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くっつき魔導師ヴィヴィアン・マリーゴールドは、鋼の聖騎士さまに恋してるっ♡  作者: 著:ATTPPK,訳:朝倉 ぷらす
第一章 プロローグ
3/7

2. 神代との狭間での戦闘 2




「そぉーれっ!」


 ―――――――ドッパッ。


 ヴィヴィが、いつの間にか手にしていたトゲ付き戦棍(メイス)。知る者が見れば、金砕棒(こんさいぼう)と言うだろう。

 それをフルスイングするだけで、魔物が弾け飛んだ。


 まるでメイスの(まと)なりたいかのように(丶丶丶丶丶丶丶丶丶)、ヴィヴィの目の前に飛び込んできて、一様に殴られて、弾けて臓腑(ぞうふ)を晒している。

 その血飛沫(ちしぶき)は、さながら爆炎の様。


 だから、『鮮血の爆炎(ブラッディー・ボム)』などと呼ばれるのだと、突撃魔導大隊副隊長のバルトは思う。そして、あれだけ近距離で血飛沫を上げながら、返り血に濡れることない様子に(うらや)む。さすが、『純潔の乙女』だ、と。『魔装魔導師』と呼ばれるだけの装備を持っているものだと、バルトは思う。


 吸着の魔法。


 ヴィヴィは、「アッチとコッチを引き寄せる便利な魔法なのよ?」と称した。その言葉を思い出して、バルトは苦笑する。

 一般には、精々が壁歩きを可能にする程度の魔法だと認識されている。

 その程度であれば、飛んだ方が早い。


 彼我の(あいだ)が遠ければ遠いほど、必要とされる魔力が膨大になり、片腕ほども離れたところにある杖を引き寄せられるようになれば、そこそこ腕の立つ魔法使いとして認められるほどだった。


 その魔法を、ヴィヴィは息を吸うように扱って、魔物の群れを地面へと()い付け、(あまつさ)え、力の無い魔物を潰すほどの威力で発動している。それを、一日(いちじつ)(あいだ)を埋め尽くすほどの魔物に、等しく行使しているのだから、一体どれ程の魔力が必要か、バルトには計り知れなかった。


「やっ! とーっ!」


 バルトたち、突撃魔導大隊が広域攻撃魔法や魔術を構築する最中(さなか)、ヴィヴィは場違いな掛け声を上げ続けている。


 気の抜けた、気合いの掛け声とでも言うべきか。


 ただ、その声が一つ上がる(ごと)に、10ではきかない数の魔物が血と臓物の塊に成り果てている。

 そして、確実に数歩、前に進んでいる。


 その裏でバルト以下、突撃魔導大隊は各々、魔法や魔術を練っていた。


 突撃魔導大隊が落ちこぼれと揶揄(やゆ)される所以(ゆえん)、それは、所属する隊員の大半が、魔法や魔術の発動が遅いからであった。

 魔力は魔導士として十分(じゅうぶん)

 (あつか)う魔法や魔術の数も十分。


 それでも、発動速度が遅かった。


 戦場で、それは致命的である。

 さらに、彼ら突撃魔導大隊の多くは、研究魔導士としての採用枠から(もれ)る程の成績しか修められなかった。

 だからこその、落ちこぼれの烙印(らくいん)


(くっ。)


