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トカゲの尻尾のような手足供

 

  「やはり外は心地が良いな…息苦しい仮面などかぶらなくてよいのが何より」


  「私はどちらの姿も好きです。ゲード様!」


  「……まぁ、街で呼ばなければ問題は無い。行くぞ」


  ゲードとクナイがいたのは地方都市マザランの近くの森。冒険者が狩りによく使う森…の隣にある場所だ。あまり、ここまで足を伸ばす冒険者は少ない。森は広く、鉢合わせになることはあまりないが念の為である。


  「さて…クナイはいつもどうり()()()()()()。今日の夜も街で試験だ。上手く殺せたらご褒美をやろう」


  「はい!生命を賭して!ゲート様のお役に立てるように!」


  元気ハツラツだが、喋る内容は酷く重い。クナイの全てはゲードで出来ていると言っても過言ではない為に無理もない事だが。狙い通りのゲードとしてその様子を注意深く観察し、変わらぬ忠誠を今日も確認する。


  「さて…俺は今日こそ成功させようか」


  対してゲードもただの付き添いでは無い。ある魔法、奴隷刻印の禁術を会得しているゲードは天才的な頭脳である事を思いついた。それは狂人にしかおもいつかないこと。


  「魔物の使()()をッ!」


 魔物は人間、人類の敵と言ってもいい存在。その種類も数も、そして単体としての強力さも全て人間を越える存在。人間はその知性で武器を作り、魔法を会得し、村を街を城塞を作り上げてそれに対抗してきた。


  逆に言えばそうしなければ滅ぼされていた仇敵。それを使役してみせる。それは…まともな人間であれば決して思いつかないこと。そしてそれを思いついても、実行はしない。さらに、実行しても魔法に対する深い理解と知識、そして才能が必要だ。


  「………ゴブリンか…ちょうどいい。クナイ…あれは殺すな」


  「はい…生け捕り…拘束してきます」


  シュっと消えるようにいなくなるクナイ。ゲードの瞬きの瞬間にゴブリンを組み伏せて、ゲードの到着を待っていた。素晴らしい才能(化物)だ。


  「良くやった。きのうある理論を思いついてな。これを試せば……」


  ゴブリンの背中に奴隷刻印と、似ているが少し違う刻印を刻む。苦しみで暴れるゴブリンはやがて、大人しくなり。ゲードを見る目が変わった。


  「クナイ。拘束を解け」


  「でも…ゲード様が」


  「二度は無い、どけ」


  「……はい」


  警戒しながらゴブリンの拘束を解いたクナイ。一瞬でもゲードに敵意を向けたら即殺せるように、ナイフを握りながら。


  「…ヌシ、ヨ。メイ…レイ…ヲ…」


  「成功だッ!魔物の使役に成功したぞッ!フハハハッ!!」


  ゲードにかしづき、頭を下げるゴブリン。しかも、()()()()()()()()


  残念ながら…ゲードは天才だ。魔法の大天才。狂気に身を染め、狂気に従い行動し、遂に人類があと数百年は辿り着けなかった技術を身につける偉業をなした。


  「クナイ!これより外に出る時間を増やす!より精度を!より早く!そして、大量の魔物にこの刻印を!」


  「はい!ゲード様!」


  高笑いは響く。悪魔の力を身につけたゲードはその力を更に増大させていくべく街の外で活動を始める。


  まだ、ゲードはマザランでの抗争には参加しない。ただ、まちのそとで力を蓄え、時折街からでる使()()()()()、外に情報が漏れないようにする。


  参加する時は、一番良いタイミングで、一気に攻め滅ぼす。その時を今は待つのだ。


 


 

 




  「行け…殺せ」


  時間は早朝。皆が寝静まった時、巡回中の辺境軍50人を狙いをつける。


  「はいよぉ!テメェら行くぞ!三百の次は五千だ!俺達は三十人!前は十人!今回は…一人あたり…えーと…とりあえず百人斬りだ!」


  「むちくちゃだ!?それにそれじゃ、三千ですよ!コルクさん!しっかりして下さい!」


  「ウォォォォォラァア!」


  「都合がいいな!もう!」


  ニヒルな笑みが似合う副官コルクと、色男で古参のノシル。コルクは槍、ノシルはレイピア。それぞれの武器を構えて、治安維持に臨時で配備された辺境軍に突貫する。


  復讐者たちの数は精鋭三十人。王国でもトップクラスの力量を持って騎士達であった者達。しかし、辺境軍は憲兵団より強い。街の警備をする憲兵団とは違い、街の周辺の魔物を狩ったり、今でも時折ある帝国との小競り合いで鍛えられているのだ。


  ――だというのに、まるで紙屑が風で舞い上がるように宙にはねの飛ばされる。積み上がる死体は全て辺境軍の兵士のもの。


  その力量の差はもはや、子供と大人。少しして、奇襲を受けた辺境軍兵士達は恐怖に震え上がり、退却を始める。


  なにせ、傷一つ付けられない化け物(王国最強騎士団)達が相手だ。それは無理からぬことなのだろう。


  しかし、まだ認識が甘い。ここで会って逃げれると思っている事自体愚かと言える。


  「ヒィ!ま、周りこまッ!?」


  「逃がすか…王国兵士。お前らはここで全員死ぬ。恨むのは俺を産んだ王国を恨め」

 

