事の発端
「夏といえば?」
その一言で図書館を飛び出した浩希、啓介、徹、直人の男子高校生四人の『日常』
騒がしい彼らが繰り広げる青春とは?
クーラーの効いた涼しい図書館で、四人は顔を突き合わせてうーだとか、あーだとかそれなりに騒ぎながら夏休みの宿題をこなしていた。
半眼でシャーペンを回しながら物理の円運動の問題を解いていた浩希の手が、不意に止まる。
「浩、どうした?」
「飽きた?」
「…問題、難しい?」
「むずい。………でも、俺はそれどころじゃない、重大な問題に気づいてしまったんだ…!」
ぱたん、と問題集を閉じてわざとらしく語り出した浩希に、三人はまた始まった、と心を一つにした。
「夏と言えば?」
非常に真剣な表情で問いかける浩希に啓介はぽんぽんと答える。
「海? スイカ? プール? あ、あとは蝉とか?」
「いや、なんで蝉?」
「そりゃあ、あのミーンミーンって声聞くと、なんかこう『夏だ!』って感じしない?」
首を傾げて突っ込んだ徹に啓介もまた首を傾げて応じる。
いや、俺が言いたいのはそういう事じゃなくて、確かに蝉の声は夏って感じするけど、俺が言いたかったのはなんでそのラインナップの中に蝉が食い込んでるかってことであって。
呟いている徹をまるっと無視して、浩希と啓介は続ける。直人は励ますように徹の肩に手を置いた。
「甘いな、啓。お前は大事なものを忘れている!」
「えー…あ! 分かったかき氷!」
「惜しいっ」
「えーっ?」
「惜しいんだよ! まぁ確かにかき氷は大事な夏の風物詩だよな。俺イチゴが好き」
「浩、子供ー。ここはブルーハワイでしょ」
「何おう!? お前はイチゴの素晴らしさを分かっていない!」
「浩こそブルーハワイの何たるかを分かってないねー」
「そう言えばさ」
唐突にかき氷議論を始めた二人に、直人はするっと割り込み、大ダメージを受けるであろう言葉を放った。
「かき氷のシロップってさ、どれも同じ味なんだよね。知ってた?」
浩希と啓介の二人は驚愕が張り付いた顔で直人に向き直る。
「!?」
「なんっ…だと!?」
「え、そうだったのか?」
「うん。らしいよ。あの色って着色料みたい。だからイチゴもブルーハワイも同んなじ」
「へぇー」
感心したように声を上げる徹を遮るように、二人は息急き切って尋ねる。
「っおい、直! それマジか!?」
「どっちも一緒なのっ?」
「うん」
「えぇー」
「いや、でも俺にはイチゴを裏切ることは…!」
「そんなことよりさ」
当初の話題からは完全に脱線した流れを、またもぶった切って直人は口を開く。
「浩が言いたいのって、もしかして花火大会のこと?」
「そう! それだ! 河川敷の!」
マイペースに話を変える直人を気にした風もなく、浩希はびしっと直人を指差した。啓介も納得したように声をあげる。
「あー! 花火か、確かに忘れてたー!」
「…おいっ、ここ図書館、」
さっきからガヤガヤと騒いでいて図書館員さんの視線が冷たかったが、一気にテンションが上がった浩希と啓介に図書館員さんの視線がさらに冷える。徹が焦ったように咎めると、ハッとした二人はそうっと図書館員さんを伺い、乾いた笑みを浮かべた。
「…出るか」
「…おう」
「…うん」
「騒ぎ過ぎだよ、二人とも」
呆れたように直人は言うが、間違いなく戦犯はこいつである。
教材をカバンに詰め込んで涼しかった図書館を出ると、灼熱の太陽が肌をじりじりと焦がす。風も殆どなく、じめっとした空気がまとわりついて、まさに日本の夏! だ。
ミーンミーンという蝉の大合唱に、啓介がやっぱり夏っぽいともらす。徹も確かにと思った。煩いと蝉の声を嫌う人もいるけど、この音がないと夏は物足りない気がする。
制服の白いシャツは、光を浴びて眩しい。本当に、どうして夏になるとどこもかしこも眩しく光って見えるのだろう。
「あっついな…」
「ほんとにねー…」
「…アイス食べたい」
「とりあえずコンビニでも行くかー」
四人とも部活で暑さには慣れているが、ひんやりした室内と午後二時の日射しの落差は体感的にきついものがある。
それでも何故か割と元気な浩希に従って、四人はぞろぞろとコンビニへ向かった。
自転車を漕いでも熱風をまともに浴びるだけで、汗が後から後から噴き出してくる。
「…浩、なんでそんな元気そうなの?」
移動し始めてから五分も経たないうちに、直人はうんざりした顔で涼しげな表情の浩希に問いかけた。
「うーん、夏生まれだからかな。まぁ、暑いっちゃ暑いけどな!」
「直人は冬生まれだったか」
「去年も夏はきつそうだったよねー」
「暑いの、嫌い」
答になっているようでなっていない浩希の言葉に、直人がきゅっと眉間に皺を寄せる。大人びた雰囲気の直人がそんな風にするとと、急に表情が子供っぽくなるのがおかしくて、残りの三人は楽しげに笑った。
高台にある図書館からアスファルトの一本道を進み、坂を駆け下りて四人は最寄のコンビニに到着した。
コンビニの自動ドアが開く電子音と、店員のいらっしゃいませー、という軽やかな声に迎えられて、四人はコンビニに足を踏み入れる。良く効いた冷房が一気に身体を冷やす。
「あーっ、暑かったー!」
「ここは天国…」
「すっずしー」
「ほんと、落差すごいな」
苦笑している徹は効きすぎた冷房が得意ではない。家でも殆ど冷房を使わないという、夏はエアコンの設定温度を二十四度に保つ直人からは考えられない暴挙だ。
その直人といえば、店内の空気にすっかり回復した様子でアイスのショーケースを覗き込んでいる。浩希と啓介は雑誌コーナーだ。
二人はそれぞれ週刊漫画を手に取って、早速読み耽っている。時折お互いのものを覗いては、悲鳴をあげたり歓声をあげたりと忙しそうだ。
って、今啓が浩を叩いたの、なんでだ?
