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誇り高き龍種の長

 

「どうしたぁ!口程にも無いな!劣勢だぞ!どうにかせねばそのまま敗北だ!ほれぇい!どうにかしてみせろ!」


 劣勢、倒れる魔物の数は確かにこちらの方が多く。確実に押し込まれているのは事実。走り回るクナイも顔に余裕がなくなっていた。


 対して魔王率いる白骨の魔物達は更に気勢を上げ、前へ前へ進み完全に優勢。魔王の指揮も見事と言わざるおえまい。的確にして大胆、そして常に意識外からで想定を上回る。もはや、それは芸術に近いものがある。古に失われた戦いの芸術は確かに見事で。


「実に勉強になる」


「ほれい!行くぞ!」


 ゲードの顔に焦りは無い。ただ、冷静にその動きを観察し及ばずながらも致命傷にならないように対策を打って行く。


「ふぅむ。まだ、崩れぬか。まぁ言うほどはあるか。ここまで持ち堪えたのは我が時代でも十人もいまい」


 ありとあらゆる揺さぶり、奇襲、強襲。その全てを凌ぎ今まで軍を維持させている。これは魔王にしても軽い驚きだ。一撃目にして諦めて残りの魔物を全て吐き出させるつもりだったのだから。


「おい?何を気を抜いている?そんな暇があるのか?」


 ゲードの声。怪訝そうにそれを見下ろすが、すぐにその意味を理解する。完全に意識外の場所に強襲を受けていたのだ。


「……ほう?」


 ビキリと、額に青筋が浮かぶのがわかる。戦場では控えるべき怒りの熱が一気に身体を駆け巡って行く。


「この状況の中、お前に反撃できた奴は何人いたんだ?」


「……お前で三人目だ。そいつら全員この魔王自ら首を刎ねてやったがなッ‼︎小僧、もう手心は加えてやらぬ!本気で貴様を叩き潰してくれるわ!」


 ゲードが放った攻撃もすぐさま跳ね返され、吼える魔王が指揮する軍と攻撃は更に苛烈になろうとしていた、が…。


「ほう、奇遇だな。俺もそろそろお前の戦い方にも飽きてきた。大体見たからな。本気を出すのは魔王、貴様だけでは無いぞ」


 怪しく煌めく瞳は勝ちを確信しているもの。それは古の覇王である男を前にして、それを射抜く。


「抜かせ!行け者ども!彼奴の軍を蹴散らし、痴れ者を我が御前の前で持てぇい‼︎」


「所詮は古び、錆びついた骨董品だ。魔王の残滓如きに負けるか、この悪魔王が。人類の敵としての格の違いを見せてくれよう」


 怪しく光る両軍の魔物達の瞳は、その戦意を受け吼える。吼える。それは、古の魔王を封じる結界に小さくヒビを入れるほど。


 決着はもうすぐ。













「馬鹿な…」


 押されている?人間如きにしかも同数で?軍略に天才と言われたこの我が?


「馬鹿なッ!」


「それは想定内だ。古の魔王よ。しかし少々癖の強い指揮、慣れるのに時間がかかりすぎたか」


「慣れた…?我の指揮を!大陸の殆どを支配した我が指揮を貴様は見切ったと言うのかッ‼︎」


「疑うなら見ればいい。これから先の結果を」


 戦いの結果だけで語ろう。それは、ゲードの自信の表れであり、己の才能を信じているからこその言葉でもある。


「ぐぅッ!おのれぇ!」


 右翼、白骨魔物部隊突然の奇襲により後退。左翼、敵主力をこちらに回し強襲。完全に瓦解。中央はその間死守。崩れた左翼からの側面攻撃に中央は劣勢。右翼から戦力を回すがそれでも手が足りず軍が全体的に後退。甚大な被害が出る。


「…なぜ?」


 何故、こうも裏手、こちらの手が外れる?


