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我が復讐の炎の大きさに震えろ、王国よ

 

  「これで16人目。遂に半分をきったな。最強の元第一騎士団も数の前では無力だな」


  城塞都市マザランの中心に位置するお屋敷の執務室で、今日の襲撃事件の報告書を読む領主ノムルス。あれ以降毎日のように、辺境軍への襲撃を受けている。


  襲撃の度に多大な被害を出しながらではあるが騎士を何名か討ち取ることに成功している。それが、今回で十六人目。反逆の騎士団は全員で三十名だということは分かっているため、もう半分もいないということだ。


  「被害数は総数で四百人……これだけの被害とみるべきか、これだけて済んだと思うべきか…。まぁ、いい…アサシンが遂に突き止めたようだからな。もう、終わりだ」


  アサシンが突き止めたもの。それは、第一騎士団のマザランでのねぐらである。マザランには広大なスラム街がありそこに潜伏していることは分かっていたがそれが何処かは中々掴めないでいたのだ。


  「ハザク一人を討ち取るにはもう四百人か、それとももっと多いか。クックッ…まぁ、丁度いい…スラム街の犯罪組織事全部潰してくれる」


  ニヤリと笑い。手繰り寄せた勝利の近さに笑う。為政者であるノムルスと無骨な騎士団長であったハザク。頭脳戦では、ノムルスに分があった。


  着実に力を削がれていく、ハザク。それを知りながらも効果的な対策は打てない。最強と言われた力も振るい方を間違えたら大した効果はえられない。ハザクには力を効果的に振るう方法が分からなかったのだ。


  反逆の騎士団とノムルスの戦いは終盤を迎え、勝利の女神は王国側で微笑もうとしていたのであった。





  遂に終わりの時が来たのであろう。


  今日の襲撃を終えて、皆それぞれ疲れながらねぐらに辿りついた。スラム街にあるねぐらに。そして、間もなく火の手が上がったのだ。


  飛び起きたハザクが見たのは夜空を覆い尽くす炎が高く燃えあがり、黒煙が街を包む光景。


  「……クハッ…」


  湧き出たのは哄笑。結局はこうなるのか。大国である王国を敵に回し、圧倒的な兵力に押し潰される。それは、最強と呼びれた存在である己ですらこの末路。


  戦友も、もう半分はこの世にはいない。彼らは彼らの王国への復讐が、そして、俺の復讐に手を貸してくれた者達。それらを無駄死にさせる己の無能な采配。


  結局は少し力が強いだけの農民。最強と呼ばれようと、大国である王国からすればなんと、小さな存在か。


  「ハザク団長!囲まれております!抜かりました…申し訳ございません…」


  「そろそろ…年貢の納時ってか…。ハザク団長。どうします?何とか、団長だけは逃げられるように逃げ道を確保しますか?俺としてはそっちがオススメですよ?」


  副官であるコルク。古参のノシル。それぞれ、スラム街の人達を庇いながら、辺境軍の兵士を切り飛ばす。


  「馬鹿をいうな。その提案に俺が首を縦に降るとでも?逆にお前らが逃げる道を用意してやろうか?」


  ノシルの強い責任感と、コルクの軽薄な見た目の割に濃い忠誠心に苦笑する。二人の切羽詰まった、それでもいつもと変わらない様子に覚悟が決まった。


  「「冗談!!」」


  ハザクに向かって襲いかかろうとした兵士を斬り飛ばした二人は、ハザクの隣に並び立つ。


  力不足ではあったのであろう。ここで、無様に散ろうとするのだから。


  しかし、王国の病理は変わらない。自分達のような存在はこれからも無限のように出続けるであろう。それは、多分王国自体が滅びるまで。


  ならば、後続の為にここで少しでも多くの兵士を屠ってやろうではないか。終わりの時は来た、しかし無駄ではない。


  そう結論付けて、大剣を背中から抜く。大漢であるハザクが、自身より大きい大剣を軽く振るう。その余波は、前線にいた王国兵の盾を砕き、吹き飛ばす。


  「俺の名は元第一騎士団団ハザク・ヒューズ。来い、雑兵共ッ!!この首、安くは無いぞ!打ち合い、取って見せろッ!」


  「元第一騎士団副団長。コルク、行くよぉ!」


  「元第一騎士団。ノシル、行きます!」


  死に場所はここだと、ここまで生き残った第一騎士団団員達はそれぞれ名乗りを上げ、王国兵に突貫するのであった。



 

 

 

  「ノムルス様。後は三人だけでこざいます。それももう、長くは無いでしょう。マザランでの犯罪の温床である、スラム街も今日でかなり綺麗になります。見事な采配でございます」


