百十
6月15日(金)?時??分
さらに30分ほど経った。
もう椅子のほとんどは埋まり、空席は両手で足りるくらいだ。
数えてみれば、もう90人の生徒が席についている。
確か人数は108人だったし、後18人だ。
その内の一人はつね。
「そうだ、ぎやまは試練どうだった?」
俺が何の気なしに聞いてみると、ぎやまは急に暗い表情になった。
「…ごめん、阿部君。なんていうか…ちょっと…」
ぎやまにしては珍しく、歯切れの悪い返事だ。
俺同様に多少心境に変化があったみたいだ。
ただ心配なのは、時折見せる憎しみにまみれ殺気立った眼差し。
心なしか苛立っているようにも見える。
何かがあったのは間違いない。
不意に周囲がざわめき始めた。
周りの目線を追ってみると、ちょうど扉が開いてまた誰かが入ってきたところみたいだ。
「ん?あれってもしかして…」
ぎやまが呟く。
すぐに俺も気がついた。
「もしかして…ジミー?」
今扉から入ってきたのは、仮面こそつけているがジミーで間違いないはずだ。
あの身長や髪型は間違えようがない。
ただ不可解な点は、なぜかジミーがつけているのがおかめの仮面だということ。
それ以前になぜジミーがいるのか。
そして髪の長い女子生徒を抱えているということか。
だが駆け寄ってみると、俺の見立てが間違っていたことに気づかされた。
「え!?」
「ちょ!」
一見するとジミーが抱えているのは女性に見える。
何せ髪は肩より少し長いくらいだし、顔も隠れてしまっているからだ。
だがすぐそばで見てみれば一発でそれが髪が長いだけの男性だと気づいた。
ジミーが抱えていたのは、何故か髪が伸びて、服がボロボロになって、気絶しているつねだった。
ジミーは俺達に気づくと、辺りを気にするように人気が少ないはじに寄っていった。
「ちょうどよかった。こいつ、倒れてから全然目を覚まさないんだよ」
困ったように言うジミーにぎやまが質問する。
「てかなんでこんなに髪が伸びてんの?かつら…じゃないみたいだし」
確かに軽く引っ張ってみるとこの髪が本物だと分かった。
いったいどうしたって言うんだ?
「ああ、これね。そりゃ、あれだけ長い間試練を受けてりゃね」
「どういうこと?」
ジミーが語ってくれた内容に、俺達は本気で驚いた。
なんでもつねは第四の試練で友人に殺されてしまい、
また最初から試練を受け直すことになってしまったそうだ。
そしてまたどうにか第四の試練までたどり着くも、
トドメを刺すことができずにまた最初から。
それを三度ほど繰り返し、四度目にしてやっと友人にトドメを刺せたそうだ。
「なんかもう反乱狂だったよ。その友人ってのがレオンハートって言ってさ、なんかつねの唯一の親友だったらしいよ」
そんなことがあったのか…
俺は少なくともちいを傷つけたりできなかった。
そしてそれこそが正解だった。
「でもそれって俺のとは違うな。俺の場合殺せなかったら合格って言われたけど…」
どうやら複数の選択があり、正解というのはなかったようだ。
それにしてもつねは一番きつい選択をしたのか…
「ああ、じゃあ阿部ちゃんは相手を殺さなかったんだ」
そしてジミーは続きを語り始めた。
友人(レオンハートと言うらしい)を手にかけたことで、つねは茫然自失な状態に陥ってしまったらしい。
無理もない。
俺だったらちいを傷つけてしまっただけでも自害してしまうかもしれない。
そして相手を殺したことで俺とは違う第五の試練が始まった。
内容を聞いて驚く。
10秒以内に自殺すること。
そんなふざけた試練だったそうだが、
つねは反応すらすることができずに再び最初から試練を受け直すことになってしまった。
そこから始まったのが、まさに無限地獄と呼ぶに相応しい現実(夢)だった。
全てに無気力となってしまったつねは第一の試練を延々とループ。
死んでは繰り返し、殺されては蘇る。
その結果つねは実に数ヶ月を死んだように生きたそうだ。
6月15日(金)?時??分