プロローグ
響くサイレン音が緊急事態を知らせている。
騒々しい足音はいずれここへやってくるだろう。
十四歳の少年は、ゆっくり細い首からその両手を放して立ち上がった。
少女が血だまりの中に髪を垂らして倒れた。既に息はない。安らかな表情ではない。目を見開き酷く驚いた顔をしている。当然だ。
ホーリィは……ホーリィ・レイという名の少女はそのように死んだ。否、殺された。
振り返ったところを背後から脳天を二発、花瓶の底で殴打。
そして絶命したところを、あるいは致命傷を負って辛うじて息をしていたのかもしれないところを容赦なく絞殺された。
「はぁっ……はっ」
少年が見上げた天井もその手も鮮やかな赤で染められていた。
すべてを染め上げる血液は、少女の殺され方に対して多すぎた。
その謎は駆け付けてくる研究員の誰にも解けるまい。
ここにいた、ここに暮らしていた二人以外には、誰も。
ただ少年は思う。俺は、正しかった。と。
どんな理由にしろ、どんな理由があろうと命を奪う権利などあるわけがないとわかっていた。だからこそ、罰を受けたかった。少年にも未来が、夢があった。もちろん、少女にも。二人は、棄てた。終止符をその手で打った。
跪いて血だまりに浸かる少女の唇に口づけをした。
「愛してたよ。ホーリィ・レイ」
最期の別れを告げると少年は、高らかに笑った。
*
二人の最後の会話の全ては、レコーダーに記録として残されていた。
『……これは、違法になります。……私はあなたを通報します』
とホーリィ・レイ。
『やめてくれ! 悪かった。もう殴らないから!』
と懇願する少年。
『あなたは、道を踏み外した。……あなたの更正を願います。さような……』
そこで音声は途切れた。
*
「以上が提出物の内容になります。清き制裁を」
浪勢の証言が終わるや否、法廷に拍手喝采が巻き起こった。傍聴人が立ち上がり野次を飛ばす。
「罪深き者に清き制裁を!」
「同情の余地などない! 清き制裁を!」
咳払いした髭を蓄えた裁判官が吐き捨てた。
「愚かな、八重辻行!」
八重辻行。人間。男。
推定年齢、十四歳。
罪状 試験体01に対する暴行、殺害。
刑罰 クリア回数 六百 戒。




