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プロローグ

わしは悲しい」




それは、祖父がよく言っていた言葉だった。

子供の頃、彼女は祖父の膝の上でよく、昔話を聞いていた。

実際にあった冒険譚だ。

だが、その物語はいつも、祖父のその文句から始まるのだった。


「何が悲しいの?」


「勇者が、勇者としての役目を果たさなくなった事じゃよ」


「いいじゃん、平和になったんなら」


「それを言われちゃ無いも言えんわい」


ゲラゲラと笑い会う祖父と孫。

この話のたびに交わされていた、軽口の応酬。




かつて魔王を倒し、勇者と認められたものがいた。


そして再び復活した魔王を、その子供が倒し、その人もまた勇者と認められた。


更に倒された魔王の子供が新たな魔王となり、それもまた、勇者の子供の子供が倒して、その人も同様に、勇者として認められた。

ついでにこの時、勇者は一族として国から認められ、『ユウシャ』の名を語ることを許された。


それ以来、『ユウシャ』の一族は、代を変わりながら魔王を倒す役割を担ってきたという。


祖父ものその1人だった。

悪事を働こうとする魔王を、懲らしめて帰ってきたという。




だが、『ユウシャ』の一族の栄光は祖父で止まってしまった。


「別にな、我々『ユウシャ』の一族に問題があったわけでは無いんじゃよ」


祖父の話の通り、『ユウシャ』の一族は今もこうして健在し、孫の代まで残っている。国に抑え込まれているわけでも無い。


それどころか、祖父の孫であり、少女の母であるその人は、『ユウシャ』の一族の中でも相当な実力を持ち、魔王が悪事を働けば、すぐにでも勇者としての働きを見せてくれるであろうことが期待されていたのだ。

そう。

魔王が、悪事を働けば。


原因は、『ユウシャ』ではなく、魔王の方にあった。


なんと、今代の魔王は、未だ目立った悪事を働いていないのだ。


しかも、その姿はこの数十年、誰も見たことがない。

実はいないんじゃねぇのかと言われていたくらいだが、魔王の配下たちがあちこちで元気に悪事を働いていることを考えると、やはりいると見るのが妥当という意見もある。


「じいちゃんは、魔王に悪事を働いて欲しいってこと?」


「なんでそうなるんじゃ」


「勇者が活躍する場がないって嘆いてるから、てっきり……」


「平和な事に文句はないんじゃい。ただ、些か今代の魔王は静かすぎると思わんかのぉ?」


「私まだ12だよ。知るわけないじゃん」


「その通りじゃな。というか、お前さん随分と大人びとるのぉ」


「安心して。外見も中身も子供だから!」


「若いのぉ」


少女は祖父を慕っている。

家族の中で唯一・・ちゃんと自分を見てくれる、この尊敬すべし素晴らしき勇者を。

だから、もし何かあったとしても、祖父の願いを叶えたいと思っている。

具体的には、自分が勇者になって魔王を退治し、安心させてやりたい。そう考えていた。


そう、考えていた。


だが、それは不可能だ。

少女にはもうわかっていた。

少女は既に、諦めていた。

それが無理であることは、この家で生まれて過ごしてきた12年間の中で、気づいてしまったのだ。


それでも。


「じいちゃん」


「なんじゃい」


「私、絶対勇者になるから!」


「うむ。期待しとるぞ。他の誰でもない、このわしがのぅ!」


「__うん!」


ニカッと笑みを浮かべる祖父に対して、少女も同じく、満面の笑みを浮かべた。


それが、少女が祖父と交わした最後の会話。


その翌日。

祖父は急死した。

享年60歳。

死因は__呪い。




そして少女は今。




「__よぅし、いいぞー……。そのままじっとしてろよ〜……」


森の茂みの中、弓矢を手に狩りに出ていた。

弦を引きしぼり、狙いを定める。

その先には、大きな鹿がいた。


「__っと」


矢を摘んでいた手を離す。

ヒュンッ、と空気を切る音と共に、矢が的に見事命中。

切ない悲鳴をあげて、鹿が倒れ込んだ。

矢の直撃を受けたのは脳天。

それもただの矢ではない。見るまでもなく即死だろう。


「よしっ。今日の夕飯確保!」


少女は茂みから出て小さくガッツポーズをとる。

そしてその足を前に踏み出した瞬間。


「__ほぁぁっ⁉︎」


木の根っこで足を引っ掛けた少女は、顔面から地面に倒れ込んだ。




「痛い……ヒリヒリするぅ」


傷だらけになった赤い顔のまま、涙目で少女は村に帰還する。ちなみに顔が赤いのは、羞恥ではなく、単にダメージによるものだ。


「よお、嬢ちゃん。今帰りかい?」


「あ、果物屋のおじちゃん。うん、ほら」


少女は、片手で引き摺っていた鹿の死体を掲げてみせる。


「こら、やめんかい」


「ごめんなさーい」


「ほら、いつものこれやるよ。いっぱい取れたからな」


「うわっと」


果物屋のおじちゃんが放り投げてきたものを、危なっかしい手つきで受け取る。

それは、青色の果実だった。少女が好んでよく食べる、甘くて瑞々しく、食感がいい。


「もー、危ないなぁ。あと、これどうせ売れ残りでしょー?」


「やかましいわ。いいから持ってけ。ほらほらほら」


「わっ、ちょっ、そんないっぱい投げられても持てないよぉ!」


腹いせがましい果物屋のおじちゃんの悪戯に、少女は全力で抗議する。


「ほら、早く持っていきな」


「むぅ……。まあでも、ありがとう」


果物屋のおじちゃんの態度に納得がいかないながらも、感謝を伝えるのは忘れない。いつも世話になっているのは少女の方なのだから。


果物屋のおじちゃんと別れ、その後も道ゆく人たちと他愛のない世間話をしながら帰路につく。


村の端にある小さな小屋。

小さいが、一応庭もある。そこでは、野菜が育てられていた。

端っこには、小ぶりな鶏小屋もある。

更に井戸もちゃんと付いていた。

小さな小屋、しかし住むには十分なものが揃っていた。


これが今の、少女の住処だ。


庭の空いたスペースに、狩ってきた鹿を置いて、小屋の中に入る。


そして、玄関の横に置かれた小さな台の上に置かれたペンダントに目を移す。


その前にかがんで、少女はそれを慈しむように眺めていた。




「__ただいま、じいちゃん」

『終焉へのRESISTANCE』を書いてる獅子王将です。この話はとりあえず行き詰まった時や気分転換、書きたくなった時に書いていきます。


今回の主人公は、勇者です。

一応勇者です。

そして落ちこぼれです。

その点は『終焉へのRESISTANCE』と違うかなー、と。あと、シリアスは少なめのはず……です。


『終焉へのRESISTANCE』共々、よろしくお願いしますねー。

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