百拾三
6月15日(金)?時??分
そこから一瞬で様々なことが起きた。
まずカリヤに襲いかかったぎやまのことを妨害したのはデュランだ。
中央にいたデュランは縮地とほぼ同等に近いスピードでぎやまとの距離を詰め、まさに引き裂かんとしていたぎやまの鎖鎌を蹴り上げる。
そしてそのままの勢いでぎやまの体を弾き飛ばした。
さらに瞬きの間に大剣を出現させたデュランはまだ空中にいるぎやまに向かって跳ぶ。
振り下ろされた大剣をぎやまは多節棍で絡め捕り、デュランは刀身に巻き付いた鎖を振り払う。
その時にはすでにぎやまの鎖は真っ白い空間のあちらこちらに向かって伸ばされていた。
鎖を振り払ったデュランは着地と同時に体勢を整え、鎖を避けるためにジグザグに走る。
そこでまだ五秒も経過していない。
全方位に鎖を固定し、空中に留まっていたぎやまは吹き飛ばされた威力を利用して再びカリヤに向かって高速で移動。
地面に足をついた時点で出遅れる形になったデュランは、間に合わないと悟るやいなやその身長以上の丈の大剣を投擲する。
ぎやまとほぼ同時にカリヤの元に届いた大剣はぎやまの一撃を防ぐ盾となり弾かれた。
不意を突かれたぎやまは鎖を操り空中で距離を取る。
すでに天井に刺さっていた鎖鎌は回収済みだ。
距離を取りながらも鎖鎌の鎖の先端についた錘は真っ直ぐカリヤの頭部に飛んでいく。
それを横から弾き飛ばしたのは今までどこにもいなかったはずの第三者。
突如現れた両手と首に数珠を巻いた、灰色がかった髪をした青年は持っていた日本刀の峰で軽々と錘を弾いた。
予想外の乱入に気を取られたぎやまは、背後に飛び上がったデュランの存在に気づくのが遅れた。
「…!?」
声を上げる間もなく蹴り落とされたぎやまは床に叩きつけられてしまった。
そして身動きできないぎやまに大剣を構えてデュランが落下してきた!
ガギンッ!
それを正面から防いだのは俺と鬼丸。
とんでもない威力に床が凹み、クレーターじみた跡ができた。
そんな俺達の死角から攻めてきたのは先ほど現れた灰髪の青年。
常に笑っているように細められた糸目が薄く開き、ぎやまの心臓に向かって日本刀を突き立てた。
ギィン!
日本刀の切っ先がぶつかったのは直前に投擲され、ぎやまとの間に滑り込んだ斬馬刀。
それを投げたのはジミーだ。
慌ててたのか、ジミーは抱えていたつねを放り出していた。
ゴンッ
床に頭を打ちつけられたつねの頭からは鈍い音が響く。
灰髪の青年は武器を失ったジミーに向かって跳ぶ。
「「!!?」」
俺とジミーは驚愕する。
ジミーの場合一瞬で目の前に現れた青年に対して。
俺の場合はとても自然な流れで無駄のない¨縮地¨をしてみせた青年の技量にたいして。
一瞬でも目を奪われたせいで俺はデュランからの一撃を防ぎきれなかった。
大剣の柄を腹に突っ込まれて息が詰まる。
動きの止まった俺に向かって突き出された大剣は今度は多節棍に阻まれた。
床に縫い付けられるように大剣を抑えつけられたデュランは、あっさりと大剣から手を離した。
離された大剣はすぐに姿を消し、再びデュランの手元に現れる。
するとデュランに向かって大きな塊が飛んできた。
バックステップで避けるデュラン。
俺達の目線は飛んでいった塊に集中する。
向かいの壁にぶつかったのは灰髪の青年だった。
青年の持つ日本刀の柄に掛かった数珠が音をたてる。
飛んできた先を振り返るとそこには拳から煙を上げるつねの姿が。
傍らには力を使い果たしたのか斬馬刀の姿に戻ったジミー。
一瞬で俺達は膠着状態に陥った。
他の生徒はすでに巻き込まれない位置まで退散している。
パチ…パチ…パチ…
静寂に包まれたこの空間に、突然まばらな拍手の音が響いた。
一同全ての視線をその身に集めたカリヤはゆっくりと左手を上げる。
それを見たデュランと灰髪の青年は一瞬でカリヤの傍らに移動する。
「…なかなか、楽しませてもらった」
「薫…!」
カリヤとぎやまの間に火花が散っている。
俺達は離れた位置に立つカリヤ達に向き合った。
「…デュラン、《戻れ》。…数珠丸、お前はそこで待機だ」
『おっけー』「御意」
大剣の姿になったデュランと、カリヤの背後に跪く数珠丸と呼ばれた青年。
デュランを無造作に構えたカリヤは軽く振るい、
「…予定は狂ったが、許容範囲だ」
そう呟いて微かな笑みを浮かべた。
6月15日(金)?時??分