店内には制服姿の友達らしい女子中学生が二人と、一人で来ているらしいサラリーマンが二人。徹はサラリーマンの一人が持っているビールに目を止めた。
昼間っからビールかぁ。なんか夏だなぁ。
少々ずれた感想を抱いた徹は、とりあえず先に飲み物でも、と店の奥に行こうとしてふと足を止めた。
「………」
目の前にある様々な色をしたそれは、とびきり夏らしくていかにも心を踊らせる。
何となく手に取ったそれをこんな風だったかとしげしげと眺めていると、不意に肩に重みが乗った。
「それ、花火じゃん」
「直」
直人が顎を自分の肩に乗せていた。
びっくりして逆に平坦な声で呟くと、直人は徹の肩に顎を乗せたまま浩希と啓介を呼んだ。
「ひーろ、けーちゃん。ちょっとこっちおいでー」
「んだよ、直」
「何何ー?」
「ほら、これ何だ?」
手に取っていた雑誌をさっさと棚に戻してやってきた二人に、直人はいつの間にか徹の手から掠め取ったそれを揺らして見せた。
どうしてあっさりと漫画を読むのを止めたかと言うと、この二人は既に一回立ち読みを終えているからだ。そうでなければ、読み終わるまで延々と『後で』を繰り返す。というか、一度読んでいるというのにあれだけわいわい楽しめるというのは、最早一種の才能だろう。
「あっ、それ!」
「花火じゃん!」
分かりやすく顔を明るくした二人に、直人は変わらない表情のまま続ける。
「さっきの続きだけど、浩希の言ってた花火大会、今日だよね」
「そう!」
「毎年恒例の!」
「それでさ、浩も啓ちゃんも、一緒に行ってくれるアテ、このメンバーぐらいでしょ?」
「うっ………」
「そのつもりだった…」
「俺たちは行ってもいいけど。ね、とーる」
「え? あ、それは勿論」
急に話を向けられて咄嗟に良いと答える。まぁ実際良いんだけど。
「まじで! じゃあ行こうぜ花火大会!」
「かき氷あるよね!? あとは焼きそばとー、焼きとうもろこしとー、チョコバナナとー」
るんるんで話を始めた二人を、直人はでも、と遮った。
「男四人で花火大会なんて、ちょっと寒くない?」
「………」
「………」
「それに、浩も啓ちゃんも、見るよりやる方がいいでしょ、花火」
「そりゃあ…」
「正直花火ずっと見てるの飽きるけど…」
「じゃあさ」
にこっと首を傾げて、直人は言った。
「花火、しよう」
「え?」
「へ?」
「うん?」
「海で」
「えっ?」
「へっ?」
「海!?」
唐突に『今日は花火大会だけど花火見てるだけなんてつまんないし、海で花火をしよう』なんていう提案をした直人を、三人は目を丸くして見つめる。
が、それも一瞬。
「何それ! すげー面白そう!」
「敢えて今日っていうのがいいよね!」
「でしょう」
してやったりという顔を隠さない直人に気づかず、浩希と啓介は店内に並んだ花火セットを手に取ってああだこうだと選び始めた。
この四人でいると、自分一人だったら思いついたとしてもとても実行しないようなことが、簡単にできてしまう。それが擽ったくて、心地いい。
二人をなんだか他人事のように眺めながら、徹はこそっと口を開いた。
「直、お前、自分が花火大会行きたくないだけだろ」
「うん。そうだけど?」
全く悪びれない態度は寧ろ潔い。
この四人は学力的にはそう変わらなくて、全員が校内でも十番内に入るほど、まぁ、頭は良いのだけれど、やっぱりどこか浩希と啓介は単純な性格で、時々直人に遊ばれている。
「いや、まぁ俺は行っても行かなくてもどっちでもいいんだけど…」
二人が楽しみにしていたんだとすれば、何だか申し訳ない気がする。
そう言いたげな徹を察して、直人は相変わらずだなぁと心の中で呟いた。
「そんなに深く考えなくても、二人とも楽しそうだからいいんじゃない? それに、あの洪水の中に行くとか、俺は無理」
「洪水?」
「人間の氾濫」
「ぶっ、何だそれ」
会話の流れに似つかわしくない言葉を問うと、真顔で答えられて思わず吹き出す。直人は真剣な顔でこういうことを言い出すからタチが悪い。
「徹! 直人! どれにする?」
「ねぇ見てこれ打ち上げ花火! 打ち上げちゃう? 打ち上げちゃう?」