 バルトは内心で歯噛(はが)みしていた。

 いつもこれだ、と。

 ヴィヴィが比較的、強い個体を選別して引き寄せて、メイスを振っているのは明白だった。

 だからこそ、わざわざ地上に降り立って非効率な攻撃を繰り返しているのが、明白だった。


 先ほどは、落ちこぼれと言われていることを(あざわら)った。

 だが、確かにその通りなのであった。


 ヴィヴィがこの場を離れても、相手にできる程度の強さの敵だけが残るように配慮されている事実。



「ふぅ。」



 ヴィヴィが、ひと息()く。

 それは、吸着の魔導を解除する合図。


「『――元始(げんし)()篝火(かがりび)とは太陽のことであった』ッッッッ!!!!」


 同時に、バルトも長い詠唱を終える。


「時間にピッタリですね。ヴォータさん。」


 クルリと振り返ったヴィヴィの背中には、視界を埋め尽くすほど輝く光の塊があった。

 そして、それは肌をジリジリと焼く熱を放っていた。


 その篝火を、太陽と呼んだ。


 神代の(うた)に、こんな一節があったという。



>   暗き森、闇の中で藻掻(もが)く君よ

>   ああ、なんと恵まれたもうことよ

>   彼の先導(せんどう)(いざな)われた、愚かな君よ

>   見上げよ、その(まなこ)に映る篝火を

>   その燃ゆる様を見よ、光を感じよ

>   眼は光を失って、新たな光を得よ

>   元始、彼の篝火とは太陽のことであった



 それを魔法使いが改編して、詠唱として成立させた。

 そして、今ひとりの魔法使いが(うた)った。

 よく練られた魔力を乗せた。

 (そば)にいた、仲間も魔力を送った。

 ひとつの炎の(たま)となった。


 それが、上空に浮かぶ、輝く球の正体であった。


 さらに(かたわ)らの魔術師が複写魔術式を展開した。

 これもやはり、側の仲間が支えた。

 大きな魔力のうねり(丶丶丶)があって、炎の球は平面に並ぶように増える。それは、彼ら、突撃魔導大隊の上空を除いて、魔物の一軍の前半分ほどを(おお)い尽くした。白色に輝く天井。魔物たちも、(ほう)けたように空を見上げる。

