決戦2(後編)
腕にできた裂傷を見るが血は出ておらず痛みもそれほどではない。
龍の鱗の上からつけられた傷という以外は大したことはない。
「傷口から血が出ないってことはあれは鎌鼬か? 」
【じゃろうな】
鎌鼬は三位一体の妖怪と言われている一匹目が転ばし、二匹目が傷をつけ、三匹目が傷口に血止めの薬を塗る。
実態は乾いた空気によって乾燥した肌がちょっとした衝撃で割けて傷を作る事を地方によってかまいたち現象と言うだけなんだが、こいつはどう贔屓目に見てもそんな生易しい傷ではない。
まるで風の刃が飛んできたかのようだ。
風の刃では目に見えない。これまた厄介な相手だ。
「さて、どうしたもんかね……」
攻めあぐねている俺を見て目の前の風神擬きが真っ直ぐ手を伸ばして指をパチンと鳴らすと、ヤツの足元に小さなつむじ風が発生した。
そして周囲の空気を巻き込み瞬く間に大きな竜巻になっていく。
先がどこまで続いているか見えないほど大きくなった竜巻に唖然としていると、不意にヤツが竜巻の中に手を突っ込んだ。
すると竜巻がいっそう激しく回転し、ヤツの手の中に収まるとそこには風を纏った刀が現れていた。
【あれは【風刃丸】じゃな。一薙ぎで山をも断つ風の刃が飛ぶぞ。守。こちらも【龍神刀】を抜くのじゃ】
「あれか……滅茶苦茶疲れるからやりたくないんだがなぁ……そうもいってられないか……」
左手龍爪の手首部分を右手で掴み一気に引き抜く。
「【龍神刀! ! 】」
シャランと水を帯びた透明な刃が姿を現すと一瞬周囲に薄い水の膜が出現し守を中心に徐々に拡がっていき、風神擬きの目の前で弾ける。
「いく……ぞっ! 」
掛け声と共に下段に構えて突っ込み一気に間を詰める。
下から膝をめがけて薙ぎ払う。
跳んで避けた風神擬きが刀を降り下ろすが、返す刀で弾き飛ばしそのまま大上段に構えて刀を持っている手をめがけて一気に降り下ろす。
ヤツは刀を手放し素早く右手を引くとその勢いで一回転し、いつの間にか左手に出現した風刃丸を守の首もとに向けて切りつける。
亀のように首を縮めてやり過ごすと立ち上がる勢いで半円を描くように下から上に向かって刀を振るう。
風神擬きの胸板に一筋の剣線が浮かび上がり血が吹き出る。
半円を描ききった体を入れ換えて仕切り直しと対峙する。
「浅かったか? 」
傷口はもう塞がっておりダメージは少なそうだ。
「グルルル……」と唸りながら傷跡をポリポリ掻いている。
風神擬きが右手に持った刀を左肩まで振りかぶり一気に振り切る。
風圧で風の刃が飛ぶが、龍神刀から漏れでた水気が風の刃にまとわりつき守に届く頃にはそよ風に変わる。
「今更そんな遠距離攻撃でどうにかなるかよっ! 」
再び剣戟が繰り返される。
打ち合う度に龍神刀の水気が周囲に飛ぶ。
幾度目かの打ち合いの後に後ろに飛びすさぶ。
「頃合いだな。ここまで苦戦するとは思わなかったぜ! 」
「【鏡花水月】お前はもう俺と剣を交えることはできない」
龍神刀から飛び散った水気が光を屈折させ俺の分身を作り出す。
やつには俺が何十人にも増えたように見えているだろう。
分身といえども龍神刀から漏れでた水気で作った刃も備えているので、当然攻撃は本物だ。
無数の刃が風神擬きに襲いかかり、ついに目からは光が消えその場で巨体が崩れ落ちる。
止めと一足跳びで近付き両方の角を落とすと、倒れ込んだ巨体が空に浮かび突風と共に黒い粒子となって消えていった。
「解……っだぁぁぁぁぁ疲れた! もう無理! 結構ギリギリじゃねぇかシロ! 余裕とかいってたの誰だ! 」
【内容と結果を見れば圧勝じゃろうが。お前の体力の無さまでは知らぬよ……】
霊装を解いてその場で倒れ混むと溜まっていた鬱憤をぶちまけたが、あきれ声であしらわれて不満が顔に出る。
傷らしい傷は皆無だが霊装による体力消耗が激しくし起き上がるのが辛い。
「よう、お疲れさん! 見ている分には終始圧倒していたがヤバかったのか? 」
庸が近付き声をかけて手をさしのべる。
その手を取り起き上がると愚痴を漏らす。
「いや、見た目以上にヤバかったですよ。誰かさんが余裕とか言ってましたが余裕かまして戦える感じではなかったです」
誰かさんを強調して言う。
「はははっ。まぁ憎まれ口が叩けるんだから大丈夫だ。しかし、龍神刀だっけか? ありゃお前中々すげぇもん持ってたな! 」
庸にまでそう言われてしまえばそれ以上なにも言えない。
「あれものすっ……ごく疲れるんですよ。ちょっとまだ扱いきれてないのもありますが、剣術なんて学生の頃授業でやっただけですからね」
「それにしちゃぁずいぶん様になってたぜ? 」
予想外に食い付いてきた。
「そうですか? 草薙にしごかれましたからね……」
あははと照れ笑いを返す。
「利坊は地元の剣術道場じゃ敵無しだったらしいからな。まぁあいつはあいつでその後も木刀背負ってブイブイ言わせてたからな……」
ははっと乾いた笑いを漏らす庸。
それよりも俺は庸が言った一言が気になっていた。
「ブイブイ……? 」
「おいおい通じないのかよ……かぁーっ! コレがあれだな! レギュレーションギャップってやつか! 」
庸が額に手を宛て天を仰ぐ
「庸さん。それを言うならジェネレーションギャップでしょ」
庸の顔が赤く染まる。
「わはは! たまたまだよ! わざとだ! 気にするな!通じりゃ良い! 」
偶々なのかわざとなのかどっちなんだろうか……
結局ブイブイの意味はわからないまま下山の準備をしに他の仲間達の元へ帰っていった。
戦闘シーンちゃんと表現できてたでしょうか(;^_^A
一挙手一投足を書き起こすと勢いがなくなり、地の文が足りないと臨場感が無い。
自分の頭の中の戦闘シーンがきちんと伝わっていくように頑張ります!




