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百一

6月15日(金)?時??分


最後の記憶。


稲穂学園の合格発表の日。


「嘘だろ…?」


おれの横では受験票を握りしめた中学三年生のおれが震えていた。


メガネ越しに見える目は大きく開かれている。


この時のことは今でも夢に見るよ。


あの人と一緒の学校に通いたくてここを受験したんだし。


頭があんまり良くないおれでも死に物狂いで勉強して一気に偏差値を上げたんだよな~。


試験では分からない問題はとにかく鉛筆を転がして(笑)


その結果がこれだ。


合格


掲示板にははっきりと〔3285〕の数字があった。


でもおれは、いや、おれたちは二人揃って青い顔してるんだろうな~。


だってあの人の番号ないんだもん。


自分の番号と同じくらいあの人の番号も覚えてたし。


それに、番号だってまずあの人のやつから探したんだしね。


この時の絶望は言い表せないな~。


だってこのあと…


「みやちゃん…」


「あ…」


おれはあの人と会ってしまったんだからさ。


この時の会話はちょっと公開したくないな~。


プライバシーってやつもあるし。


まあ、でも、この時におれはきっと、合格証を受け取りに行かなければよかったんだと思うな。


だっておれはこの三年間ずっとこの時の夢ばかり見ることになるんだから。


6月15日(金)?時??分


「みやちゃん…」


久々に聞いたあの人の声。


過去の映像も何もない空間。


おれは意を決して振り向いた。




あの時とは違う髪型。


でも雰囲気は変わってない。


何より好きだったあのきれいな瞳が…


「あー…、お久しぶりです」


なんと言ったらいいのかな…


おれはいつもこの人を前にするとうまく思考が働かなくなる。


ふざけた演技もおちゃらけた口調もできなくなる。


それで結局目上の人に接するような敬語と仕草になっちゃうんだよね…


「うん、久しぶり。みやちゃんはあんまり変わんないね」


「そう…ですか?」


中学時代と違って七三だった前髪は短髪のオールバックだし、


メガネもコンタクトにした。


それに陸部に入ってから結構引き締まったと思うけど…


けど、なんとなくそう言ってもらえると嬉しいかな。


「…ありがとうございます。あなたもお変わりなく…」


おれの願いはいつだって、


幸せだったあの頃に…




次の瞬間あの人の姿は揺らめくように消えて、代わりに目の前には鏡があった。


6月15日(金)?時??分


『第三の試練、クリアです』


「……。」


ちょっと複雑な気分だ…。


もっとあの人と話していたかったのに…


「…ねえ。今回の試練て何の意味があったの?」


『お答えできません』


「ふ~ん。まあ想像しかできないけどさ」


なんとなく予想はつきそうだ。


「ま、仮にとはいえあの人に会えたことと、忘れてた過去を思い出させてくれたことは感謝するよ」


きっと鏡はどんな質問をしても答えてはくれない。


それが分かっている以上無駄なことに労力を割くのは面倒だ。


「…とりあえず出るか」


おれは入ってきた鏡に向き直った。


6月15日(金)?時??分


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