百三
6月15日(金)?時??分
『第四の試練。汝最愛の者と勝利を天秤にかけよ』
鏡を抜けてすぐにそう言われたが、オレは目の前にいる人物に目を奪われて聞いてなかった。
試練の内容について語っているようだけど、正直聞いている場合じゃない。
「舞…霞?」
オレの主観では記憶の中で初めて会った少女。
そんな彼女を見て、オレは何も言うことができなかった。
6月15日(金)?時??分
オレが固まっていると、舞霞はくすりと笑った。
「変わらないね、裕ちゃんは。…私のこと、覚えてる?」
「ああ、うん」
「忘れちゃってた?」
「いや、ええっと…」
ダメだ。うまく話すことがまとまらない。
「あれ、その様子だと記憶とかなくなってる?
…やっぱり間に合わなかったかな」
「どういうこと?」
舞霞のちょっと困ったような顔を見て、なんとなく落ち着かなくなった。
「裕ちゃんが前、このゲームに参戦してたのは覚えてる?」
「…うん。ついさっき記憶を見たばかりだけど」
「そっか。だからそんなに変な裕ちゃんなんだ」
「変な裕ちゃんて…」
「変な裕ちゃんは変な裕ちゃんだよ。少なくとも私が知ってる裕ちゃんとは少し違うかな」
なんとなく遊ばれている気がする。
「あ、そうだ!ねえ¨舞霞¨、これどういうことか分かる?」
俺は¨舞霞¨に質問してみる。
一方舞霞は自分が呼ばれたと勘違いしたのか不思議そうな顔をしている。
するとオレの目の前に¨舞霞¨、多節棍が現れた。
『……。』
「あー!私の【神器】!」
無言の¨舞霞¨と驚く舞霞。
舞霞はポニテを揺らしながら近寄ってくると、¨舞霞¨を手に取ってしげしげと眺めている。
「裕ちゃんが何で私の【神器】持ってるの?それにこの子のこと、¨舞霞¨って呼んだよね?どうして?」
矢継ぎ早に質問してくる舞霞。
そんなこと言われても、正直オレのが知りたいくらいだし…
『ねえ』
¨舞霞¨は舞霞に語りかけるようにそう言った。
『私は¨私¨だよ。あなたは¨私¨で、¨私¨はあなた』
¨舞霞¨は語り出した。
『私にも分からないことばかりなんだけど…。
この状況から考えて、とりあえず私のことから説明するね。
覚えているのは、¨私¨という存在が消える瞬間、
つまり¨夢¨で死ぬ瞬間に、
裕ちゃんのそばにいたいって願ったこと。
もしかしたら消えるギリギリでその願いが叶ったのかな、って思う』
そう一気にはきだした¨舞霞¨は舞霞のことを窺っているようだ。
「つまりえっと…、もしかして…!」
驚いた様子で舞霞が¨舞霞¨を見つめ直した。
「私が覚えている限りで、消える直前に願ったことが叶ってあなたになったってこと?」
『そういうことになるかな。結果的にこんな中途半端な姿になっちゃったけど』
「ぼんやりとだけど思い出せるよ。あの時私は消える瞬間に願った。
じゃああなたはあの時の¨私¨の続きってこと?」
『結果的にはね。私はほとんどあなただった時のことは思い出せないけど。』
「それって私が消えかけてたからかな?」
『どうだろ?覚えてるとこだけ繋げてくと、¨神を堕とす者¨に参戦してた時のことは鮮明に思い出せるんだよね』
「てことは現実の方で消えた記憶があなたってことになるのかな?」
『たぶんそうだろうね』
「そっか…」
なんか舞霞同士で話し込み始めたな…。
事情を知らないから内容はよく理解できないけど、
たぶんこれは…
『残り3分です』
「え?」
いきなりの鏡の言葉に軽く驚いた。
すっかり忘れてた。
今は試練の真っ最中だった。
そういえば、今回の試練は何をするんだ?
まだ話し込んでいる舞霞達は置いといて、そう質問すると
『残り3分以内に彼女を殺して下さい』
「…は?」
ええっと…、言ってる意味が理解できない。
『制限時間内に最愛の人をその手にかけて下さい。第四の試練の内容はそれだけです』
「……?」
何を言ってるのか理解できない。
どうしてそんな…
『殺して下さい』
鏡は淡々と同じ言葉を繰り返す。
戸惑っている間にも時間は経ち続けていく。
残り2分30秒
6月15日(金)?時??分