七章 辻行
「リンガベルぅぅうううッ!」
目の前で微塵切りに飲まれるリンガベルの姿を目にした辻行は絶叫した。
「まだ助けられる! 早くしろ!」
辻行の横をかすめて引かれた鉄板の角を踏み台にして海里は跳躍した。
辻行は、落下する海里の左手を掴んで、残った右手で鉄板を収納した二重の鉄の床の両脇にある鉄柵を掴んだ。
なくなった鉄板分の空中に辻行と海里と、リンガベルの残された右手が繋がったまま、ぶら下がった。
伸びた手と手の先にリンガベルの姿はない。
リンガベルを丸のみして、右手だけを残して微塵切りはその口を閉めている。
「開けやがれッ、くそっ。引き摺り出すぞ! 引けぇええッ」
浮いた足で微塵切りを蹴って海里が声を荒らげた。
残されたリンガベルの手が千切れることを恐れている場合ではなかった。
辻行は歯を食いしばって鉄柵を掴む手に力を込めた。
リンガベルの右手から向こう側が引っ張られ、微塵切りの口が開いた。
辻行は海里と、その先にぶら下がる原形をとどめていない物体ごと勢いをつけたまま、自らの後方に放り投げた。
放り投げられた海里は、ぐしゃぐしゃになったリンガベルを抱えて、背中から鉄板でできた通路に落下した。
そして、力なくぶら下がっている辻行を引き上げた。
十四歳の少年である辻行一人分の力で同じく十四歳の海里とその先にいる自分より背の高いリンガベルを引き上げ、放り投げるほどの力があるはずもなく、こんな奇跡のような救出劇が実現するのは不可能であった。
しかし、それができたのは辻行の火事場の馬鹿力と、辻行以上に海里が小柄であることと、半身を失ったリンガベルの体重が予想以上に軽くなってしまっていたからであった。
辻行は、体と同様、顔の半分が失われたリンガベルを抱いた。
「辻……行。……遅す、ぎますよ」
リンガベルはそう言い残して意識を喪失した。
「字名。お前はこれからどうする?」
「ここまでつき合せて、お役御免は嫌だよ。もうへとへとだ。向かう場所で少し休ませてもらう。……行くあてがあるんだろう?」
「ああ。中央都市にある無風診療所というところだ。信頼できる先生がいるんだ」




