月島灯里の七転び八起きな受難
書きました!書きましたよ?リクエスト下さった皆さん。ご期待に添えているかは別として!書けました!難産でしたがあ!
私、こと月島灯里(27)は頑張った。
力の限り頑張った筈だ。なのに、「─────それでは、これで月島さんには安藤隆浩会長のプライベート秘書として公務に同行、スケジュール管理などを担当して戴きます。宜しいですね?」
例のマトリック○な黒尽くめスーツの方が仰った。
何で、こうなった─────‼︎‼︎
鹿威しが【カッコン!】と音を立て、肉がじゅうじゅういい匂いを立ち上らせていた。
くうーッ!美味そう‼︎
※前回までのあらすじ*
私こと月島灯里は田舎のカウンターレディのバイトをして、一人暮らしの補填をしてました〜。そこへ何処ぞの893の会長さんが飛び込みで来店。何故か気に入られて足繁く通われた挙句、美形の孫まで虜にしてしまう。
しかし、それは彼らが飼っていたパグ似だ・か・ら、というチョー残念な理由な上、遂に灯里は勤め先のママから見限られてしまう。
(詳しくは『月島灯里の降って湧いた災難』をお読み下さい)
「…先ず、ごっちゃになっている問題から片付けましょう。隆浩さん、秀嗣さん、どうか協力態勢を解いて下さいな。
目的は私を取り込む事でしょうが、それぞれのゴールは違う筈ですよね?(ぐうウゥ)」
「おし、先ず肉を食えあかりちゃん。そして涎を拭け。秀嗣、あかりちゃんを力尽くで介護しようとすんな!一人で食わせてやれ」
「会長、余計な事言うなや。このガチガチ具合が何とも…。実にみっこに似てて愛らしいんじゃあ」
舌舐めずりまでし始めた大型肉食獣が、滴るような色気まで漂わせ始めましたよ?
あれは性欲ですか?食欲ですか?
僅かに前傾姿勢を取って、ジワリと距離を置くと、肉にお塩をつけて戴く。
「うーまーいー!くぅ〜〜う、涙出る程うーまーいー!こんな状況じゃなかったら、心ゆくまで堪能するのにぃ!────さてと隆浩さん、
貴方の要望をお伺いします」
もっきゅもっきゅ、とお肉を頬張る27歳はお爺ちゃんの方を向いて尋ねた。
「もっきゅ、もっきゅってリスか。あー俺、小動物大好き。もー萌え死ぬわ…。あ、要望だったな?うん、俺は女孫がおらんから、可愛いあかりちゃんと『爺ちゃんと孫娘』したいかな?秀嗣の女になってくれるなら、遊べるかと思ったが、よう考えたらその勝手で独占欲の塊が昼間といえど、お前さんを放し飼いする訳ゃあないか。ま、店はクビにさせちまったからな〜予定通り、秘書でもしねえか?」
肉の消化とは違う唾がゴクン、と喉を鳴らします。
「…置いといてー。じゃ、秀嗣さんは?」
すぐ傍で手酌で水の様に日本酒を嗜んでいた美丈夫は薄く微笑うと、物凄い流し目をくれた。
「大学出たてであの会社をぽん、と親から任され、俺の癒しはみっこだけでした。帰って来るとドアの開いた音を聞きつけて見に来るんですよ。それでも俺が怖いからそっと覗くんですよ。そいでドアから半身が!まるで隠れてないのに気付いて無いんです…もう、可笑しくて腹が捩れて捩れて」
思い出に思いを馳せる彼の目は心底愛おしい、といった光を湛えている。
言ってる内容は酷いがな!
「やっと上手く回せる様になって、巨万の富を稼ぎ出しても、もう俺を癒すみっこは居ない。小百合が産んだ他の兄妹でもダメでした…。
皆、一応に餌を前にすると簡単に尻尾を振って懐いてしまう。みっこなら、ダラダラ涎を流しながら、餌の見える範囲で俺が離れるのを静かに待つのに」
完全にあんさんに怯えてまんがな!
「…因みにそんな時、秀嗣さんは如何なされるのでしょうか?」
恐る恐る尋ねれば、
「決まってる。─────捕獲するんだよ。何事も無い様に離れるフリをしてね。
もー、あらぬ方向から捕まったみっこの固まってからの怯えようと言ったら!」
病ーんーでーたー!