まぁ肩の力抜いて、と直人に肩をぽんぽん叩かれていると、弾んだ声の浩希に名前を呼ばれる。確かに、花火を選んでいる二人はかなり盛り上がっていて、未練なんてものは微塵も感じられない。
これはこれで、いいんだろうな。全く、直人には敵わない。
そう思いながら、楽しそうな二人につられて徹も花火セットを手に取る。オーソドックスな手持ち花火に加えて、定番の線香花火、ネズミ花火も入っている。
「あー、なんか懐かしいな」
「そう? 俺は一昨年にやったけどね」
「あっ、そうなの? 俺もやるのすごい久しぶりなんだけど」
「な、意外。家族とやったのか?」
「ううん、浩希と」
「…なんか納得だわ」
「浩と直くんって同じ中学なんだっけ?」
「そうだよ」
「直人、全然変わんねぇよな」
「それは浩のほうでしょ?」
意地の悪い笑顔を浮かべた直人に、浩希はうっと押し黙る。
「何何、その反応。なんかあったわけ?」
いかにも楽しげに問い詰める啓介に浩希は慌てて直人の口を塞ごうとするが、もう遅い。
「変わんないっていうか、中学の方がまだマシだったね。まぁ、図書館で騒いで追い出されるのは相変わらずだけど。あ、でも一回夜中の学校に忍び込んで花火して、警備員さんと鬼ごっこしたのはひどかったかな」
「直! 言うなよ俺の黒歴史!」
「え。浩希の黒歴史ってこの程度じゃないよね?」
珍しく楽しげな笑みを隠そうともしない直人は相当レアだけど、啓介と徹はその前の爆弾発言に唖然としていた。
夜の学校に、忍び込んで、花火。
浩希と直人は、中学でもテニスをやっていたはずで、下手すれば出場停止処分だ。
そんなことを、よくもまぁ。
「浩希……正直、引く」
「高校でもしようなんて言い出すなよ?」
「ちょっと楽しそうだけどね」
「啓介はまた…」
徹が頭を押さえると、啓介はカラカラと笑った。
怖いのは浩希と啓介が揃った時、直人が本気を出さない限り止められないという事だ。徹には突っ走り出した暴走車を止めることは出来ない。
暴走した二人はブレーキがないどころじゃない。走る以外の余分な機能を全部削ぎ落としてアクセルしか存在しない挙句、ハンドルもきかない紙装甲の暴走車だ。そして徹には、その車に強制乗車させられて、降りる術さえ存在しない。それを楽しんでる自分もいる訳だが。
「結局さ、なんでそんなことになったの?」
興味津々の啓介に、浩希はちらっと直人を見て諦めたようにうなだれた。
直人がそれはそれは楽しそうな目をしているのを見て、徹は浩希の頭をぽんと叩いた。
もしかしたら、直人が暴走した時が一番怖いのかもしれない。主に誰も止められないという理由で。
「んー、その時は、花火じゃなくて夜の学校がメインだったんだよね。夏休み入って直ぐだったかな? 夏のホラー特番ってあるでしょ? それ見た浩が『夜の学校って楽しそうだ』って言い出して。ほんと発想が単純だよね」
「んなこと言って、直も最終的には乗り気だったじゃん!」
「まあね。そりゃあ夜に校門まで引っ張ってこられたら、もう覚悟決めて楽しむしかないでしょ。それに、俺は一応止めようとしたよ」
「いや、校門までならまだ引き返せるだろ…?」
「だめだよ徹。そこで逃げたら男が廃るって!」
「……そうか?」
夜の学校に忍び込まなかったくらいで廃る男とは一体。
何となく釈然としないまま口を噤んだが、徹にもそういう問題ではない事はちゃんと分かる。
話を聞いてびっくりしたし、自分だったらあり得ないとは思ったが、そんなとんでもないことを実行してしまう浩希に少しの羨望を感じているのも確かなのだ。
かといって、不法侵入を正当化する気はないが。
「で? どうやって忍び込んだの?」
啓介はキラキラした目を向けて続きを強請っている。
「うーん。結構長くなるから花火とか買ってからにしない? 今から行くんだったら夕飯とかもいるでしょ」
「そうだな。親にも連絡しとかないと」
「俺、家出るときに行って来たわー」
「えっ、早くない」
「どうせ四人で花火行くだろうと思ってたからなぁ。まさか花火するとは思わなかったけど」
