円卓の鬼士(きし)
暗闇の中部屋の四隅に設置された蝋燭に火が灯る。
部屋の中央には円卓とその周囲に五角形の頂点の位置にそれぞれ椅子が設けられており、そこに五つの影が鎮座している。
部屋の光源が少ないためお互いの表情までは判別できない。
不意に影の一つが音声を発した。
「それで、話はいったいどこまで進んでいるのかしら? 」
若い少女の声だ。
「ふっ! 俺の右拳に宿る漆黒の巨人の衝撃はさっさと富士のエイトアゲインドラゴンを目覚めさせよと疼いているっ! 」
内容はともかく声から推測するには成人はしていそうな男の声が答える。
「OSND! 」
こちらは成人しているだろう女性の声で意味不明のアルファベットが飛び交う。
「お前らうるせぇぞ! 少し黙ってろ! 話が全然進まねぇじゃねぇか! ぶち殺すぞ糞が! 」
ドスの利いた嗄れ声が響き静まり返る。
【ヤレヤレ。コイツらに組織的な動きなんて出来るのかね? 】
黒龍が業に向かって呆れ声で問いかける。
「それで、話はいったいどこまで進んでいるのかしら? 」
先程と同じ口調で問いかける業に嗄れ声が答える。
「どこまでもなにも五人揃うのは今日が初めてだろが? 」
「漆黒の巨人の地震は偽世界を閉鎖する準備はできているぞ! ! 」
「TAKK!US! 」
「【幻影】、【欲望】少し黙っていてください。【法師】あなたは指示がないと動けないのですか? 」
ピューイと黒龍が口笛を鳴らす。
幻影と言われた男と欲望と言われた女が不満を言いながらも渋々黙る。
ドカン!
法師と言われた男が円卓を拳で叩いて怒りを表す。
「おい! 業! 生意気なこといってるとてめぇのその綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてXXXにXXXぶちこんでXXXXになるまでXXXしてやんぞコラ! あぁん? 」
口汚い言葉で罵る法師の発言など意に介さず続ける業。
「出来ないことをただ喚いているだけでは思春期の人間と一緒ですよ? 程度が知れるので以後改めなさい」
それと。と呟き手首を左から右へ一振りすると徳の首が飛んで床に転がる。
「脅している暇があれば先に攻撃しなさい」
ドサリと法師の胴体が倒れると転がった頭が起きあがり業の方を向いてにたっと笑った後、元々頭のあった場所まで飛んでいく。
先ほど倒れた胴体がムクリと起きあがり、空中の頭を両手で支えるとペットボトルの蓋でも締めるかのようにくるくると回して何事もなかった様にもとの位置に収まった。
「相変わらず容赦がねぇぜこのビッチはよ! 」
グハハハと豪快に笑い机をバンバンと叩く法師。
「DMK! KKKI?」
「私の運命の書庫には世界の終末が既に刻まれている! 」
【……ダメだコイツら】
黒龍は天を仰いで少しだけ後悔した。
業も少しだけ目頭を押さえて頭をふって言う。
「冗談はここまでにして。それぞれ【鬼士】は用意したんでしょうね? 」
業の傍らに警察官の制服を着た男が微笑みを携えてスッと現れる。
【幻影】の横にはピシッとスーツを着こなし背筋がピンと伸び、長めの髪の毛に緩くウェーブがかかった大人の雰囲気をまとった女性がカッとヒールを鳴らして一礼して現れる。
【欲望】の脇には田舎のホストのような長髪の金髪に赤の開襟シャツとストライプの入ったスーツを羽織り、首や手にはゴテゴテのシルバーアクセを着けた如何にも軽そうな男がウィンクしながら「ウィッス」と言って現れる。
【法師】の後ろから十代の少女とおぼしきおかっぱ頭に赤のカチューシャと縁なし眼鏡をかけた少女が、茶のブレザーと太めのプリーツのチェックスカートに通学鞄と言った出で立ちで電車待ちの列に並ぶかの様に無表情で佇む。
「そう。では私はこれから楓さんの覚醒に集中しますので暫くはあなた方で自由にやっていて下さい。あぁそれと正当後継者の方には先日黒龍と私が挨拶していますので今は手を出さないように。良いですね? 」
全員が真面目な面持ちでコクりと頷く。
では解散。と業が告げると部屋のろうそくが音もなく消え静寂と暗闇が再びその場を支配した。
法師のイントネーションは、
達磨ではなく業と同じです。




