夢ではなかった
微グロありです。苦手な方ご注意ください。
目が覚めるとそこは夜の公園だった。
奥の方に神社のようなものが見えてそちらに歩き出す。
菊の紋が施された見覚えのある鳥居と参道が見える。
「……ここ、明治神宮? なんで私……」
と言うことは、先程の場所は代々木公園か。
なぜこんな場所にいるのか記憶がはっきりしない。
それに周りの様子もおかしい。幾らなんでも静かすぎる。
うーんと唸って額に手を当てて考え込むが思い出せない。
成人しているとはいえ未婚の女性がこんな夜中にウロウロしていては何があるかわからない。
「電車動いてるかな……? 」
そう呟いて腕時計を見ようと左手に視線を落として目を見張る。
「な、え、なにコレ? 」
左手は黒光りする鱗のようなもので覆われており、手は鳥の脚のようになっており鉤爪まである。
逆の手を見ると同じ様に鱗と鉤爪の様な手。
「なんで! ? どうなってるの! ? 」
急に鼓動が早まり息をするのが苦しい。
自分の身体なのに言うことを聞いてくれない。
よろよろと歩いて辿り着いたのは池の縁だった。
下を向いて呼吸を整えていると不意に月が顔をだし水面に異形の姿が映る。
「ひっ! 」
まず目に飛び込んできたのは暗闇の中でもはっきりと分かる紅い瞳と唇。そして、頭の後ろから生えている鹿のような角。
洋服はいつも部屋着で来ていた大きめのティーシャツとハーフパンツ姿だが、袖からでている手足は黒い鱗で覆われている。
立ち上がっておそるおそる池を覗き込むと、腰の辺りからは尻尾が生えている様に見えて慌てて振り返る。
【ようやくお目覚めかい? お姫様】
「ひっ! だ、誰ッ! ? 」
池の方から声がして驚きガバッと再度振り向いて問うが誰もいない。
【下だよ下。水面を見ろ。あぁそう怖がらなくていい。俺とお前は文字通り一心同体なんだからな】
促されて水面を見ると、自分の顔をした異形の化け物がクックックと笑っている。
「なんなのコレ! ? 一体どうなっているの? 説明して! 」
自分でもヒステリックになっていると思うが、こんなあり得ない状況で冷静になんてなれるはずがない。
【本当に説明が必要か? ……本当に思い出せないのか? 】
水面が浮き上がり自分の姿が水で象られていき、その自分の姿が自分に向かって問いかける。
ヤメテ!
【ほら、周りを見てみろよ! 】
ヤメテ!
【こんなに静かなんておかしいよなぁ? 】
ヤメテ!
【お前の手に付いている黒いモノはなんだ? ん? 】
ヤメテ!
先程まで顔を出していた月も今は厚い雲に覆われその姿を地上から伺うことはできない。ポツポツと雨粒が落ちてきたかと思うと一気に雨足が強くなり雷がゴロゴロと鳴り始めた。
【全部お前がやったんだ! お前の手でなぁ! ! 】
カッと稲光が走り近くの木に雷が落ちる。
大雨の中ブスブスと煙が上がり燃え始める。
雷光に照らされて周りの惨状が浮かび上がるのを目の端で捉えた。
いや、見ないようにしていたモノを遂に見てしまった。
「あ、あ……あああああああ……」
呆然と見渡す視線の先には所々に動いていた時には人だったものの残骸が池のほとりのベンチや木の下池の周りに点々と落ちていた。
手には良く見ると肉の欠片が付着しており、意識したことで鉄臭い血の匂いが鼻腔の奥に漂ってくる。
自分の体なのに言うことを聞かず目の前の人達を切り刻み、引き千切り、押し潰し物言わぬ肉片に変えていく様を意識の奥底で見せられ続けて耐えられずに意識がシャットダウンしたのだった。
血の匂いと臓物の映像に腹のそこから込み上げてくるものを地面にぶちまけた。
「おぇっ……ごほっ! うっ……うっぷ……はぁはぁなんで……」
涙も吐瀉物も手にこびり付いた肉の欠片もいつの間にか台風のようになった大雨と大風が洗い流していく。
ボンッ!
煙をあげていた木が弾け煙と水蒸気のなかに二つの人影が見える。
「あら。こちらのお姫様はひどい格好ね」
大雨のなか全く濡れていないように見える黒髪のセーラー服姿の美少女と警察官の制服を着た男が出てきた。
「誰ッ!?」
「私は【業】貴方の教育係です。【火】と【水】で相性悪いですけどそこは我慢して下さいね」
カルマと名乗った美少女は妖艶に微笑むともう一人の私の方へ歩いていった。
「ここではなんなんで場所を移動します。楓さんの体お願いしますね。黒龍」
【あぁわかった。何処へ行くんだ? 】
「内緒です。黙ってついてきてください」
【おーこわ。へいへいわかりましたよ。どうして人間のオスはこんなのにコロッといっちまうのかね】
黒龍が理解不能を示すように両手をあげる。
「オスと言うのはメスを支配したい生き物なのです。その実支配されているのはオスの方だとは気付かないのですよ。いや、気付いていてもそのままのオスもいますけれどね」
同行している警察官の方をちらりと見ながら言う。
楓を見ると両手を身体の前でクロスさせ肩を抱くようにしてまだ怯えている。
伊吹は美しかったが楓は可愛らしい。自分の異形の姿を見てなお正気を保っているところも壊したくなるほど愛しい。
スッと視線をはずすと黒龍に目で合図する。
黒龍は楓に歩みより嫌と言う彼女の口から水のようになって侵入する。数秒動きが止まり再び目を開けたときには黒龍がその身体の主導権を握っていた。
いつの間にか止んでいた雨の雲間から指す月の光が先程まで三人がいた場所を照らしたが、そこにはもう誰の姿もなかった。
楓さんと業さん遂に合流!
悪忍のメンバー続々参戦予定!
そう!あくまでも予定……( ・∇・)