シシシ、と笑う浩希はいかにも楽しげだ。
気が早いというかなんというか。そんな浩希を若干すごいなぁと思いながら、啓介もスマホの電源を入れた。
直人はもう連絡を終えたようで、花火は線香花火が入ってるやつならなんでもいいから、と言い残してふらふらとスイーツコーナーに消えていった。
徹はスマホを耳に当てながら店内を出て行った。こういう所を目にすると、徹はきちんとしつけられてるんだなぁと啓介は思う。特に自分達がしつけられていないという訳ではないけれど。
啓介は職場にいるであろう母親に連絡を入れると、浩希の花火選びに加わった。
浩希は、もう既に脇に二つの花火セットを抱え、さらに二つの花火セットを見比べて唸っている。
「オーケー貰えたぞ………って、浩希、どんだけやる気なんだよ」
「こんなん四人でやれば一瞬で消えるって! 毎年お盆に親戚集まって花火するんだけど、七セットぐらい買っても、二十分あれば消えるもん」
「それ、どんな使い方してるんだよ…」
「ふふふ、それは見てのお楽しみだ」
浩希の言い方からして、まともな花火をやっている気配はない。徹にもそれは察せられたみたいで、困ったように笑って啓介と顔を見合わせた。
「あ、それより、直人がスイーツコーナーの所行ったよ」
「えっ?」
きょとん、とした徹はすぐに目をきっと怒らせて、直人を追って消えていった。
苦労性だなぁ、とーるは。
そう思いつつ啓介もフォローする気は全くないので、彼も苦労を増やしている一人である。
直人は元々食が細い上、かなりの甘党だ。
夏ともなれば更にその食欲は落ち、朝はゼリー、昼はアイス、夜はジュースか食べないか、といったローテで平然と済ましてしまう。
直人の食生活を知った徹が激怒して以来、少しは改善の兆しが見えてはいるが、まだまだ道のりは遠いらしい。
と、棚の向こうのスイーツコーナーから徹の怒声が聞こえてきた。早速見つかったらしい。
「直! お前またそんな甘いもんばっかり…! いい加減バランス良く食べることを覚えろ! 体の事だぞ!?」
「………はーい…」
浩希と啓介の後ろを、手首を掴まれて渋々徹に連行される直人が通っていった。その姿は、まるで聞き分けのない子供とそれを諌める母親だ。
告げ口したのはどっちだ、と言わんばかりに浩希と啓介を睨む直人を見て、二人は顔を見合わせて同時に吹き出した。
「ありがとうございました〜」
大量の花火を購入していった高校生を店員は満面の笑みで見送った。
結構長くコンビニにいた気がしたけれど、相変わらず日射しはきつい。
四人は買えるだけ買ってきた花火セットと、それぞれの飲み物や夕飯を自転車のカゴに放った。
それとは別に各々買ったアイスを、ちょうどコンビニの日陰になる所で開ける。
コンビニの駐車場はガラガラだ。まぁこんな暑い日にわざわざ車でコンビニに来る人は少ないだろう。
直人は車止めに座って、花を飛ばしながらぺりぺりとカップの蓋を剥がした。
「あー、冷たい。美味しい。アイス最高」
アイスを口に入れた直人は幸せそうに呟く。柚子味美味しいよ、と口元に運ばれたアイスを徹も口に入れた。
徹は親切心だと思っているが、直人が実は徹の味覚を甘党に改変しようとしていることなど知らない。
「ほんと、美味いな」
「あーっ、頭キーッてする!」
「そんな一気に食べるからだよー」
浩希と啓介は相変わらず騒がしい。
シャリシャリした食感のアイスを、安いからと言って二本買った浩希は、溶ける前にと一本目を一気食いしたらしい。頭を抑えてしゃがみこんだ浩希を啓介は笑い、直人は生きてる? とつんつんつついている。
直接日射しは浴びていないけど、もわっとした暑さにアイスはどんどん溶けていく。垂れそうになったアイスを慌てて舐める徹を笑って、啓介は二本セットになったアイスの片方を吸った。
「ねぇ、さっきの続き聞かせてよ!」
「終わったことになってたんじゃないのか…」
「甘いよ、浩希」
「諦めろ」
「えっと、浩が言いだしてから学校行くまでは省くね。どうやって忍び込んだかだっけ」
恨みがましい視線を送る浩希を一蹴して、直人は淡々と話し始める。