「会長を惑わす女が居る、と聞いて興味半分で付いて来て、雰囲気美人の君に一目惚れした。
そして、俺を見る、話して怯える君に二度惚れた。初めてだよ…女性に対してこんな想いが込み上げてきたのは。今までは三種類にしか分類出来なかったのに、特別枠をもぎ取ったのはあかりさん、君だけだ」
そんな熱っぽい目で見られても!語る中身に恐怖しか湧かんわ!
「三種類…?」
「『性欲処理用』『孕ます用』『有象無象』だな。多分」
爺ちゃんがさらりと言い捨てよった。
おい、ストライクゾーンより上、より下の方々とご家族の方々は一体…。
「『有象無象』」「そこも含むのか⁉︎」
そしてナニ、このエスパー!テレパシーなのッ⁉︎
「だから、君が欲しい。ああ、出来れば俺を好いて欲しいけど…俺の方は返事は要らない。じっくりと(囲い込んだ後で)時間を掛けて堕としていくつもりだから」
いーやーな副音声がキーコーエールー!
獰猛な肉食獣が壮絶なフェロモンを発して流し目を送ってきました。
視線だけで射殺されそうです。誰か助けて。
マズイね。何かイケメンより爺ちゃんを選んだ方がマシだと思える程にマズイね。いや、まあどっちも尻から火を噴くほどロクデモナイけどな!私は背中にダラダラと生汗が沸くのを感じながら、口を開いた。
「隆浩さん、お世話になります」
「おう、任せとけ」
「何故⁉︎」
何故もヘッタクレもあるか。取り敢えず、『爺ちゃんと孫娘』なら監禁と強姦は免れるだろーが。
つか、こっちの方が譲歩を引き出せる可能性が高い。秀嗣さんだと最上でペット、最悪で姐さんだ!あのチョーシで夜、弱いとか無さそげ。故にどっちも腰が砕けるまで『あんあん』
ヤられる前提だがな‼︎シクシク。
「取り敢えず昼間は仕事があるんですけど」
「そりゃあ勿論、俺ンとこで雇い直すから辞めるんだな」
「……ですよね〜」
「秘書ってな、四六時中張り付いてるもんだからな。特注でコルセット型ナノチューブ防弾チョッキを配給してやる。腹筋が鍛えられるぞい」
「撃たれる可能性が⁉︎社会保険入れますか?」
「あかりさん、会長とかじゃなく俺の所に就職すれば命の危険は格段に減る。給料も社会保険も危険手当もきっちり保証するよ?」
お肉を食べ終わった私はさりげなく安藤のお爺ちゃんを楯にする為に背中に回り込んだ。白檀の香りがふわりと漂う。
「いや、命の安全はモチ大事ですが、最悪私は現状の私のままでいられるのが要望のベースでして。拒否って無駄な抵抗をした挙句、日常をガリガリ命の限り削られるよりどうせ冒険するなら極道の会長SPの影に潜み、ひっそりと移動、ヤバい場面は悲鳴を通さない耳栓と孫娘ポジで隠れて乗り切る方を寧ろ選んでみたいです。血生臭い現場に立ち会うにしても隆浩さんはトップ、しかも会長職なら前線を離脱していますよねー。最前線の貴方より比較的穏便な毎日が送れそうで〜」
皺だらけだが大きな手が横腹に近い腰をポンポン、と安心させる様に叩いた。
「そうですか。─────後悔しますよ?」
うっそりと微笑むイケメンの目が酷薄に光る。灯里は爺ちゃんの羽織にしがみ付いた。
殺〜〜ら〜〜れ〜〜る〜〜!
「タカ、隆浩、さんっ‼︎おまごしゃんを〜おまごしゃんをォ〜〜!」
「おお怖いのぅ、怖いのう。あかりちゃん大丈夫じゃ、爺ちゃんが付いたる。コラ秀嗣、嫉妬深い男は嫌われるぞい?」
ネゴシエーターもかくや、といった綱渡りの交渉を済ませた灯里は爺ちゃんの『ご厚意』で立派な日本庭園のある本宅の一室をご用意され、ご立派な檜風呂を堪能させられていた。
うむ、私に幸あれ!
じゃ、ねぇよ‼︎爺ちゃんに笑いながら黒塗りの高級車に引きずって押し込まれたんだよ!
何故かお手伝いさんらしき人から下着と旅館の浴衣みたいなの渡されたんだよ!
どーでもいいけど、檜風呂、でけえ!
