百九
6月15日(金)?時??分
気がついたら、俺はちいに抱きしめられていた。
「え…!?」
ちょっと待って、現状を理解できない。
『…戻ったか、小僧』
「鬼丸?」
『その娘に感謝するんだな。あと一歩で完全に堕ちそうになってたお前をぎりぎりこっちに引き留めた。
こいつがいなけりゃお前はもう戻ってこれなかっただろうよ』
何を言われているのかよく分からない。
ちいごと刺されて、それからちいにトドメを刺されそうになったのは覚えている。
でもそこからの記憶がない。
気がついたらこんな状況だ。
「佑ちゃん…!」
泣きそうな声でちいが俺を呼んでいる。
そういえば…
「ちい、傷は!?確かお腹を刺されて…」
慌てて確認してみるも、傷跡はおろか血のシミひとつない。
『傷なら自然と治ったぞ。どうやらお前があいつを倒したことで試練はクリアしたらしいな。
【シュールバルタの鏡】はクリアの宣言とともに姿を消した』
確かに見渡してもどこにも鏡は見当たらない。
どうやってここから出るんだろう?
てか俺が寝てる間にいったい何が起こったんだ?
いつの間にか¨俺¨も倒されてるし…
「あっ…」
驚いたような声が聞こえて振り返ってみると、ちいの体が淡く光出していた。
「ちい?」
「佑ちゃん…」
そしてすぐに燐光となって消えてしまった。
「どうなって…?」
ちいがいた辺りには今までの鏡と似た形の扉があった。
『どうやら全ての試練をクリアしたことで、新たな道が開けたようだな』
なんかもう急展開すぎてついていけない。
とりあえず…
「もう、終わったんだよな?」
『そのはずだ』
「そっか…」
釈然としないけど、とりあえずこの長々とした試練が終わるならいいか。
俺は扉に手をかける。
『小僧、一応お面をつけておけ』
「あ、うん」
そういえばいつの間にやらお面がなくなっている。
予備のお面(←どこにあった)をつけて、改めて扉を開いた。
6月15日(金)?時??分
ざわめき
扉をくぐると、そこは真っ白い空間だった。
広さは稲穂学園の大体育館くらい。
窓も色彩もなく、俺が今くぐってきた扉以外に出入り口もない。
眩しいくらいに白いその空間にはいくつもの椅子が点々と置かれていて、
すでに十数名の生徒が腰掛けていた。
中には【神器】の手入れ(←必要あるの?)をしていたり、
ストレッチをしていたり、
ただじっと座っていたりと十人十色だ。
俺はとりあえず扉を閉め、少し離れた位置にある椅子に座った。
何となく複数の視線を感じる。
どうやら観察されているらしい。
おそらくここは試練を突破した生徒が最終的に集められる場所だろう。
椅子に座って間もなく俺がくぐってきた扉が開いて女子生徒が入ってきた。
どうやらあの扉はドラ○もんの○こでもドア的な何からしい。
あれも【シュールバルタの鏡】同様にカリヤとかいうやつの【神器】か?
いまいちよく分からないけど、とりあえず待ってればいいのか。
地味に暇だな…
6月15日(金)?時??分
30分ほど経っただろうか。
すでに並べられていた椅子の大半は埋まっていた。
やはり時間の流れが違うらしくて一分に一人二人のペースで入ってくる。
一応入ってくる度にチェックしてるけど、まだぎやまもつねも入ってこない。
また扉が開いた。
入ってきたのは傷だらけの女子生徒だ。
女子生徒は持っていた槍を油断なく構えながら入ってきたが、中の様子を見てすぐに槍を収めた。
そして女子生徒が扉を閉めてすぐにまた扉が開く。
首だけ出してキョロキョロしてるのは…
「ぎやま」
俺は様子を窺っているぎやまに駆け寄った。
「阿部君!」
ぎやまはくたびれたように脱力した。
後はつねが来ればとりあえず一段落かな。
6月15日(金)?時??分