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決戦2(前編)

祠での修行に入って現実時間にして五日後、七七七(ななみ)喜呪(きじゅ)による二体目のシキが現れる予定の日――。


(まもる)。今のお主ならば色鬼(シキ)はおろか死鬼(シキ)とも充分渡り合えるじゃろう。七七七(ななみ)喜呪(きじゅ)はシキを全て撃ち破れば相手に返る。そのシキが返る先が悪忍(おに)の居場所と考えて良かろう。それと降臨は……】


「降臨は強くて良いんだが反動が大きいから使うつもりはない」


決戦前にあれやこれと言い放つシロの言葉に先んじてそう告げる。

この体感にして約半年の修行でシロとの降臨は問題なく出来るようになった。降臨している時間にもよるが長時間の降臨は反動が大きい。ウマイ話には裏があるとまでは言わないが、強い力には相応の代償が必要という事だ。


但し、降臨が出来るようになったことで肉体レベルは飛躍的にアップした。半年間の修行の成果としてはこちらも大きい。

元々の【水】の能力である治癒に関しては自身の表面的な傷は瞬時に回復するほどで、水を媒介として他者の治癒および自身の深い傷も治癒可能だ。


降臨すれば蓄積されたダメージも瞬時に全快するほどだが、コレのお陰で反動がすごい。自然治癒力を強化しているわけなので傷は治るが降臨を解いた後に体力をごっそり持っていかれるのである。


「そろそろだな」


首もとが熱くなり始めてドクンドクンと脈打っている。


回りの空気が湿り気を帯びてきて快晴から一変してぶ厚い雲が空を覆い始める。

突然突風が吹き荒れ周囲の空気が目の前の一点に凝縮されていき、徐々に人の形……いや、二体の鬼の形をとっていく。

角は其々(それぞれ)一本。片方は金髪で右目が隠れており、もう一方は銀髪で左目が隠れている。

前回のシキとは異なり体格は俺より少し小さいくらいだが赤黒く逞しい上半身を(あらわ)にし、ぼろ布の腰巻きを着けている。


「おいおい、一体ずつって話じゃなかったか? どう言うことだこれ? 」


聞いていた話と違うとクレームをいれる。

一対一と一対多では当然後者の方が難易度は跳ね上がる。


【一回に一体とは限らぬということか。今のお主ならば対処できるじゃろう? 幸い向こうは二体とはいえ一角鬼(いっかくき)じゃ。油断しなければ大丈夫じゃ】


いざとなれば降臨を使えと言い残してシロは姿を消した。

目の前の鬼たちを見ると鏡に写したようにそっくりだった。

と言うよりも――


「まるで金角と銀角じゃないか。流石に名前呼ばれて返事したら瓢箪(ひょうたん)に吸い込まれるとかないよな……」


西遊記の金角(きんかく)銀角(ぎんかく)を思い浮かべて思わず呟く。


【金角鬼と銀角鬼は過去の悪忍(おに)の話じゃがよく知っておるの。瓢箪(ひょうたん)の中に龍穴(りゅうけつ)を留める【木】の使い手で手強い相手じゃった。】


懐かしそうに話すシロを余所(よそ)に目の前のシキはこちらに向かって走り始めた。


速い!


あっという間に左右から挟まれシキの拳が襲いかかってくる。

その拳をしゃがんで避けると同時に金角の足を払ってから前に転がる。

起き上がり後ろを振り返るとバランスを崩して前のめりになる金角の頭に銀角の拳がヒットしたところだった。


前回の青鬼と比べれば格段に速いが今の(まもる)に捉えられない早さではない。


予想外の反撃に「ぐるる……」と唸りをあげて警戒する二体のシキを前に余裕の残る(まもる)


「今のがお前らの全力ならさっさと諦めて悪忍(おに)んとこ帰りな! 」


言って左右の指をビシッと伸ばして身体の前で腕をクロスし、エックスを描くようにその腕を振り切ると、両手の先に白銀の槍が出現していた。


「霊槍! 切り裂き貫け! ザン! ザン! ザン! 」


間合いを詰めつつ真言(しんごん)を唱えて金角に向かって振りかぶる。

右左(みぎひだり)と上から()ぎ下から払い着実にダメージを重ねていく。

後ろから銀角が襲いかかってきたが、片方の槍で受け止め片方の槍で攻撃をする。

銀角を攻撃している間に金角が体勢を立て直し攻撃に加わる。攻守逆転だ。


二体の利点を活かして右に左に上に下にと攻撃箇所を散らしてくるが、その全てを(さば)き受け止め大きく弾き返す。


銀角の着地が乱れたところに右手の槍を構え、振りかぶって唱える。


「つらぬけぇぇぇ! カン! 」


俺の手を離れた槍は銀角の頭部角の下辺りに真っ直ぐ延びていき、そのまま角を落とす筈だった。


しかし、その頭を狙った手槍を模した槍は銀角の髪に覆われた部分に吸い込まれるように消えていった。


「なにっ! ? 」


一瞬の虚をつかれて集中が途切れた。その隙をついて金角の豪腕が襲いかかって来たので慌てて防御する。

しかし虚をついたはずの攻撃が受け止められても金角は動じないばかりかニタァと笑った。


瞬間、ゾクリと背筋に悪寒がはしり一瞬の(のち)金髪に覆われた奥の方で何かが光った。


カッ!