  「お、お前はッ!ハッ!家族を殺されたのが、そんなに憎いか!哀れだな!これが王国最強の末路か!ハザッ!?」


  最後の一人。その首を大剣で刈り取る。吹き出る血に染まるハザクはゆっくりと歩き出す。


  「次だ。行くぞ」


  まだ、人々が起き出す時間には遠い。






  「やぁ。初めましてだな。ここはお前のマイルームだろう?いいところじゃないか。気に入ったよ」


  「そうか……言いたいことはそれだけか?全く、世の中には底抜けの馬鹿ってのがいるんだな。ここがどこだか知ってんのか?」


  「知っているさ。失敬だなぁ、君は。賊のアジトだろう?随分と立派で最初は分からなかったよ。随分と羽振りがいいみたいでなにより」

 

  マザランから少し離れた山中。そこに、ここら一帯の賊を纏める大親分という存在がいると情報を街の裏情報屋に聞いたのだ。


  名はグルグズ。熊のように大きな身体に非情で残忍な性格をしている恐ろしい人だという。


  「あぁ、お前みたいな馬鹿のお陰でな。面白いくらい金が入ってくる。さて、そろそろお喋りは終わりだ。まさか生きて出れるなんて馬鹿な事は考えていないよなァ?」


  「勿論だとも。手ぶらでは帰らないさ。君という戦利品が必要だ。馬鹿でも矢よけにはなるからな」


  目の前の男がまさにそのグルグズ本人であろう。それもそのはずだ、ここは()()()()()()()()()グルグズの側近から教えて貰った本人の部屋なのだから。


  「馬鹿に馬鹿と言われると流石に腹が立つぜ。もう、いい。狂人の相手は後だ。オイッ!お前らッ!客人だ!もてなせッ!」


  グルクズが人を呼びつけるが、誰も反応しない。更に声を張り上げて叫ぶが誰も来る気配は無い。いつもならば、グルグズの換気に触れないように一秒もたたずに飛んでくるのにだ。


  「……どういう…事だ…?」


  「くっくっく…ハァーハッハッハッハッハッ!どうした、親分!自慢の配下はどこに行ったんだ?」


「テメェの…仕業か?まさか…テメェ…王国のグッ!?」


  ゆっくりと腰から鉈を引き抜き、ゲードへ向けるグルグズ。侮りを捨てて、油断無く警戒する。そして、最悪の可用性を考えつく。それは王国の辺境軍が賊の掃討に全力を入れた。つまり、目の前の男は王国軍の…と、それ以上は何も言えなくなる。


  「それ以上は喋るな。死にたくなければな」


  「……ッ!」


  太い首に、冷たいナイフの感触が嫌に感じる。全く気配など感じないかった。だというのに背後、いや。背中に()()()()()()()()


  「それ以上は禁句だぞ?王国のクズ共と一緒にして欲しくないからな。俺は王国を壊すもの。その為にお前らが必要だ。俺の駒になってくれよ」


  「……グッ!」


  ふざけるなッ!と、怒鳴り散らしたいがナイフの殺気がそれを許さない。身動き一つ、何かするだけでこのナイフは己の生命線を確実に断ち切るだろう。それだけの達人が後ろにいる。


  「なに、その中でも君は特別待遇だ。賊共を纏める将の立場なのだからな。だから、そこから10歩前に歩くことを許可しよう。窓から外を見るといい。きっと素直になることだろう」


  ナイフの殺気が前に進めと命令をしてくる。上半身は極力動かさないように、下半身だけを動かして前に進み。窓の外を見る。


  「なっ…」


  開いた口が塞がらない。唖然としたグルグズの目の前に広がっていたのは己の配下達が武器を捨てて降伏している姿。しかし、驚くのはそこでは無い。


  「魔物だとッ!バカな…」


  ナイフの殺気すら忘れて窓に身体を乗り上げて、驚きの声を上げた。有り得ない事だ、まるで後ろに座っている男が魔物を操っているような。


  「どうだ?面白いだろう?お前達の新しい同僚だ」


  「あれは、お前が?」


  「誰がお前に発言を許した?クナイ」


  「はい」

 

  「グッ…分かった!従う!お前がボスだ!認めようッ!」


  「何故お前から認められなければならん。いらんよ、そんなものは。お前にも魔物同様、刻印を刻むだけだ。抑えていろクナイ。クックック…これでいよいよ戦力が整うぞ」


  「待っ!待て!頼む!グァァァァァァアッ!」


  マザランの都市を中心に略奪活動を続けていた賊による被害報告はこの日より一切無くなる。街での抗争が日々繰り広げられている街の人々は予想外の出来事に喜ぶが…それが嵐の前の静けさだということに気がついている者は少ない。


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