百四
【ダート:全長20~30cm。重量重量約0.2~0.3kg。世界各国(年代不明)。石器時代から使われていた小型の投擲矢。矢羽がついているために直進性が高く、射程内であればたいてい命中させることができる。攻撃力は低いが、敵の足止めには有効で、毒を塗ることもある。最大射程は5~20m。】
6月15日(金)?時??分
おれ、宮崎常春は意外と過去最大級の選択に迫られているのかもしれない。
「例えばだ。人の本質を図形に表すとする
(一本のダーツが頸動脈すれすれを通過)
三角形、四角形、人によっては五角形や六角形だ
(左目に飛んできたダーツに気をとられて右足にくらった!)
もしかしたら十角形とか十六角形なんてのもあるかもしれないね
(動くのを止めたら殺られる!)
それでだ。人によって異なるその本質の形は、様々な理由で変化してしまう
(遺書とか書いてる隙は…ないか)
形が四角形からひし形になるとかじゃないぞ
(いったい何本持ってるんだ?)
そういった変化もあるかもしれないが…
(先っぽが光ってるのって…もしかして毒?)
ここでの変化ってのは、だ」
おれは次々と飛んでくるダーツの矢を紙一重でかわしながら、喋り続ける。
「その図形が欠けてしまう、ってことだよ」
一本のダーツが左腕を掠めた。
擦り傷程度だが、傷口が急に熱をもったように熱くなる。
やはり毒が塗ってあったらしい。
「何言ってるのか分からない?
(傷口を塞いでも毒は消えないか…)
安心しなよ。一発で理解できるやつなんてそうはいないさ」
まだ一分も経ってないのに、おれの体はボロボロだ。
水平に飛んできた五本ダーツをバク天で避ける。
空中で体勢を整える間もなく、左脇に突き刺さるダーツ。
「要するに、だ。その人がその人たる存在の形が五角形だとする
(毒状態の回復を促す言霊ってあったっけ?)
もしそれが何らかの理由で角が欠けてしまったら…
(おそらくこれは神経毒…感覚が鈍ってきた)
それはその人の本質からして別物になってしまうということになる」
着地した瞬間に跳躍する。
一瞬前までおれがいた空間に複数のダーツが刺さる。
「例えが分かり難いって?そいつは勘弁してくれ
(こう動き回ってちゃ毒の巡りが早いな…)
あんまり人に説明するのは得意じゃないんだ」
いったん射程圏外に離れ、刺さったままだったダーツを引き抜く。
色違いのダーツ。
もしかしたら毒の種類も色別に分けているかもしれない。
だとしたら厄介だ。
心なしか視界がブレる。
「とにかく。本質が五角形だった人が何らかの理由で角を喪失した場合、
(こうなったら殺るしかないな…)
その人が四角形になる、ってわけじゃあない
(南無三!)
だってそうだろ?五角形てのはそうあるから五角形なんだ
(次々と急所に向かって飛んでくる…容赦ないな)
原型から歪んでいたわけではないんだから、
(トンファーで叩き落としてもきりがない…)
その五角形は一つの頂点を失っただけで五角形ではなくなる
(一撃でかたをつける!)
そして元は五角形だった本質は四角形にもなれず、中途半端だ
(あ、なんか左半身の感覚が…)
五角形なら内角の角度は72°だし、
(それにしても、容赦なさすぎだろあいつ)
四角形なら90°だ
(さすがはおれが認めた親友だ)
内角が72°の正四角形なんてないだろう?
(なら手加減なんてむしろ失礼ってなもんだ!)
あるわけがない
(腐おぉぉぉぉぉぉ!!)
そんなもの歪んでいる」
おれは一直線に親友のもとに走る。
もちろんそいつは容赦なくおれを殺そうとしてくる。
それでもおれたちは親友だ。
「まあこんな例えなんかちょっと頭のいい連中にかかれば簡単に矛盾点やら欠点やらを見つけられちゃうんだけどね」
あいつの攻撃をあえて痺れている左腕で受ける。
麻痺してるおかげで痛みがない。
「とはいえここで欲しいのはそんな鬼の首を取ったように歓喜してつっこんでくる正論じゃない」
10メートルを切った。
ダーツの矢がまるでマシンガンのように飛んでくる。
「ここで言いたいのはつまり「…なあ」」
必殺の間合いに入った瞬間、親友シリュウレオンハートはおれに銃を突きつけた。
「さっきからうるさい」
パンッ!
意外とあっさりとした音とともに、おれの体を弾丸が突き抜けていった。
残り時間は後3分。
6月15日(金)?時??分