「まぁ、忍び込んだっていってもうちの中学、門とかそんなのないしね。校舎内に入ったわけでもないし」
「あ、なんだー。門とか乗り越えたのかと思った」
「さすがにそれはね。チェーンくらいならあったけど。で、とりあえずグラウンドと校舎の間にある水飲み場行ってバケツに水汲んで、すぐ近くの鉄棒の下でやろうってことになったはず」
「あー。真っ暗だったから、大変だったぜ」
「まぁでも、その分綺麗だったかな。あ、徹、一口ちょうだい」
「だろ?」
自分のアイスを食べ終わった直人は、当然ように徹のアイスを強請る。苦笑しながら徹が差し出したアイスを受け取り、直人は浩希に冷たい視線を向けた。
「調子乗らない。…花火振り回し始めた時は、本気で置いて帰ろうかと思ったよ」
「う…ごめん」
徹の選んだアイスは、練乳をベースに小豆や果物がたっぷり入ったもので、直人が最後まで買うのを迷ってやめた方だ。ちゃんとバランス良く食べろ、甘いものの摂り過ぎは良くない、と口うるさく言う癖に、結局徹は直人に甘い。
真顔で浩希をいじめている直人にバレないように、啓介はこっそり笑った。
「ありがと、徹」
「いや。美味かった?」
「うん凄く」
「そりゃよかった。残り食べていいぞ?」
「えっ、ほんとに?」
「うん」
にっ、と爽やかに笑った徹は手首にある細身の腕時計に目をやった。
時間を確認した徹は直人がアイスを食べ終わるのを待って口を開く。
「もう四時近いし、そろそろ行くか? 海まで結構距離あるだろ」
「えー、夜の学校の話は?」
「自転車漕ぎながら、話すよ」
「やめようぜー…」
「往生際悪ーい」
うんざりした表情の浩希に啓介が追い打ちをかける。
あの時のことを話すのはいいのだ。もう二度とやらないが、浩希にとって楽しかった思い出にはには違いない。問題は、それを直人が面白おかしく話すということだ。きっと、いや絶対に散々言われるはずだ。
直、絶対俺にSだもん。
諦め半分文句半分な気持ちでスタンドを蹴り上げると、啓介の呼ぶ声がした。
三人はもう、駐車場の出口にいる。
「早いって、三人とも。…てか直、もう話すのは良いけど、あんま詳しく説明しなくていいからな。淡々と事実だけを述べればいいからな?」
「はいはい」
言い募る浩希を適当にいなす直人の顔には苦笑が浮かんでいる。
少し遊び過ぎたかな、と思うが浩希の反応がおもしろいのが悪い。
四人はぐん、とペダルを漕ぎ出して通りを閑静な住宅街へと向かう。
先頭は自転車に乗り慣れている徹。その後に浩希。最後に並ぶようにして直人、啓介。
直君、という期待の篭った声に、直人は再び話し始めた。
「まぁそれなりに花火を楽しんでたら、懐中電灯の光が見えたんだよね。照らされたんじゃなくてちらっと。すぐそばに部室棟があって、その向こうから」
「ほんっとビビった! けっこう騒いでたから、やばいって思って。とりあえずろうそく消して隠れようとしたんだけど…」
「騒いでたのは浩だけだけどね。そしたら浩、慌てすぎてろうそく蹴っ飛ばしてさ。倒れた所に残ってた花火があったからもう…」
詳しく説明しなくていい、と直人に言った割に、親切に補足を入れてくる啓介を徹は微笑ましく思ったが、次に放たれた言葉に呆然とした。
徹が口を開けたまま固まっていると、先に我に帰った啓介が驚愕の声をあげた。
「うっわ、それはやばいじゃん!」
「…っだ、大丈夫だったのか? それ」
さっきもこんなことがあった気がする。
衝撃で開いた口が塞がらない二人に対し、当事者達はけろっとしたものだ。
なんか、うん、あれだよな。いつも割とストッパー係だし、浩と啓が横にいるから分かんないけど、直人も結構、あれだよな。
「怪我とかはしてないよ。ただ俺も浩もびっくりして固まっちゃって」
「いやー、もうなんか凄かったぜ? 呆然としてたらいきなりバチバチバチッ! って」
「火花が浩希に飛ぶもんだから『ぎゃあっ! ぅあっち!』って。そりゃバレるよね」
「だよなー。そん時の痕、未だに残ってるもん」
「! 怪我してるのかよ!?」
ぐりんと直人を振り返って思わず叫んだ徹に、直人はこくん、と頷き「浩はね」と付け足した。