「本当に見切っていると言うのか⁉︎この我の!」


 ことごとくを覆され、後ろに下がっているのはどちらか。気がついて笑ってしまう。そうか、あの時我を前にした敵どもはこういう感情だったか。いま、ようやく知った。


「チェックだ、古の魔王」


「この化け物めが」


 両手を上げ、白骨の魔物は白い霧となり消え去り、その場には首筋に突きつけられるナイフの煌めきが見えるだけ。


「最高の天才と呼ばれた我を全く寄せ付けんとはな。最高の天才如きでは、才能の暴力には勝てん。貴様が同じ時代の奴じゃなくてよかったわ」


 ハァと、ため息を吐いているにも関わらずその表情はどこか満足気で。


「戦では無敗だったと言うのに、勇者とやらに闇討ちされ命を落とした無念。未だに忘れはしないがここで完全に打ち負かされたのであれば大人しく消えることができる」


 いつでもやれ、と言わんばかりの態度の魔王。魔王にしてはどうにも潔すぎる。それでは人間の勇者に負けるなと思いながら冷めた目でゲードは口を開く。


「何を勘違いしているが知らんが、何勝手に消えようとしている?なぜ、俺がわざわざこのような辺境の森まで足を運んだと思っているのだ」


「……なに?」


「俺に寄越せ。その力は俺の復讐の為に使える」


 ゲードのあまりに不遜すぎる申し出、いや…違うか。勝者の当然の命令だ。


「……人如きが使いこなせるとでも?」


「俺に使いこなせないと?笑わせるな、先程証明したはずだ。俺にはその力があると」


「貴様……何者だ。悪魔王などど酔狂で名乗っているわけでは無いな?」


「当たり前だ。俺は今この大陸の半分を支配する広大な王国を崩し、壊し、滅ぼす者だ。そのために貴様に力は使える、再度言おう。寄越せ、俺に。貴様の全てを俺に譲渡しろ」


「……フン…よかろう。くれてやる。どうせこの結界と我は一心同体、もうじき崩れる結果と共に我も消えるだろう。好きに使え、我が冥府の同胞、古の禁術を」


 何かを思いついたのか、ニヤリと笑いやけに素直に力をゲードに明け渡す古の魔王。


「そういえば、まだ名乗ってなかったな‼︎」


 クナイの拘束をなんのその消え掛ける魔王は両手を広げゲードを見下ろし、叫ぶ。


「かつて大陸の殆どを手中に収めた古の魔王‼︎我が名は‼︎ドラゴ・グラニール‼︎誇り高き龍種の長よ‼︎では、悪魔王‼︎()()()()()()ッ‼︎」




 煩いくらいの声と、ガラスが割れて行くように崩れていく音。それが一段と大きくなったかと思ったら。







「へ…も、森?」


 鬱蒼と生い茂る森林に、綺麗な小川。日の高さはあの時より待ったく変わらない。まるで白昼夢のように錯覚してしまう。


「本当の意味で魔王が死んだ。その証拠にこの森に満ちていた魔力が随分と薄くなったようだな」


「え!そ、それはマズイのでは⁉︎それでは強力な魔物が…」


「必要無い」


「へ……」


 ゲードの言葉に惚けるクナイの頭を撫で、帰るぞと言い踵を返した。それについていくクナイは困惑顔だ。


「何、簡単な話だ。あの魔王の力を引き継いだ」


 つまりと言葉を続け、パチンと指を鳴らす。


 その瞬間出てくる無数の魔術陣と、腹を空かせたこの森の強力な魔物達。


「ガァァァァッ!」


「それはつまり、冥府の王と直談判できる程の力だ」


「「「「「「グリァァァァァッッ‼︎」」」」」」


 魔術陣から出てくる無数の古の魔物。しかも、魔王の時は違いその姿は生前のまま。


「この森の魔物如きもはや話にならんよ。この通り……」


 一瞬で食い散らされ、物足りなそうにゲードを見つめる。


「練習にすらなりはしまい。戦力問題は解決だ、すぐに戻るぞ」


 骨すら残らず食い荒らした魔物は霧のように消えていき、その場にはただ散乱した血液痕が残るのみ。


「流石…!流石ゲード様です!このクナイ、一生お供します‼︎


 例え冥府でも。恍惚とした顔のクナイ。その中で育っていくゲードへの狂愛。それは多分、唯一ゲードの想定を上回っているものだろう。



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