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百八

6月15日(金)?時??分


音もなく日本刀は俺の左肩のあたりを貫通していった。


痛みは一拍置いてやってくる。


しかしそんなものよりも、俺はちいの体の腹部のあたりから目が離せない。


俺の体を貫いているこの刃は、ちいの腹部に繋がっている。


そしてちいの背後には跪いた状態の¨俺¨。


ナンダ?


ドウナッテンダ、コレ?


頭に靄がかかったようにうまく働かない。


俺の目に映ったのは、ゆっくりと地面に膝をつくちいの姿だった。


つられて俺の肩から刃が下にスライドする。


ナンデ?


ドウシテチイガココニイルンダヨ


ドウシテトビダシテキタンダ?


モシカシテ…


¨オレ¨ガカメンヲハズシテイタカラ?


ソレデオレトカンチガイシテ…


カンチガイ…


カンチガイ…


カンチガイ…


………………ッ


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛…」


無意識に声が洩れ出す。


痛みなんて感じない。


すぐにでもちいを抱きしめたいのに、体が動かない。


日本刀が体を貫いているからだけじゃない。


俺は目の前で起きた出来事を認めたくはなかった。


ソウダ、ユメダ


ココハユメナンダシ、シンダッテモンダイハナ…


現実逃避を始めた俺の耳に、か弱い声が届いた。


「ゆ、うちゃん…逃げ…て…」


「……!」


ちいは虚ろな瞳をしながらそう呟く。


おそらくもう目は見えていない。


それでもちいは必死に声を絞り出している。


最後の力を振り絞って俺の安全を願っている。


ちいに向かって手を伸ばそうとするがうまくいかない。


突然体の支えがなくなった。


俺とちいの体を貫いていた日本刀が引き抜かれたのだ。


支えを失って完全に地面に倒れ込んだちい。


そしてその背後では冷たい目をした¨俺¨が日本刀を構え直している。


ちいにトドメを刺すつもりだ。


硬直して動かない俺の体。


振り下ろされる日本刀。


その刃がちいの首に届こうとした瞬間、目の前が真っ赤に染まった。




一部始終を見ていた鬼丸は呟く。


『怒りで修羅に堕ちるか、小僧…』


空しげな様子でそう言った鬼丸は、元来の自分へと戻っていくのを感じた。


鬼丸の刀身を禍々しい鬼気が覆い尽くしていく。




ほんの刹那の間に堕ちた俺は、鬼丸すらも取り込んで一体となった。


6月15日(金)?時??分


ガキンッ!!


「!!?」


振り下ろした日本刀を通じて伝わってきた衝撃に驚きを隠せない¨佑樹¨。


まさに刃が少女の首と胴体を寸断しようとした瞬間、ほんの数ミリの隙間に他の刃が現れていた。


¨佑樹¨の刃の先にあるのは¨鬼丸¨の刀身の側面。


傷ひとつない刀身に、¨佑樹¨の日本刀が阻まれていた。


¨佑樹¨が弾かれたように顔を向けると、そこには脱力した体勢で刀だけを差し出す佑樹の姿がある。


ほんの一瞬前までは確かに動く気配すらなかった。


それが瞬きすらする間もなく、神速で¨佑樹¨の一撃を防いでいる。


「……!?」


不意に凄まじい怖気に襲われた¨佑樹¨はとにかく全力で跳び去る。


佑樹はとくに変わった様子もなく鬼丸を差し出したままの姿でそこにいた。


それでも¨佑樹¨が全身を緊張させていると、ゆっくりとした動作で佑樹が立ち上がった。


抜き身のまま鬼丸を握る右手はだらりと下に垂らされている。


ピシッ!!


俯いたままの佑樹のお面からは亀裂の入ったような音がした。


佑樹は無造作にお面に手を伸ばし、お面を握り潰す。


「……!?」


再び戦慄する¨佑樹¨。


ソレは焦点の定まらない、遠くを見るような眼差しで¨佑樹¨の方を見た。


瞬間


¨佑樹¨の四肢が分裂した。


ソレとまったく同じ力量を持つはずの¨佑樹¨ですら知覚できないほどの斬撃を、ソレは無造作に四回放ったのだ。


それは居合いではない。


¨鬼丸¨は依然として抜き身のままだ。


体勢も1秒前とほとんど変わる所がない。


それでも確かにソレは刀を振るった。


その証拠に、¨佑樹¨の胴体が地面に落下するまでの間に小さく呟いていた。


「『…《灯籠・四季》』」


それは佑樹が鬼丸と出会った時から何度もその身にくらった技と似ていた。


一度として技名は口にしたことはなかったが。


ソレは地面に転がった¨佑樹¨に歩み寄ると、首を掴んで持ち上げる。


そして片手で軽々と放り上げると、今度は鬼丸を鞘に収めた。


空中で動くことすらできない¨佑樹¨。


その体に、突如として大きな穴があく。


「『…《蒲公英・一輪》』」


かつて鬼丸が観覧車を倒壊させた技の集中させた型だった。


6月15日(金)?時??分


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