きっと先程の直人の言葉の主語は『俺達は』ではなく『俺は』なのだろう。その証拠に、
「直君は平気だったの?」
「うん。ろうそく倒れてすぐ思いっきり距離とったからね。こう、花火が出てこない方向に回って」
直人は怪我をした気配が一切ない。
「でも俺も結構慌ててたみたいで、浩にバケツの水ぶっかけちゃって」
「は?」
「まじで?」
「まじ。あ、危ないよ。小学生」
凡そ直人のものとは思えない行動にぽかんとしていた二人の側を、プール帰りらしい小学生が二人、駆けて抜けていく。
きゃらきゃら響く笑い声はひどく楽しそうだ。
プールいいな、と呟いて浩希も駆けて行った小学生達に負けないくらいの笑みを浮かべた。
「全身ずぶ濡れ! ほんと冬じゃなくて良かったぜ!」
「それは…いや、えっと」
「なんか違う気する」
遠い目をし始めた徹と、小刻みに首を振りながら断言したに構わず直人はマイペースに続ける。
「んで、隠れるどころかさらに騒いでたら、警備員のおっさんが『そこに誰かいるのか!?』って」
「そりゃそうなるよ」
「ね。走ってきたし。それで仕方ないから俺は適当に誤魔化そうと思ったんだけど、浩が俺の腕ひっつかんで、逃げるぞって、逃げちゃったんだよね。しかもグラウンドの方に」
「うわひっど! それ隠れる所ないじゃん!」
「ね。アホでしょ?」
「アホだね」
「…アホだなぁ」
「テンパってたんだっつーの! おっさん来たの校舎の方からだし! 離れないとって思ったんだよ!」
「浩ってテンパったらやらかすタイプだよねぇ」
「予想の斜め上だな」
「フォローする方のことも考えて欲しい」
「うう…味方いねぇ」
「それでグラウンドのど真ん中突っ切ってたからさ、もう丸見え。走り出してすぐ浩も気付いて余計騒ぐし。まぁね、生徒と警備のおじさんじゃ、体力もグラウンドの把握も勝ってると思ってたんだけど…。その人、地域のスポーツクラブの、陸上のコーチだったんだよね。しかも元国体選手。種目は八百」
八百とは、陸上の格闘技と呼ばれている、あれか。
「うっわ、詰んでる!」
「いやまじでほんとに怖かったから! 余裕だろって振り向いたら、すげー勢いで距離詰められてんの!」
爆笑する啓介に、その時のことを思い出したのか、顔を若干青くして浩希が猛抗議する。
薄暗く照らされたグラウンド。時折懐中電灯に照らされる足元。後ろから聞こえる怒声。追いかけるのは元八百メートル国体選手。次第にその声が近くなって…。
ホラーだ。笑えない。
「それは怖いな」
「うん。逃げ切れる気しなくって、俺はもう捕まってもいいんじゃないって思ったんだけど、また浩が…」
さすがに捕まるのはやばいと焦ってなんとか逃げようとしたのだろうか。
「『逃亡中』みたいってテンション上がっちゃって。バカでしょ?」
救いようがなかった。
「いや、うん…バカだな」
「バカだねー」
「いじめだ!」
「さすがにグラウンドは俺たちの方が知ってたからさ。って言っても大して物もないんだけど。でも、こう、右の方の、グラウンドとテニスコートの間におっきな木があって。その下に、人一人二人くらいなら隠れられるスペースがあるんだよね。そこに回って隠れたら、おじさんは俺等がテニスコートの方に行ったと思ったみたいで、そっち行っちゃったんだよね」
ドキドキと息を詰まらせて直人の話を聞いていた啓介と徹は、大きく息を吐いた。
「それで、捕まらなかったのか」
「すごいね! 本当の『逃亡中』みたい!」
「うん。それで逃げ切ったと思ったら気が緩んだのか知らないけど、笑いが止まんなくて」
「あー分かる!」
「ほっとしたんだよな」
ちょうど信号に引っかかって、啓介と徹はほっとしたように笑いながら直人の方を向いている。
「うん。それで浩と二人で笑ってたらーーーーガッ!!」
「うぉっ?」
「ふぇい!?」
直人の突然の大声に合わせて浩希が啓介と徹の肩をがしっと掴んだ。
徹が飛び上がって後ろを見ると、なぜか浩希がしゃがみ込んで?
「何すんだ浩希! ーーー…って、どうした?」
「啓っ、おま、ほんっと………!」
啓介?