「あー。…退職手続きめんど〜。7日間の待機期間くれないかなあ。職安通してくれれば一時金貰えるんだけど。アパートも引き払うのかあ…引っ越し誰か寄越してくれんのかなあ」
かぽーん。
怒涛の展開について行けない流され人生。
理不尽って、こういう事よね…。
でも、抗うだけの気力根性美貌能力がありません。大体ヤクザの会長の秘書、ってナニすればいいのよ?こちとら一介の女工員でOL経験すら無いわよ。
疲れ切った(主に精神的に)身体を充てがわれた12畳程の部屋でふかふっかの布団に包まれて夢も見ないで眠った。
そして翌日───────冒頭のシーンとなる訳で。
「あの…元の職場に退職の届け出を「必要有りません。当方の弁護士が既に朝から出向いて手続きをする手配が整っています。役所に出す書類などはこちらに。取り急ぎ委任状にサインと判子を。お部屋の方も引き続き、昨日お休みになられたお部屋に本日中に荷物を運び込んでおきますし、退去の手続き等もお任せ下さい」
諸手続きに二週間下さい、と言おうとして黒スーツに台詞をぶった斬られた。
ナニ、その手際の良さ。既にこの着ているスーツもお仕着せで肌触り、縫製共に抜群。
オーダーだよ!紛う事なきオーダーメイドだよッ‼︎どうして服がジャストフィットなんだよ⁉︎誰だ!誰が漏らしたんだマイサイズ!そして、靴はルプタンだったよ‼︎足が震えそうです、と言ったら何故そっとフェラガモ出すの?馬鹿なの?
「今日はな、あかりちゃんの秘書初日だから、リラックスできる様に爺ちゃんの友達んとこ遊びに行くからな〜〜」
颯爽と品の良い和服姿の爺様に又してもあっという間に黒塗りの高級車に押し込まれ、着いた先が何処の金持ちの土地だよ的なお屋敷だった。
「─────なんじゃあ、隆ァ!こん娘子、小百合(しつこい様だが隆浩爺の故・飼い母犬パグ)そっくりやないかーい!」
小指の先とか細長い所をこより的な物を使ってジャストフィットで〆《シメ》たろか、ジジイ、コンチクショウ‼︎
そんな事をヤクザDVDにリアルで出てる様なお爺様に言い返せる筈も無く、腹立ち紛れに孤独のグル○の松重さんの様に3カウントでフェードアウトしようとして、黒スーツに背後を取られた!に、ニンジャ‼︎
「じゃろ?俺の新しいプライベート秘書なんだ〜〜。今度『西日本パグを愛でるジジイの会』に連れてって見せびらかそうかと思ってな!先ずは宗馬、お前んとこに連れてきた‼︎」
一方、一見上品な金持ちジジイにしか見えない隆浩さんは胸を張って得意げだ。だが、その言動は迷惑でしかない!
宗馬と呼ばれたザ・ヤクザの風貌のお爺様は悔しげに地団駄踏んでいる。おい、マジかッ⁉︎
そして!何だその、『西日本パグを愛でるジジイの会』てッ⁉︎
可愛らしい団体名に反して、構成員にヤバい匂いがプンプンしやがる〜!
「…そんな西日本、謹んで猫、増えろー」
小声で呟く私に罪は無い。そんな私は今、切実に岩合光○と世界ネコ歩き隊。
闊達な笑いと地団駄が響く白砂の上をザクザクと歩み寄る音がして、ふと振り返った。
ボーイ・ミーツ・ガール。
数秒見つめ合う私達。
ちょっぴりタレ目の素敵お兄さんがジジイ等に声を掛けようとして、時が止まった。
いや、端正な顔が泣きそうな顔に歪んで、両手を向かえる様に開いたではないか!
「おいで!──────小百合ッ‼︎」
行くかよ。
「あー、隆浩さん。随分庭で話し込んでますがー、まだ掛かるようなら私、『お花畑』に『花を摘みに』行っていいですかー?」
美形を無視してジジイ共に何気に小用を匂わせると、構わせろ!構わせろ!と前に出たさそうな宗馬さんを腕一本で物理的に抑えて、隆浩さんが鷹揚に『行ってこい』と首を振った。
私が屋敷の人に場所を尋ねようと歩きながら辺りを窺っていると、背後から駆ける軽やかな足音がして、目の前に回り込んだ。
それはやはりあの色気漂う美青年で、長身で抱え込むようにこちらを止めてくる。
「ちょ、ちょっと待って!キミ」
「何でございましょうか?申し訳ございませんが手短にお願い致します。お急ぎなら、先にお手水の場所を案内して戴けます?で、その道すがらお話をお伺い致しますが」
「手水…あ、トイレね!ごめん!付き添うよ」
「いえ、場所さえ教えて戴ければ…」
「犬臭いよ、小百合ィ」
そこは『水くさい』だろう!
