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痣印-アザイン-  作者: まいくーはん
十一章
43/50

八葉

 廃城の地下室のような頑とした石牢。


 外界との唯一の接点ははるか頭上にある換気用の空気孔のみ。


 明かりはないが換気孔から明かりが差し込むので、

 全く見えない訳ではない。


 入り口は頑丈で重厚な鉄扉(てっぴ)が一つ。

 当然鍵がかかっている。


(まもる)さん……無事でいて……」


 八葉(やつば)(かえで)は部屋に備え付けられていた、寝心地だけは悪くないベッドの上で抱えた膝に顔を(うず)め、何度目かわからない恋人の無事を祈った。


 ***


 一週間前に意識を取り戻すと黒髪の美しい少女と《私》が目の前にいた。

 意識は取り戻したものの身体は自由に動かせず、両手足が拘束されていることを悟る。


「あなた達は誰ですか? なんでこんなことをするの? 」


「見知らぬ場所で拘束されているというのに、随分落ち着いていますね」


 質問に答える気はないのか、少女は感心したようにそう呟く。


「何故っていわれても……あなた達から敵意は感じない……からですかね。それにこの状況で騒いでも事態が好転するとは思えませんし……そっちの私に似ているヒト? はちょっと気持ち悪いですけど……」


「……だ、そうですよ? 」


 言って黒髪の少女は横にいる《私》を見る。


「あらあら。(かえで)さん。私のこと忘れちゃったんですか? 小さい頃からずっと一緒だったのに。悲しいですね」


 全然悲しそうではなくむしろ楽しそうにニヤリと笑って私の声でそう告げる。


「小さい頃から? どう言うことですか? 私の別人格とかそう言うことですか? 」


 当てずっぽうでそう答えると感心したように「ほぅ」っと呟き、少女と顔を見合わせてお互いに頷くと《私》が喋りだした。


八葉蓮華寺(はちようれんげじ)


 不意に告げられたその言葉に思わず目を見開いてしまう。

 とっさのことで驚きを隠せなかった。

 目を反らし沈黙を続ける楓を見て満足したのかそのまま続ける。


「さて、竜王山も魅力的ですが本命は富士です。……その顔はちゃんと理解している顔ですね。こんなに関係者が近くに集まっているとはなんてご都合主義でしょうかね? 」


「富士山を……どうするつもりですか? 」


 後半は無視して問いかける。


「どうする? 富士で八葉(はちよう)と言えば『お八巡(はちめぐ)り』に決まっているじゃないですか。ここまで聞いて解らないほどおバカさんじゃないですよね? 」


 《私》がその先を私に言わせようとじっとこちらを見て沈黙で促す。


「……八岐大蛇(ヤマタノオロチ)……」


 観念して答えると《私》はイヤらしく笑って


「ご明察~ピンポンピンポーン」


 クイズ番組の司会のように正解を告げる。


「なぜ……」


「なぜってさっきから言っているじゃないですか? ずっと一緒だったって。(かえで)ちゃんの初恋も初体験も辰巳(たつみ)(まもる)との情事までぜーんぶ知ってますよ」


 とんでもないことをサラッと言い出す《私》


「な!……え? そんな馬鹿な! 」


「信じられないなら今ここで発表しましょうか? 初恋は小学校四年生の時、同じクラスの戸塚君。初キスは高校二年生の時の櫛田さん(女子)。初体験は二十歳の時に付き合っていた山県君と……」


「ストーーーップ! 」


 思わず聞き入ってしまったが、自分の恥ずかしい情報を漏洩されていることに気付いて慌てて止める。


「もういいんですか? これから(かえで)ちゃんの性感帯と好きな体位と一番感じる部位(スポット)を発表しようと思ったんですが……」


「やめて! あなたが私のことをよく知っているのはわかったから! 」


 顔を真っ赤にして静止する楓。

 今さら過去の話をされてもなんともないが、自分の顔と声で淡々と話されるには想像以上にきつい内容だ。

 それに、このままでは社会的に死んでしまう。


「では、お八巡りに協力していただけますか? 八葉(やつば)巫女(みこ)


 黒髪の美少女が楓の黒歴史などどうでもいいとばかりに、このタイミングで会話に入って来た。


「そこまで知っているなんて……あなた達が(まもる)さんの言っていた悪忍(おに)なのね? 」


 黒髪の美少女に視線を移して問いかける。


「彼らが我々をどう呼ぼうが自由ですが、我々は自分達のことを【調整者】と呼んでいます。昔話の悪役に(なぞら)えてオニと呼ばれるのはあまり気分がよくないですね」


 表情を変えずに淡々と話す美少女。名前はカルマと言ったか。


「二〇二〇年の大地震はあなた達が起こしたんじゃないんですか? (まもる)さんからはそう聞いていますが? 」


「そうですよ。それがどうかしましたか? 」


 だからなんなのかと逆に問い詰められる。


「私はあの地震で両親を亡くしたし、自分も瀕死の重症を負いました。日本だけでも四千万人以上の人が亡くなったんですよ! ? その原因があなた達にあると言うなら、オニと呼ばれるのに十分な理由はあると思います」