「え?」
「うわー、啓ちゃんナイス肘打ち」
ただ一人その瞬間を見ていた直人が真顔で拍手を送る。
「うわっ、浩ごめん!」
「声と行動が全く噛み合ってなかったね。浩、ナイスアシストだったけどドンマイ」
何事かとぽかんとしている徹に直人が説明する。
曰く、幼馴染が故の完璧なタイミングで、直人に合わせて啓介と徹を驚かすことに成功した浩希は、その代償として、啓介が咄嗟に繰り出した肘打ちを完全に食らったと。
「うわ…浩希、大丈夫か」
「ごめん浩希!」
「いや、うん、平気だ…」
「まぁ自業自得だよね。立てる?」
さらっと毒を吐きながら差し出した直人の手を掴んで、浩希は立ち上がった。
「それで結局捕まっちゃって。その場に正座してエンドレス説教」
「その場って、グラウンド? 砂?」
「うん」
「いったそー」
「でも、警備員のおっさん、結構良い人だったぜ? 『俺にも似たようなことした経験があるから、気持ちは分からんでもない』って、『法には触れてないから今回のことは見逃してやるけど、もう二度とやるなよ』とも言われたけどな」
「法に触れて…ないか?」
「まぁそこらへんは置いとこうよ」
「んで、その場は拳骨食らって収まった」
「すごい痛かったよね、あれ」
「それはガチで。でも渋くてなんかかっこ良かったな! 『こんなバカなことやらかす奴が減っちまって、つまんない世の中になったなぁ』とか言って」
「ちょっ、待っ、浩っ…似すぎ…っ。やばっ……っゲホッ、ゴホッ、」
急にガラガラの嗄れた声を出した浩希の声真似は無駄に似ていたらしく、直人は咳き込むほど笑っていた。
「あー、もう。ほんとやめてよ浩希。…あぁ、話はこれで終わりかな。まぁ余談だけど、その後俺たちはそのおじさんーーーコーチの陸上クラブに入会しました、まる」
「思いっきり脅されてんじゃん!」
「でも陸上も楽しかったぜ? 俺今も時々走りに行ってるもん。ま、終わり良ければ全て良しってやつだな!」
ニッ、っと笑った浩希にそうだねー、と啓介が返して、つられて徹も笑う。
いつの間にか青に変わっていた信号が点滅し始めたのに気付いて、四人は慌てて自転車を漕ぎ出した。
住宅街が終わると、辺り一面に青田が広がる。真っ直ぐ続く一本道は田んぼの真ん中を突っ切っていて日影は少しも見当たらない。
海に向かうにはこの道を通るのが一番近いから徹はこの道を選んだが、太陽から隠れられないので直人にすごい目で見られた。
風が吹きつけて、苗がざぁっと揺れた。
海の様に波立つ緑に、さすがの直人も感嘆の声をあげた。
「田んぼ広ぇーッ」
「あおーい!」
「なんで緑って青っていうんだろー?」
「さぁ?」
車や人の姿は全くなく、四人は叫ぶようにして話した。
「あっちー! 太陽あちー! テニスしてぇ! プール行きてぇスイカ食べてぇーッ」
「浩うるさーい!」
「浩うるせぇよ!」
「だって誰もいないしいーじゃん!」
先頭を走る浩希は周囲に人がいないのをいいことに、好き放題に願望を叫んでいる。
うるさいと文句を言いつつも、啓介と徹の顔には笑顔が浮かんでいる。
直人だけは、茹だる様な暑さに目を眇めながら、自転車のハンドルにペットボトルを押し付けて器用に蓋を開けて水分補給している。
「直人、大丈夫かー?」
徹は最後尾の直人を振り返って問いかける。
直人はうんざりした顔で頷きながら中身が半分になったペットボトルを振った。
それ、『大丈夫』なのか『大丈夫じゃない』のか分かんないな。
「あれはまだ大丈夫なやつ」
徹が困ったような心配するような顔をしているのに気づいて、浩希は告げる。
「そうなのか?」
「うん。直人は限界なったら、もっとこう、凶悪な顔するから」
「凶悪って」
「浩。…うるさい」
「ごっ…めん………」
この猛暑にも関わらず、直人の冷え切った声に浩希は引きつった顔で謝った。
なんだかんだお互いをちゃんと分かってるあたり、幼馴染ってすげーな。
呆れ半分感心半分で徹が二人を見ていると、幼馴染ってすごいね、と啓介が耳打ちしてきた。全く同じことを考えていたのがおかしくて、徹は思わず吹き出した。
「えっ、何その反応?」
「いや、俺も同じこと思ってたからさ。ほんとすごいよな」
「あはは、ねー」
他愛もない話をしながら四人はどんどん進む。
辺りに木がない分、遠くから蝉の声が幾重にも重なって聞こえてくる。ジーワジーワと耳に染みるようなその音に、啓介はなつのおとだ、と思った。
五分程ペダルを漕ぎ続けると、畦道はゆるいカーブを描いて終わりを告げ、幅広の川に突き当たる。川に架かる橋の手前には長くて急な坂。
「出たな坂ー!」
勇ましく叫んだ浩希はうぉおっ、と奇声を発しながら坂道を駆け上がる。同じく叫びながら啓介も後に続くいた。
競うようにして遠ざかっていく背中に徹は声をかける。
