百二拾二
6月16日(土)?時??分
支えがなくなって床に転がる。
そしてここが2Lの教室だと気がついた。
ぎやまは無言で横から俺の背後にある扉を開けて出ていこうとする。
慌てて引き留めた。
「待って、ぎやま!」
ぎやまは仮面越しにも分かるくらい冷たい目で俺を見た。
「何?手短に頼むよ。あまり時間がないんだ」
「えっと…」
どうしよう。
何て言うか考えてなかった。
「……。」
そんな俺の様子を見て、ぎやまは扉に手をかけた。
そしてそのまま扉をくぐり抜けて行ってしまった。
もしかしたらここが何かの分岐点だったのかもしれない。
取り返しのつかない事態が待ち受けている、そんな気がした。
それを言うなら、その後コロシアムに戻らなかったのも結果としては取り返しのつかない事態を呼んだとも言えなくもない。
しかし確実に言えるのは、この¨神を堕とす者¨というゲームが始まって以来、
初めて本格的に俺たち¨3人¨は別々の道を歩み始めたということだ。
6月16日(土)6時23分
「ぎやま…」
目が覚めてすぐに思い出すのは昨晩のぎやまのこと。
異常なほどあっさりと、
驚くほど簡単に、
ぎやまはまるで息をするように対戦者を殺した。
もちろんこの闘いにおいて殺すこととリタイアさせることのみが勝利の条件なわけだけど。
それでも昨晩のぎやまは異常すぎた。
異端だったとも言えるかもしれない。
相手だって同じ学校に通っている生徒なのに、
もしかしたら友達だったかもしれないのに、
ぎやまにはまるで躊躇いがなかった。
他の生徒には一方的な狩りをしているように見えただろう。
俺だってそうだった。
でも2Lの教室で見たぎやまはまるで追い詰められているように見えた。
どうしてぎやまが豹変してしまったのかはよく分からない。
だから直接聞いてみよう。
分からないことを分からないままにしておいても気持ち悪いだけだし、
それに、何よりぎやまのことが心配だ。
俺は立ち上がり、洗面所に向かった。
メールをしてみても返事はないし、とりあえず深夜になるのを待とう。
それまでに返事がくればそれでいいし、来なければこないで次の試合後に聞けばいい
6月18日(月)8時36分
結果的に、俺の決意は無駄に終わった。
なぜなら…
「え~、今日も杉山は休みだぁ。どうも体調が優れないみたいだな」
いつも通りの少し独特のイントネーションで小川先生が言った。
ぎやまが休み…
これで直接話を聞くことはできない。
ぎやまは試合が終わると同時に学校から出て別の空間に移動しているみたいだった。
だから前みたいにぎやまの名前を言って追跡はできなかった。
というか一回学校とは違う空間に繋がってしまい、なぜかサファリパークの中を走り回るはめになった。
何がどうなってるのやら…
そんなこんなで土日はまったくぎやまと接触できなかった。
ちなみに俺もぎやまも全試合勝利している。
今回は六戦ともぎやまは序盤のほうに闘っていたため、俺自身の試合は二度しか確認していない。
相変わらずぎやまは圧倒的。
抵抗する隙を与えない。
俺の方は少しずつどの程度の¨力¨が使えるのかを確認していった。
基本的にまったく使えない¨力¨はない。
制限された¨力¨も特定の一部分だけだったら完璧に使いこなせる。
そういえば土日の間に一度だけつねの試合を見た。
ぎやまの試合直後だったためよく見れなかったが、解説を聞く限りじゃつねも全戦全勝らしい。
もしかしたら俺たちって他の奴より強いのか?
よく考えたら俺たちみたいに¨現実¨で一緒に修行をしたりとかって、他の生徒にはできないだろうし。
一人きりで延々と修行なんて上達も遅いだろうしな。
まあそれはそうと、こっちでもあっちでもぎやまに会えないとなるとどうしたものか…。
ぎやまもいつまでも学校を休んでやれないだろうし、登校してくるのを待つしかないのかな。
そんなことを考えていると、小川先生が気になるニュースについて話始めた。
「あー、それと、だ。土日の間に稲穂学園の近くで不審者が現れたそうだ。
年はお前らと同じくらいらしいんだが、日本刀を所持してたそうだ。」
6月18日(月)15時32分