百二拾九
6月19日(火)?時??分
「ところで今何時だか分かる?」
しばらく駅の方(正門から見て右)に進んで歩いていると、突然つねがそんなことを聞いてきた。
「いや、今携帯とか持ってないから分からないな。第一¨夢¨で時間とかあまり関係なくない?」
そう言うとつねは顎のあたりを掻きながら頭を傾けた。
「ん~(苦笑い)。やっぱ普通は気になんないよねー。だけど時間の流れがあやふやなのは¨夢¨だけなんだぜい?」
「どういうこと?」
「いつもおれたちが修行してる個人的な¨夢¨ではだいたい¨欠片¨の総量で時間の流れが変わったよね?」
「ああ」
「予選からこの前の…、えっと、今何回戦までやったっけ?」
「確か次が五回戦目だから、四回戦まで終わってるよ」
「そうだったそうだった(笑)どうも年をとると物忘れが激しくてね(←自虐)」
「今いくつだよ…」
「さておき四回戦までのフィールドって生徒全員の¨欠片¨から構成されてるのは知ってるよね?」
「ああ、そんな話聞いた覚えがあるな」
確か鬼丸から聞いたんだっけか?
つねじゃないけど修行やらなにやらで現実よりも長い時間を過ごしているせいで、忘れてしまうことがけっこうある。
「最初は2400人で構成されていてもぼやけてたのに、今ではたったの100人程度で前以上に鮮明に構成できているのは何でだと思う?」
「そりゃ…」
一人一人の¨欠片¨の総量が上がって、100人で2400人以上の総量を超えてるからじゃないのか?
そう言うとつねは軽く拍手しながら「正確、たぶん」と言った。
「そう、今ではおれたち一人一人の¨欠片¨は最初とは比べ物にならないまでに膨れ上がっているね。
さすがに一人だけだと小さな空間を作り出すことくらいしかできないけど、ね」
俺たちの個人的な¨夢¨のことを言ってるのか。
「気になるのは何でカリヤはおれたちに¨欠片¨を増やさせてるのか?なんだけど質問には直接関係ないからスルーしよう」
いや、それもけっこう気になるな。
今はぎやまが最優先だけど。
そこで駅に着いた。
つねはただ歩きながら話したかっただけらしく、Uターンして稲穂学園の方へ歩き出す。
「それで何て言おうとしたんだっけ?」
「俺たちの¨欠片¨についてとフィールドのことだよ」
「そうだったね(笑)」
「……。」
「まあサクッと結論だけ言っちゃうかな」
つねはあくまであっさりと言った。
「ここ、夢じゃないよ」
6月19日(火)?時??分
【無制限共有フィールド】
そこにある稲穂学園の時計台。
その上でカリヤは二つの鏡を前にして黙していた。
かすかにだが疲労の色が濃く、見た目の年齢をさらに不詳のものにしている。
鏡はカリヤの正面に位置しているにもかかわらず、カリヤの姿はおろか光すらも反射していない。
まるで闇をたたえたように黒い鏡面はむしろ光を吸収しているようにも見える。
カリヤの右側に位置している木製の枠組みをした鏡の名は【ゼノビアの鏡】。
そして左側に位置している貴金属製の美しい彫刻をあしらった鏡の名は【グレモリアの鏡】。
本来ならば風景をその身に映す美しい鏡も、今は漆黒の闇を映すだけとなっていた。
突然二つの鏡に水面に雫を垂らしたような波紋が広がった。
【無制限共有フィールド】の夜は更けていく。
6月19日(火)?時??分