八章 リンガベル
眠りから覚めると突き刺すような鋭い痛みを感じ、リンガベルは息を詰まらせた。
歯を食いしばり、痛みがようやっと引いてきてから大きく呼吸をした。
この時ばかりはミリアッドに痛覚まで作った開発者達を恨めしく思った。
「目が……」
痛みによって麻痺していた感覚が戻ってきて異変に気付いた。
左目をあけているつもりなのに開けることができない。
開けようと顔に力を入れようにも左の頬の感覚がない。
右手が何の異常もないことを確認して安心したが、その右手で触った包帯の下はもはや皮膚ではなかった。金属の冷たくて堅い感触。
首が固定されていて、身体の全てを見ることはできなかった。
できたとしても見たくはなかった。
受け入れたくない事実がそこにはある。
意識を失う前の光景が鮮明に蘇ってきた。
「辻行が……私を、助けてくれた……?」
背中から落下する身体。
絶叫する辻行の声。
閉じる微塵切りの扉。
痛みと共に巻き込まれて砕かれていく左半身。
そして掴まれた右手。
辻行のことをあんなにも裏切ったというのに。
利己心によって引き起こした事件によって辻行を再び壁に入れてしまったというのに。
壁に入れられた辻行がどのようにして国が誇るセキュリティを破ったのか、あるいはどんな手段で壁から出て、そして中央都市をはさんだ反対側にある浮林檎に現れたのかリンガベルにはわからなかった。
それでもあの場に辻行はきた。
まぎれもない自分を助ける為に。
奥底で心を温める気持ちに気付いた。
リンガベルは再び目をとじた。




