百三拾
【無制限共有フィールド】
それは宮崎の言う通り、¨夢¨ではない。
ここは複数の【神器】によって創り出された擬似的な空間。
言わば¨世界¨そのもの。
言うなれば¨現実¨に重なるように存在する、もう一つの世界。
それは部分的ではあるが、稲穂学園を中心とした平行世界とも言える。
このフィールドでは文字通り¨一切の制限が無い¨。
カリヤが参戦者達に対して与えたいくつかの情報や説明は、カリヤ自身の言葉数の少なさから正確な答えを理解できている者がいないという結果を生んだ。
一つは参戦者達の能力に制限をかけたと言ったこと。
修正を加えたと言ったが、実際は【無制限共有フィールド】には¨夢¨と違って¨欠片¨が充満していないため、事象の変化など多くの¨欠片¨を消費することができなくなっただけである。
そのため参戦者には自分たちの能力に制限がかけられたように感じられたのだ。
そして他にはゲームに関する不干渉。
カリヤはゲームマスターの立場でありながら参戦者に対して時々手を加えている。
それは不具合の修正というよりは展開の調節とでも言うべき行いだ。
宮崎の暴走をデュランを使って止めたり、かと思えば予選から今に至るまでの闘いで生き残る人数を調節したりといった行為だ。
108人が100人になったりしたのもカリヤの思惑が絡んでいる。
他の闘いでもそうだ。
カリヤはデュランや数珠丸のような身近な立場の者達に対してさえ口数が少ない。
この¨神を堕とす者¨というゲームも、
これまで行ってきた所業も、
これから起こる結果さえも、
カリヤ本人以外に正確な答えを知る者はいない。
ただその答えに近づいている者達も少数だが存在するが。
《【神器:ゼノビアの鏡】
別名:引き袖の鏡
かつてゼノビアが時の流れの儚さを愁いた際に生み出した【神器】。
この¨鏡¨の能力は鏡に映ったもの(生物、無機物、空間に関わらず全て)の時の流れを遅らせることである。
最大の特徴は時の流れの調節であり、1倍から最大1000倍まで引き伸ばすことができる。》
《【神器:グレモリアの鏡】
別名:時の航海
失われた思い出と記憶を再び垣間見るため、¨時の放浪人¨の一人、グレモリアが創り出した【神器】。
¨過去¨に起こった出来事や実在した事物であれば、鏡の前に立った者に再びその¨時¨を見せることができる。
¨時の放浪人¨は様々な¨時¨を旅する民族の総称である。詳細は不明。
分かっているのは、¨時の放浪人¨は一度過ごした¨時¨に二度と姿を現さないということだけであり、
¨時の放浪人¨は独自の掟により、¨時¨に最低限の干渉しかしない。》
6月19日(火)?時??分
波紋の広がる鏡面から出てきたのは¨本物の¨デュランと数珠丸、そしてフードを被った人影だった。
【ゼノビアの鏡】と【グレモリアの鏡】からそれぞれ出てきた3人はカリヤ同様疲れた面もちをしている。
「カリヤ様、フィールドの各所調整は一通り完了致しました」
比較的疲れた様子のない数珠丸は片膝をついて報告する。
「……。」
対するカリヤは無言のまま目を閉じている。
「疲れた!さすがにあの数の¨断獣¨を黙らせるのはきつかったぜ!」
「…デュランは無駄に力みすぎ。もっと自身の扱いに慣れておくべき」
「……。」
言葉とは裏腹に満足そうに笑みを浮かべるデュランと、
落ち着いた、澄んだ声で淡々と注意するフードの人物。
どこか中性的な声と雰囲気からは性別を感じさせない魅力があった。
カリヤは目を開くと、無言で腕を振るう。
すると二つの鏡の横に別の鏡が現れた。
6月19日(火)?時??分