追加で誰が小百合か⁉︎
さんざ纏わりつくこの男が将来、『西日本パグを愛でるジジイの会』に入ることだけは間違いないだろう。そして、多分宗馬さんの縁者で、紛う事なきヤクザの構成員だという事も。
「…それで、何か御用でしょうか?」
「うん、あ、こっちだよ。俺は宗馬寛司。知ってた?あそこで地団駄踏んでた爺さんの孫なんだけど」
「いえ、申し訳ございませんが存じ上げません。急遽本日より、安藤会長のプライベート秘書に抜擢されましたのでどうも勉強不足で」
やっぱり孫か!
速足で案内されるまま歩いて行くと、どうぞ、とだだ広い洋風な一室に招かれて、流れるようにその部屋のトイレへ。軽く礼を言って飛び込み、慌ててしゃがむと便座が温められていて心地良かった。
いや、マテ。そんな場合じゃねぇだろオイ。
何で『部屋のトイレ』なんだ⁉︎
で、ここ『誰の部屋』なんだよ⁉︎
「─────小百合似のカノジョ〜。ねぇ、済ませたならお話、しよーよ。隆浩爺ちゃんには連絡させとくからさ〜」
お馬鹿‼︎万事休す!ナチュラルに部屋に連れ込まれた!
私は天を仰ぐと、セカンドバッグから携帯を取り出す。
『もしもし、隆浩さん!助けて下さい。宗馬のお孫さんに自室に連れ込まれました!』
『─────今、行く』
『え?隆…ち違いますよね?誰ですか⁉︎』
小声でヘルプを訴えた私だったが、確かにお爺ィに掛けた筈だよね⁉︎何で、秀嗣さんに繋がるの⁉︎
『少々、人を使って細工したからな』
エスパーッ⁉︎
代表ー!代表、何方へーッ⁉︎って声がしてる。通話を切らないまま、バッグに放り込んだ。
かちゃかちゃとコインを使って外から鍵を開けようとする雰囲気に諦めて個室を出ると、嬉しそうな寛司さんが蕩けそうな笑顔で迎えてくれた。
「良かった。あんまり遅いから具合でも悪くなったのかと思ったよ」
「お気遣いありがとうございます。安藤会長は今、何方に?」
「爺さんらなら会合前だから碁でも打ちながら互いの根回しでもしてるんじゃない?国営カジノが合法化されちゃったらこっちにも色々影響あるからね。ただ朝鮮ピーのパチンコ業やボートと競馬との兼ね合いもある。うちの松陽会もそちらの藤蔭会とはパグを愛でる会通じて付き合いが長いからね。色々対策を打とうとしてるみたいだけど、うちの爺さんは俺に、隆浩爺ちゃんは秀嗣に外資含み土建の分野丸投げしてそっちに専念するみたいだし。九州一円で広域連合をある意味作るようなもんだから他の勢力との摩擦をどう抑え込むかが焦点になる」
「─────ほうほう」
そんなヤクザな事情赤裸々に聞かされても。
あかりたんはもう、つかれたでし。おうちにかえりたいでし。
シャト○ーゼの黒蜜きな粉アイスを信玄餅並みに頬張って、携帯小説や大河ドラマの録画を見倒したいでし。こんな生臭い世界は懐かしの岩下○麻ちゃんと北大路○也でTVの中だけでも打ち止めなんでし。スナックでのバイトスキルでは張り子の虎の様に縦に首を振るので精一杯です!
「……だからな?稼ぎは充分だと分かってくれたよね?隆浩爺ちゃんも俺にならキミを譲ってくれるんじゃないかと思うんだけど」
「はいはい───────はい?」
「パグの会には愛人の居ない孫持ちは少ないんだ。俺以上の条件の良い男は居ないと思うぜ?名前聞くより先にプロポーズってちょっと焦り過ぎだろ、って思うけど。直ぐ弁護士連れてくっから。教えて貰うのは妻の欄にサインの時でも俺は構わないよ?」
可愛らしく、こてんと首を傾げる寛司さんに渡されたボールペンを私は彼の眉間にプッスーと突き立てた。
「ぢみに痛いよ?」
「ああ、はい。意識してやってますから。月島灯里、アラサーの一般市民で本日より安藤会長の下で働いております。宜しくお見知り置き下さいませ」
「そう、あかりちゃんかー!かっわいーねー‼︎」
形容詞の前に『小百合に似て』が付くんだろうがなッ!こんな一目惚れ、嬉しくも何ともないわ!どうやって逃げよう、と知恵を巡らせていると、
あんあんあんあん、きゃん!わんわんワンワンワン!