 この人達に何を言っても死んだ人間は生き返らない。

 そう思うと悔しさと悲しさで涙が溢れてきた。


「だから、それがどうしたと言うんですか? 十分な理由? あなたは今までどれだけの生き物の犠牲の上に生きていると思っているんですか? 人でなければ殺して喰らっても良いと? それこそ鬼の所業だとは思いませんか? 」


 予想外の反論にあい一瞬答えに窮する。


「でも、それは生きる上で仕方ないことだわ! 他の生物だって生きるためには別の生物の犠牲が必要よ! でも、あなた達は違うでしょう? 生きるために殺したわけじゃないでしょう! ? それとこれを同列に語るなんて卑怯よ! 」


 溢れる涙を拭うことも出来ず、頬を伝い床に落ちて石に吸い込まれていく


「人間は我々にとっては蜜蜂のようなものです。うまく管理してやれば甘い蜜を作り出しますが、時々反旗を翻したりもする。まぁこの頃はそんな輩はまずいませんが。人間を攻撃した蜂は駆除されるでしょう? 前の地震はそう言うことなんです。もうこれは考え方の相違ですね。こちらの考えを理解する必要はありません」


 あまりにも人をちっぽけな存在として見ている美少女に背筋が凍る思いがしてそれ以上発言ができなかった。


「あぁそう言えば。あなた巫女なのに処女じゃなくて良いんですか?」


 そんな楓の思いは余所にカルマは確認を続ける。

 楓はそれに答える気はなく沈黙を貫いた。


「……困りましたね。薬や術を使って強制的に協力させてもいいんですが、それだと八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の覚醒が中途半端になってしまうかもしれないですし。素直に協力してほしいんですが……」


 絶対に協力などするものか!そう強く念じ押し黙る。


「……黒龍(こくりゅう)。なにかいい方法はありませんか? 」


 カルマが《(こくりゅう)》に向かって問いかける。


辰巳(たつみ)(まもる)の生首でも持ってくれば手っ取り早く考えが変わるんじゃないか? 」


「やめて! (まもる)さんに何かしたら絶対に許さないわ! 」


 サラッと恐ろしいことを言う《(こくりゅう)》に怒りを含んだ叫び声をあげて睨み付ける。


「なるほど。それが効果的なようですね。殺してしまっては言うことを聞いてもらえなそうなので、手足をもいで持ってきましょうか。黒龍はここでしばらく楓さんの考えが変わるように調教しておいてください。この際多少正気を失っても構いません」


 カルマは構わずそう告げると鉄扉を開けて外に出ていった。


「待ちなさい! 卑怯者! 」


 閉まりきる前に扉に向かってそう言い放つとカルマが一瞬こちらを向いたが、その表情からは一切の感情が読み取れなかった。

 それでもせめてもの反抗の気持ちを込めて、ギギギと音を立てて扉が完全に閉まるまでじっと睨み続ける。


「その程度の拘束も解けないんじゃ何を言っても無駄ですよ? まぁあの扉は陰気でないと開けられないので、陽気の最たる巫女ではどう足掻いても無理なんですけどね」


 《(こくりゅう)》はそう話ながらこちらへ歩み寄ってくる。

 口惜しいが言われた通り拘束すら解けないのでは何も出来ない。


「この中なら自由にして構いませんよ。食事は二回。昼と夜に運びますので。トイレだけは一緒になっちゃいますが場所が場所だけに我慢してくださいね」


 そう告げると手足の拘束具に触れて解いていく。


「あなたは……何なの? 」


 拘束されていた手足を擦りながら目の前にいる《(こくりゅう)》に問いかける。


「前にも言いましたが私とあなたは一心同体です。あなたの考えていることや想いは多少理解しますが、協力した方が辰巳(たつみ)(まもる)にとっても良い結果になると思いますよ」


 そう答えた《(こくりゅう)》は夜にまた来ると告げて扉の外へ出ていった。


 ***


 一人残されて天を仰ぎ見るが、あるのは石の天井だけだ。


 考えることが多過ぎて頭がパンクしそうだ。

 いまはまだ(まもる)の無事を祈ることしか出来ない。


(まもる)さん……」

八葉の巫女とは? 楓は一体何者?

八岐大蛇とは?

草薙がいた暴走族チームと関係があるのか?


守衛室と悪忍の戦いついに勃発?


色々伏線を撒き散らしつつ、回収しつつ物語は最終局面へ向かって徐々に進んでいきます!

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