三章 リンガベル(2)
ベッドで寝ている辻行を見てリンガベルは手をこまねいていた。
苦しげに眉間に皺を辻行はうなされていた。
今日はいちだんと酷い。
辻行が悪夢にうなされてうなっていたり、寝言を言うことは珍しくもなく、たまにあるのだ。
揺すり起こして目覚めさせて何と声をかけていいのだろうと悩んだ末、リンガベルはそれが静まるのを黙って見守る。
しばらく様子をみていると大抵は落ち着くので、それを確認してから夜の街へ出かけるのだ。
しかし、今夜はいつもの時間になっても一向に静まらなかった。
リンガベルは心配だからといって彼の一人だけの空間に足を踏み入れることは避けていたが、さすがに数分前の叫び声には驚き、思わず部屋を飛び出した。
駆け付けると、目を閉じたままベッドでのたうちまわる辻行がいた。
「ううううううううううううううっ」
少々、強引に体を押さえて動きは止まったが依然、うなっている。
こんな剣幕でも朝になれば、何事もなかったかのように欠伸をしてリビングにやってくるのだ。
昼間、辻行を一人にさせてしまった自身を責めた。
責めても過去は何も変わらないし、現在の問題は解決しない。
けれど、自分がその場にいて何かできたのではないか、防げたのではないかと思わずにはいられなかった。
リンガベルが教室に戻った時、床に寝かされた辻行と、額の汗をノートで仰いでいる真似田がいた。
真似田は多くを語らなかったが、辻行の様子がおかしくなったこと、嘔吐したこと、教室まで引きずって連れてきたことをその都度、誰かの口真似をして話してくれた。
一緒に戻ってきた古雅先生は冷静に対処した。辻行を抱え、保健室まで連れて行った。
そのあと、辻行は時折うっすら目をあけて、すぐに閉じてを繰り返した。
無風先生に連絡をとると、診療所にくるほどではなく、休めばよくなると言われ、リンガベルは辻行を引き取り、家に連れて帰った。
辻行のプライドを守るために自分が背負って帰ったことは言わないでおこうと思った。
リンガベルにとって人間一人を担ぐことは軽々とできるとは。
「ホーリィ……」
やっと落ち着いてきた頃、辻行はまたその名前を口にして涙をこぼした。
日中の出来事は、ホーリィとの日々を思い出したのだろうか。
リンガベルは彼女の名前を聞くといつも心が苦しくなるのを感じていた。
辻行の心にはいつもホーリィという少女がいて、自分が何をしようとも、自分の入る隙間などないのだろう。
いつまでホーリィという少女は辻行の心を支配して、彼を過去に縛り付けるのだろう。
ホーリィがうらやましく、憎いとさえ思った。
「ホーリィとは……誰ですか。辻行……」




