降臨
【もっとイメージを広げろ! 常識に囚われるな! 】
シロの叱咤が響く。
ここは御岳山の祠の中。
守衛室メンバーは業の襲撃の後、守が意識を取り戻すとすぐに全員で祠の中心付近まで入り込んで修行を開始した。
現在彼らが立ち入れる場所では時間の流れが外界と約三十分の一。身体への負荷は三十倍といったところまでだ。
この地点で一ヶ月過ごしても外界では一日が過ぎるだけである。
加えて身体への負荷も大きいので修行をするにはうってつけである。
ここより中心部まで進めば更に効率は上がるが実力がないと効果は少ない。各々(おのおの)の霊獣の判断では此処が丁度良かった。
【お主は楓が黒龍と一体化した姿を見ておるじゃろう。あの姿が最終形としてイメージするのじゃ。もう一度いくぞ! 】
【「降臨! 」】
シロと守の声が重なる。
【自分のことを龍だと思え!その皮膚は鋼より固く羽より軽い!その鉤爪は刀より強く鋭い!その瞳は千里を見通し見えぬものはない! 龍とは最も強い者に与えられる称号だ! 】
守の姿にシロが重なると両腕に白銀の鱗が明滅しながら徐々に実体を帯びてくる。
次いで両足、首と露出している肌を白銀の鱗が覆っていく。
「ぐっ……! これで……どうだっ! ? 」
カッと周囲に白銀の光が瞬いた後徐々に守の回りに集束していくとそこには全身を白銀の鱗に覆われた守の姿があった。
「どうだシロ? 」
【ふむ。六割といったところじゃな。最低限この状態を保てぬと即死じゃぞ】
ギリギリ及第点を貰ったようだが、これで漸くスタートラインに立ったところだ。
「鉤爪はシロに無いからイメージし難いな……」
【そうじゃのう。ワシのこの羽織を見よ。両脇に刺繍があるじゃろう】
バサッとシロの羽織が守の両肩に出現する。
確かに両脇には金色の糸で鉤爪が刺繍されている。
鉤爪は三本でゴツゴツしている。
人差し指と中指、薬指と小指同士をくっつけて三本指のようなものを作ると似ているか。
【形に拘る必要はない。お主の手と鉤爪が重ならなくてもよいのじゃ。三本である必要もないし爪の形を取る必要もない。お主が攻撃に向くと思う形をイメージするのじゃ】
指をくっつけたり離したりと動かしながら試行錯誤しているとシロにそういわれてしまった。
「うーんどう思う? 八代? 」
「うひゃぁ! 気付いてたの守君! 驚かそうと思って逆に驚かせられるなんて屈辱だわ……」
後ろから近付いてくる八代の気配を感じたので純粋に聞いてみただけなのだが、本人は驚かせるつもり立ったらしい。
何やってんだこいつは。
「カルラは鉤爪あるだろう? あれお前出来るか? 」
「もっちのろーんよ!」
と言ってブイサインを見せる八代の手の甲から三本の黄金色に輝く細い刀のようなものが真っ直ぐに延びていた。
形に拘るなとはこう言うことか。
「ち・な・み・に……」
と続けて言った後「おいで! カルラ! 」と叫び降臨をすると黄金の翼を携えた八代はその場で宙に浮きホバリングした。
「おおっ! やるな八代! 」
「でしょでしょ~もっと誉めても良いのよ? 」
【守。八代はあんまり深く考えてないんだよ。でもそれがコツでもあるんだ】
カルラの声が響き。先程のシロと同じことを言う。
「深く考えてないってどう言うことよ? カルラちゃん? ん? 」
【いや、八代はセンスがあるってことだよ! よ! 】
カルラの言い訳に「ふーん」と言いながらもそれ以上は追求しない。以前の八代に見られた何事にもふざけた感じが今はあまりない。時折するそういった態度も無理しているように見える。
実際に悪忍と対峙して感じるところがあったのだろう。
それは多かれ少なかれメンバー全員に感じられる。
直接対峙していないとはいえ守も焦りに似た何かを感じていた。しかし何も考えないのがコツだと言われるのは止水のときと同じだ。
自然体が一番ということなのだろう。
「よし、シロ! もう一回やるぞ! 」
【いつでも良いぞ】
ごちゃごちゃ考えるのはやめだ。その先のことなどいま考えても仕方ない。まずは俺が強くなる。そして悪忍どもを倒して楓を取り戻して元に戻す。
その思いだけを胸の奥に灯し大きく息を吸う。
【「降臨! 」】
個別の修行シーン入れすぎると間延びするのでショートカット。
伊吹と八代はケモナーぐへへへって感じになると良いなと考えています。