  スラム街を見下ろせる台地。そこに、護衛の兵士と共にノムルスはいた。


  「ふん、世辞はいらん。まぁ、敵があのハザク・ヒューズならば王からも寛大な措置が降るだろうな」


  王国での重大な大罪人として、数年前から指名手配されている危険人物である。強すぎる力を持ったせいで国に裏切られ男の悲しき末路。まさに、鼻で笑うに相応しい。


  「しかし……」


  「なにか気になることでも?」


  頭を抱える大きな案件のひとつは片付けた。だが、1番不気味な事件はまだ解決していない。今回のスラム街襲撃の件で解決することを期待したが、その報告もない。


  「ゲードの事だ。潜入したならば、スラム街にいるはずだろう?しかし、その報告も無い。それに相変わらず、役人殺しは続いている。前より頻度は少なくなったとは言え無視できる訳ではない」


  ハザクもかなりのビックネームだが、ゲードはなによりタイムリーだ。軽く話聞いても王国に反旗を翻すには十分な動機を持っている。復讐の炎は最初が一番強い。その業火は理性すら失わせる。


  だというのに、役人の不審死以外にゲードが犯人だろう証拠も事件もない。


  「……俺の勘違いか…?腕を斬り落とされたゲードに…よく考えればそんな真似が本当に出来るのか…?最初の情報すら、何かと混同したのではないか?」


  今までも多少思っていた疑念。力の無いゲードはもう、どこかで野垂れ死んでいるのではかいか。では、あの村人達を皆殺しにした事件は?


  「謎が…多すぎる。ふぅ……まぁ、これはハザクを殺してからゆっくりと考えるか。王都からの返信も来ない中では何とも出来ないからな」


  腕を組み考えていたノムルスはハザクの最後を見るために、スラム街へ足を進めようとした瞬間。


  「なッッ!?」


  背中を誰かに押され、坂を転げ落ちる。突然の味方の凶行に驚き、落ちた先で上を見上げる。そこにいたのは、兜を脱いだ紫色の短髪が目立つ男。突き出された左腕。動かない右腕はよく見ると、少し大きい木で出来た義腕である。


  「ノムルス様ァ。初めましてですね。私はゲード。ご存知の通り、王国に弓を引く者です。私は伝えなければなりません、王国に新たなゲード(復讐者)が帰ってきた事を」


  「な…なにを…」


  「悪魔だと言われました。悪逆非道の人間だと言われました。身に覚えのない罪名を山ほど押し付けられました。()()すら…失いましたよ…」


  「なにをしているッ!ゲードだ、貴様ら殺せ!奴は危険…ツ!?」


  ゲードの後ろで武器を振り上げていた他の護衛の兵士達がノムルスと同じように…いや、力無く坂を転げ落ちていゆく。


  「ゲルトルトさま。ご命令通り…全員殺しました」


  「ご苦労。それと、これからはゲードでいいぞ。これ以上は隠す必要はないからな。何せ、もう俺達が()()


  「なんで…ここに…!何故だ、何故!」


  何故ここにいるのか。何故、兵士に紛れ込んだのか。何故、()()()()()()()()!それらの疑問には一切答えず、話は続く。


  「悪魔ですよ?悪魔。酷いですねぇ。腹が煮えくり返りましたよ。本当に、本当に!、本当になッ!!だから、望み通り悪魔になってやろうと思い立ったわけです。王国をぶっ壊すのですから、一悪魔では申し訳ないですね。()()()()()()そう名乗りましょう。これから」


  「……正気では無いな…不可能な事を喋る様は、ただの狂人か…」


  意味のわからない。いや、実現不可能な事を喋るゲードと、それを恍惚とした様子でみる少女。哀れで、憐れで、愚かであろう。教養が滲み出るゲードという男が、狂人と化してしまったのだから。そうとうな私刑にあったのであろう。


  「まぁ、そうだろうな。それが当然の反応だ。常識的で素晴らしいじゃない」


  「……そっちが素か。で、どうする?俺を殺すか?どっちにしてもお前はここで辺境軍に、殺される。それは俺を殺しても変わら無い」


  「いや、まだ殺さない。クナイ、椅子を用意しろ。ここはいい。街を一望出来る。ここで、街の終わりを一緒に見ようではないか」


  「はい、ゲード様」


  どこから持ってきたのか随分と上等な椅子を用意し、そこに腰掛けるゲード。ノムルスは何とか逃げようとしたが、クナイとかいう少女がいる限り無理だと諦め、坂を登りゲードの近くに立つ。


  「クックック。では、始めよう。終わりの始まりを…な」


  パチンッと、指を鳴らしそれとほぼ同じタイミングで城塞都市マザランの四つある城門全てから火の手が上がる。それは、まさに城塞都市マザランの終わりを告げるもの。


  「なっ……何が…」


  「見るがいい。お前の街が灰燼に帰す様子を、その目に刻みつけろ。我が復讐の炎の大きに震えろ、王国よ」


  笑うゲード。王国の主柱の1つは音をたて崩れようとしていたのであった。

 

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