない。
逸らした瞬間に今度は俺の首が持ってかれそうだ。
「そこのがき、悪かったな。いきなり斬っちまってよ。
お前の口から俺がこの世で一番嫌いな言葉が聞こえた気がしてな」
それだけの理由でつねの左腕を切り落としたのか!
男は俺のすぐ近くで止まった。
一瞬俺の心臓も止まるかと思った。
「それでさっきお前は何て言いかけたんだ?
¨鬼¨…。
もしかしてそれを見かけたのか?」
思い切って振り向いてみると、つねは左肩の傷を無頓着に眺めたまま微動だにしていない。
もしかしたら貧血でも起こしたのかもしれない。
今なおつねの左肩からは滝のように血が溢れている。
つねは左肩から視線を外し、やっと前を見た。
お面越しに何やら呟いたようだ。
すると肩から流れ出ていた血が止まり、傷口が塞がった。
どうやら言霊を呟いていたらしい。
「んー、¨鬼¨ですか?」
あれだけ血を流したというのに、つねはいつもと変わらぬ脳天気な口調で答えた。
「さすがにタダで情報は教えられませんよ(笑)
友達なら要検討ですけどね(笑)」
何言ってるんだ!?
一気に血が抜けて頭に回ってないのか?
なんの気配もなく、離れた位置から自分の腕を切り落とした相手に向かって何て態度だ。
すると男はつねの動じない(頭の足りてない?)態度が気に入ったのか、強面(あ、でも結構イケメンだ)な顔に笑みを浮かべた。
「はっ!そりゃあそうだ!いきなり腕を切り落とした挙げ句、情報まで寄越せだなんて山賊みたいな真似だったな!
いいだろう、その情報に見合うだけの見返りを用意してやる。何がいい?」
男の言葉につねは軽く首を傾げた。
「えっと、とりあえず名前教えてもらっていいですか?」
「名前?ああ、構わねえよ」
男が名乗りをあげた。
「俺の名は童子切。¨虎武羅¨って組織のまとめ役なんかをしている」
コブラ?
もしかして暴走族?
いや、今風にコブラ組とかいうヤクザ屋さんかもしれない。
「それでお前は?俺が名乗ったんだ。お前も名乗りな」
「ん~、自分のことはつねとでも呼んで下さいや(‐ω‐)
それで情報料ですが…」
そこでなぜかつねは俺のほうをチラリと見て、
「軽く手合わせしてもらえますかね?最近強い人との闘いがご無沙汰なもので」
「ちょ!つね、何言ってんの!?」
不意打ちとはいえ簡単に片腕を落としてきた相手(童子切)に何を言ってるんだ?
だが男、童子切はその答えを笑いながら了承してしまった。
「くく、いいだろう。久々に面白いがきだ。
それでどうする?
殴り合いだろうと斬り合いだろうと構わねえが、見た感じお前じゃ10秒保てばいいほうじゃねえか?」
童子切はどこか試すようにつねに言う。
実力のほどは分からないが、先ほどの一撃から考えても勝てる相手じゃないのは確かだ。
止めさせようと口を開くと同時につねが言った。
「とりあえずルール無用の殴り合い(武器あり)で。」
そして俺の方を見て、
「…少年(笑)よ。お主の探し人は時計台の上に行けば会える。行きなさい(←ドヤ顔な気がする)」
「つね…」
それってぎやまのことか?
時計台って…あのグラウンドの方にあるあれか!
でもつねを置いて行くわけにも…
『(小僧、ここは素直に行け)』
「(鬼丸?)」
先ほどからまったく声を出していなかった鬼丸が、俺にだけ聞こえる声で話しかけてきた。
『(童子切…こいつがここに俺がいることを知ったら面倒なことになる。説明は後だ。とにかく今はここから離れろ!)』
よく分からないが、珍しく鬼丸が焦っているようなので俺は、
「分かった。後で必ずこいよ」
「ああ、待ってろ。なに、すぐに追いつくさ」
あ、なんか死亡プラグが立った。
とりあえず俺は正門を飛び越え、まっすぐ時計台に向かって走り始めた。
6月19日(火)?時??分