金髪を切り裂いてそこから出てきたものは、先程銀角に向かって放った(まもる)霊槍(れいそう)だった。


「そういうこと……かっ! 」


瞬時にそれを悟り金角を弾き飛ばす反動で後ろに大きく()()りなんとかその攻撃をかわす。

ごろごろと転がり再び対峙する。

金角の顔の右半分にかかっていた髪がバッサリと落ちてその奥にある真っ暗な空洞が姿を現していた。


「ブラックホールとホワイトホールは繋がっていますってか? アインシュタインもビックリだな……」


本物のブラックホールではないだろうがある意味瓢箪(ひょうたん)よりも厄介だ。無尽蔵に吸い込むわけではないだろうが、出し入れ自由となると飛び道具は使えない。

長引くとこっちの方が不利だ。

こうなったら接近戦で短期決戦しかない。


「ふーっ…… シロ! やるぞ! 」


【懸命な判断じゃな】


大きく息を吐いてシロに告げるとシロも同じ考えのようで話はすぐにまとまった。


「【降臨! 】」


シロの姿と(まもる)の姿が重なると白銀の光が辺りを覆う。

金角と銀角もあまりの眩しさに目を細めて腕で顔を覆う。


一瞬の(のち)、そこには白銀の鱗と青い鉤爪(かぎづめ)を備え、黒い羽織を翼のようにはためかせ、額には雄々しい角を腰の辺りからは勇壮な尾を生やした(まもる) の姿があった。


「さて。霊装(れいそう)状態になったからにはさっさと終わらせるぞ! 」


掛け声と同時に地面を蹴り手前の金角に向かう。


龍爪(りゅうそう)! 】


腕の甲に浮かんでいる鉤爪(かぎづめ)(まもる)の手に重なり一際輝く。そのまま金角に向けて無造作に上から振りかぶる。

金角は腕をクロスさせ防御姿勢をとったが気にせず振り抜くと勢い余って地面に触れる。

ビシッと地面に爪痕の形に亀裂が走り、少し遅れて金角の両腕がずるっと落ちてくる。


「ぐぅぉぉぉぉぉぉぉっ!」


痛みや感情があるのかは知らないがあっという間に落ちた自分の両腕をみて、脅えの様なものを見せて後ずさりながら銀角の方へ向かう。


「まずは一体! 終わりだ! 」


再度地面を蹴り金角へ向けて龍爪を降り下ろす。

しかしすんでのところで避けられ銀角と合流されてしまう。


こうなれば二体同時でも大して変わりはない。

三度目の正直と攻撃体勢をとったその時、銀角の顔の左半分に金角が吸い込まれ金角の顔の右半分に銀角が吸い込まれた。


お互いにお互いを吸い込みながら小さくなっていき最後には消滅してしまった。


「なんだ? 勝てないと思って自爆したのか? それともどこか別の場所に逃げたか? 」


拍子抜けしたと思ったのも束の間。出現した時と同様に凄まじい突風が二体が消えた辺りに集まってくる。

そして空中に太極(たいきょく)図が浮かび上がり徐々に球状に変化していく。その球を核として風が集まり先程と同様鬼の形をとっていく。


角は二本。金と銀が混じった髪を(たた)え、体躯(たいく)は先程より五割増しと言った大きさで威圧感も先程の比ではない。


「敵が合体して巨大化とかどこの戦隊ものだよ……おいシロ! 巨大ロボットとかないのか? 」


【あるわけなかろうが。霊装(れいそう)状態で巨大化することは可能じゃが当然空気抵抗も大きくなるわけじゃから、スピードは落ちるぞ。この程度の体格差は問題にならんわ】


真面目に返されてしまったが(まもる)とて冗談で言っただけだ。


「しかしありゃぁまるで風神だな」


腹は出ておらず外見が似ているわけではないが、周囲の突風や雰囲気がそう言わしめるものを(かも)している。


【先程の金角・銀角も風神・雷神も過去にいた悪忍(おに)じゃから、そのイメージを雛形としてシキを組成しているのやも知れぬな。シまぁキはオリジナルを上回(うわまわ)ることはあるまい】


確かに先程よりはプレッシャーを感じるが霊装状態で(あらが)えない相手ではなさそうだ。


そう楽観視していたわけではなかったが左肩に急に痛みを感じて慌てて見ると、鱗のガードを越えて裂傷が見えていた。

その傷を見るまで攻撃されたことに全く気づかなかった。


「おいおい本気かよ? 誰だ余裕とか言っていたヤツは……」


ここから第二ラウンド開始ということらしい。

後編へ続く!(ちびまる子ちゃん風に)

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