 そしてひとつの大きな魔法が完成する。


 戦略級合同魔法、『太陽の(かまど)』。


「んぐぐぐぐぐぐぐっ!」


 バルトの顔面は、血管が破裂しそうなほどの赤面だった。

 『太陽の竈』は、ひとりの魔法使いに負担を強いる。


 しかし、宮廷魔導士としての矜持(きょうじ)が、ロード・バルト・ヴァン・ウォーターゲーツ男爵を支えていた。

 落ちこぼれと言われて、しかし(くじ)けなかった。ただ、詠唱がゆっくりしているだけだ、と励ましてくれた上司がいた。


 その上司を、高が小娘、と初めは(あなど)っていた。


 バルトは自嘲(じちょう)する。

 いつもこれだ、と内心で毒づく。

 キツイ魔法を発動するとき、余計なことが頭を()ぎる。


「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっっ!!」


 魔力探知をするバルトの脳裏には、膨大な魔物の姿が映っていた。


 その一つ一つに竈の熱を絞っていく。


 その熱は(あやま)たず、魔物の軍勢だけを焼殺していた。


 ただ、炎の球を落とすだけなら誰にだってできる。

 宮廷魔導士であるから、それ以上を求められて当然だった。

 バルトは、魔法使いである。

 魔法使い、魔術師、魔女は(みな)、程度の差こそあれ、魔導の深遠に至るための修行を続けるストイックな側面を持っている。

 それゆえに近付きがたい雰囲気と、お高く留まった印象を受け、宮廷魔導士ともなれば尚更だった。


 だが、(おご)っているからこその矜持(きょうじ)があった。バルトは『太陽の竈』を完全に支配して、敵のみを焼殺す繊細な魔力操作を、成し遂げなければなるまい。

 集中力を一瞬でも失えば、暴走すると容易に想像できる魔法を、操る。周りで支える仲間も、バルトが失敗するとは微塵(みじん)も考えていない。


「――お見事です。ヴォータさん、また腕を上げられたのですね。」


 パシン、とヴィヴィが扇を畳む。

 メイスはどこにあるのか、その手には無かった。

 そして、その音を合図にするかのように、天井が晴れ渡る。

 ヴィヴィは、バルトの実力を正確に理解していた。

 『太陽の竈』、その発動限界を正確に言い当てた。


「――だあっ! はあ゛っ! はあっ゛! はあっ! はあっ!」


 バルトが肩で息をする。

 輝く天井は、雲ひとつ無い天に戻る。


 そして、周りにいた魔物の軍勢は、(ことごと)く炭で出来た像になっていた。

 しかし、草原は青々としたまま。


「これで、少しスッキリいたしましたね。……(わたくし)は、これから――、」


 ヴィヴィは、閉じた扇で魔物の軍勢を指した。


「――あちらにいらっしゃる方々(丶丶)とお話をしてきます。」

「なるほど! それでは道をお作りいたさねば、なりませんな!」


 声高に前に進み出てきた偉丈夫(いじょうふ)。魔導士でも稀有(けう)な体格の、その右腕が虹色に輝いていた。


「我ら、マタゴニアス兄弟が、花道を献上いたします、筆頭殿ッ!」


 アンドレイ・マタゴニアスとジルベルトー・マタゴニアス。

 宮廷魔導士でも珍しい魔闘士の、しかも双子である。


 魔闘士。魔法も魔術も操る点では、万能に思われる一方で、魔力を(わず)かにしか体外に放出することが叶わない体質を持つ者が多いことで知られる。

 マタゴニアス兄弟も例に漏れず、生まれて間もなくその体質が知られ、虐げられてきた過去を持つ。


 しかし幸運にも、幼少期に格闘術の師範に師事する機会を得て、技を極めている内に双子間では、弱いながらも魔力が通ることを発見する。


 その稀有な性質を利用した合同魔法を駆使し、宮廷魔導士の末席に(つら)なるまでに至ったが、やはり純粋な魔法使いでも魔術師でもないことから突撃魔導大隊に配属された。マタゴニアス兄弟の魔法や魔術の発動が遅いのは、単に、戦闘手段が格闘術よりのため、即座に何度も魔法を行使しなければならない、などということに、ならなかったためであった。


 しかし、その実力は、折り紙付きである。


 兄、アンドレイの右腕は魔力に輝き、虹色の光を放っている。

 弟、ジルベルトーの両手の間で、輝く文様が幾重にも連なる。


「よろしく、お願いいたしますね。」


 ヴィヴィが、正面を譲る。


 アンドレイは、『嵐竜の息吹』と呼ばれる魔法を繰り出そうとしていた。

 それは、巨大な竜巻である。何もかもを切り刻む、風の渦である。

 しかし、アンドレイひとりでは、本来の『嵐竜の息吹』の発動など、夢のまた夢。


 魔闘士らしく、魔法や魔術を身体の強化の(すべ)として、戦う。つまり、普通ならば、アンドレイの拳に敵を切り刻む風を乗せる魔法として、発動する。

 しかし、ジルベルトーと魔力が繋がっていた。

 ひとりでは難しい放出魔術の制御を、ジルベルトーが分担する。


 (いな)。ジルベルトーがいるからこそ、その魔法は、より強大で凶悪なものとなって、発動する。


 『嵐竜()の息吹』。


 アンドレイは、魔力の循環を意識するために、輝く右手を左手で包み、身体と併せて輪を作っている。

 そして、ヴィヴィの言葉に(うなず)いた。


 少し間を開けて、アンドレイは(つぶや)いた。


 かつて、一人の吟遊詩人(トルバドール)が語った、唄があった。


>   ――立ち向かったる 青の聖剣 御腰に提げた 美剣士ひとり

>   時は間もなく 後にも引けず 小さき王を いざ(しず)めん

>   我こそ勇者 遠くの者も 音に聞こえし その活躍を

>   勇者は笑う 小さく笑う 王も笑った 大きく吠えた

>   吠えた口から 嵐が巻いた 大きな風の 大渦だった

>   島のひとつを 巻き上げ砕く―― 


「『――小さき王のォ! 竜の一撃』ッッ!! フンぬぁぁああああああああああっっっっっっっ!!!!」


 (ごう)っと、風が巻いた。


 何かが、魔法陣が砕ける音がした。


 ジルベルトーが張った砲台の照準のごとき、幾重もの魔法陣。


 アンドレイは、高まった魔力の塊を、その砲身から打ち出した。


 『嵐竜王の息吹』。


 直線上の魔物が吹き飛んでいく。


 かつて、都市を大地から引きはがして吹き飛ばした、竜王の息吹の再現。


 しかし、アンドレイの放った息吹は器用に魔物の軍勢だけを搦め捕り、切り刻み、そして吹き飛ばして進んでいく。



 ――突然。



 息吹が届いたその先に、雷鳴が(とどろ)いた。


「……やはり、(おん)大将は真正面の一番奥のようでありましたか、筆頭殿。」

「ええ、そのようです。……そして、やはり(わたくし)の知る者たちのようですわ。」


 息を切らすアンドレイとは異なり、冷静に事後の推移を観察していたジルベルトー。

 その言葉にヴィヴィは明確に、淑女にあるまじき嘆息(たんそく)を漏らした。

 そして、思い出したようにヴィヴィは、マタゴニアス兄弟に向かって(ねぎら)う。


「……いえ、二人ともご苦労さま。」

「勿体ないお言葉です、筆頭殿。」

「これより、(わたくし)は前に出ます。……あの方々とお話しして、この茶番劇を引き起こした理由を(たず)ねなければなりません。」

「承知いたしました。筆頭殿、お気をつけを。」

「ありがとう。」


 ヴィヴィの微笑(ほほえみ)は、艶然(えんぜん)として美しかった。







~to be continued~

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