「おい! この坂長いんだからー…って、言わんこっちゃない。直、ギア下げとけよ」
トップギアのまま突っ込んで行った二人は、急速に重くなるペダルに、坂の中腹辺りで速度を失ってよろよろ揺れている。どんなに漕ぐのが辛くても立ち漕ぎをやめたり足を地面に付けるのは癪らしく、よろけながらなんとか進んでいるのが危なっかしい。
毎朝学校に行くのに自転車を乗り慣れている徹はそれを見越して自身のギアを下げ、直人にもそれを促した。
あぁ、うん、と頷いてギアを下げ、坂を登り出した直人はしかし早々に減速してペダルを漕ぐのがきつそうだ。
「大丈夫かよ、運動部」
「無理。この自転車、元々重いやつだし」
ぐぎぎ、となんとか進んでいる直人は気の毒だったが、ここで速度を落とせば後で辛くなるので、直人には悪いが徹はさっさと進むことにした。先行くな、と声をかけると「もう押して走って行くからいいよ」と微妙にずれた返事が返ってきた。
立ち漕ぎでテンポよくペダルを押して、徹は速度をほとんど落とさずにあっさりと浩希と啓介を抜き去った。
「先行くぞー」
「あっ!」
「うわ! とーる速っ」
意地でペダルを押し込んでいる二人の横をすーっと通り抜けるのは何となく優越感だ。
さすがに最後の方はきつかったが、坂を登りきった徹が自転車を止めて登ってきた坂を振り返ると、
「ああっ、何それ直ずりぃ!」
「ずるくないしー」
「そっちの方が断然速いじゃんん!」
何故か自転車を押して坂を走るかけっこが始まっていた。
なだれ込むように坂を登りきった三人は、ハンドルに体重を預けてぜぇぜぇ言っている。
「何してんだ、お前ら」
呆れる徹に浩希と啓介はいや、だって、と直人を見る。
「直が」
「直君が」
「………ぇ、俺…?」
器用にバランスをとりながらハンドルに突っ伏している直人は肩で息をしている。はぁ…と重いため息をついた直人はガサガサとカゴを漁って取り出したカルピスを呷った。
「大丈夫か?」
「まぁ、なんとか?」
「よしっ、じゃあ行くか〜」
ぱっともたれかかっていた身体を起こして浩希と啓介は自転車を漕ぎ出す。
余りにも早い変わり身にぽかんとしている徹の隣で、動悸が治った直人がぼそっと呟いた。
「体力馬鹿…」
大きな川に架かる橋は車通り多くて騒がしいから、叫ぶようにして、でもやっぱり喋りながら四人は進んでいく。
「なぁー、今何時ー?」
「んー、三時半? くらい」
「あとどんくらいで着くの…」
「二十分ぐらいじゃなーい?」
川を渡り切ると坂は下らずに、そのまま河川敷沿いに進む。
「海に人いるかなぁ」
「まだ明るいし、いるんじゃないか?」
「日の入りっていつだっけー?」
「七時ぐらいじゃないの?」
「えっ、じゃあ暗くなるまで三時間ぐらいあんの?」
「どっかで飯食う時間くらいあったな」
「いーじゃん。その分海で遊んでようぜ〜」
「そーだねー!」
「あそこの海って、日影あったっけ…」
「直人………」
蛇行しまくりながら進む浩希や啓介と違って、直人は青々と茂った並木が作る影から何とか出ないようにしている。
四人が向かっている海は特に海水浴場として有名な訳ではなく、海の家なんてものはないし、遊泳区域大しても広くない。その分、砂浜は綺麗だし人が少なくて遊び放題だ。
ひたすら自転車を漕ぎ続けて二十分弱。
熱風に潮の匂いが混じってきたことに啓介が真っ先に気づいた。
「おー! 潮の香りする!」
「じゃ、もうすぐってことか!」
「直人、もう着くから」
「うぃーっすー」
わーわー騒ぎながら小さい丘を越えると、直ぐそこには海が広がっていた。
「海ーッ!」
「っしゃぁああ!!」
目的地を目にして俄然元気になった単純組、浩希と啓介はおおおおお、と叫びながら加速していく。
「おいっ、待てって!」
「やっほー!」
「海だーッ!」
「…徹。知らないふりしよう」
異様なテンションで自転車を漕ぐ二人はかなり悪目立ちしている。
自転車を駐輪所に放り出し、即行で砂浜に駆け出した二人を、徹と直人もゆっくり追いかける。
徹達が砂浜に足を踏み入れた時には、浩希達二人は制服の裾を捲って浅瀬で水を跳ね上げている。
周囲の家族連れやカップルが二人を見る視線は微笑ましそうというか生温かいというかで、直人は本気で知らないふりをしたいと思った。
でも、
「徹! 直人! 早く来いよーっ」
「めっちゃ冷たい! 気持ちいよ!」
満面の笑みを浮かべて自分達を呼ぶ二人に、徹と直人は同時に駆け出した。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
四人の疾走感や青春を感じ取っていただけたら幸いです。
ちなみに、彼らは全員同じテニス部で、浩希と直人は幼馴染。啓介と徹とは中学が別で、高校に入ってから仲良くなった…という設定でした…。