複数の仔犬の声が近づいて来ると同時にドアがバーン、と勢い良く開く!
「灯里‼︎」
そこに登場したのは秀嗣さんと101匹ならぬ、彼に纏わり付きながら、わあ登場部屋を席巻する10匹以上のパグの仔犬達だった!
「く!秀嗣、何故アケミの子供達と一緒に?」
あんあん、きゃんきゃんきゃん!
「宗馬に飼われている血統書付きのアケミという可愛い女を差し置いて、貴様が会長の小百合に岡惚れしていたのを俺が知らないとでも思ったか」
わんわんワンワン、ワンうーうー!
「俺は別にアケミを嫌いな訳じゃない。それなりに可愛いと思っていたさ…ただ、小百合が、あの勝気な凛々しい姿が、死んだ今でも頭から離れないんだ…」
あん!きゃんきゃん、ワワン!わん!
「灯里さんに小百合を重ねるのはよせ。彼女はカタギのお嬢さんで、いずれ俺の嫁になる女だ。見ろ、無邪気なこの子らを。寛司、お前はちぃとも心が痛まねえのか?」
うきゃん、きゃんきゃんきゃん!あんあん!
あらゆる意味で修羅場かッ⁉︎
秀嗣さんは犬に集られて固まっている私に歩み寄ると片腕でひょいと抱き上げ、ひし!と力強く抱え込んだ。
「こんな所でも男を虜にしているとは、悪い女だな?灯里」
そう低く重低音の良い声で秀嗣さんが耳に囁く。ついでにぺろり、と外耳を舐められた!
呼び捨てだ!さっきから気になっていたけど、とっくに俺の女扱い‼︎
ちげーし!何かドラマの様な展開だけど所詮犬代わりだし!こちとら嬉しくも何ともないわ!
「あかりちゃん!─────てめぇ、この宗馬の孫ったって許さねえぞ⁉︎寛司!」
「寛司、小百合似の秘書ォ出しやがれッ!」
迫力のジジイ'sも黒スーツ従えて、ドアを蹴破って飛び込んで来た!
カオス。
たーすーけーてー!
目の前にヤクザの頂点。足下にパグの仔犬わらわら。背後をヤクザの孫に絡め取られて如何しようもない。
前門も後門もヤクザ!
逃げられない!全くもって逃げられない!
「おい、秀嗣!あかりちゃんを離さねえか!」
「会長、あんたに任せてこの体たらくだ。落とし前として灯里は俺がきっちり戴いていく。
なぁに、今から役所に向かって書類出したら速攻、式の準備に掛かるからな?遅くても三月後には名実共にこいつは俺の嫁だ。だが、そうなっても返さねえ。今から灯里の腹に鼻ぺちゃの娘を仕込むからな。楽しみにしてろ?」
「いやぁあ!昼夜を問わない監禁陵辱はいやぁあ‼︎」
かくして、私こと月島灯里は7つ転んで起きては猫パンチを受けて、マットに沈んだ。
恐らく式では文金高島田に結い上げられ、私は金襴緞子の帯を締められるのだろう。
親族席でプルプル震える両親の姿が今から目に浮かぶ様だ。マジですんません。
でもね!パグ似だから、好きになったんでしょう?って聞いたら、秀嗣さん、天を仰いで片目を隠し、残る片目で流し目をくれてこう言ったのよ!
「灯里は心底寂しい俺にみっこが見つけてくれた宝物だ。小百合になんか、これっぽっちも似てねえよ」
ほろり。
目元を擦る私を感動したと勘違いした秀嗣さんが嬉々としてベッドに運んでいく。
ちげーよ!そりゃあ、『小百合』より『みっこ』似だって強調しているだけじゃん!
所詮、パグ似じゃん!あんなに私、ブスじゃないわあああ!(パグ飼いの皆さん、ゴメン)
多分、続かない。
まあ、これまたある意味丸投げですが、一応おしまいに。
楽しんで戴けましたら幸いです。