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強襲

ちょっとグロ表現あります。苦手な方は気を付けてください。

一日ゆっくりと休んだ俺達は食料などを買い込んで、二体目のシキに備えて修行するため再び御岳山山頂の祠へ向かって歩いていた。


今回は目立つ格好を避けて登山に相応しい格好をしている。

……伊吹(いぶき)以外は。

(いわ)く、そんな格好するくらいならいっそ殺してくれと。

そんな格好している四人の前で言ってのける伊吹(いぶき)に誰もなにも言えなかった。

そして、登山道入口でまたもや老人に絡まれるのであった。


「酔払い、こっち、こない、で」


「バカヤロー! 俺はもうにじゅーねんもここ登ってるの! 庭みたいなもんなんだから、酔ってるわけねーだろ! しょんな格好で山登ったら死ぬぞ! 山なめてんのか! 」


親切心から来る忠告なんだろうが、酔っぱらったままの登山もそうとう山をなめている。連れの老人たちも頷いているだけで止める気はなさそうだ。

一般人と争っても仕方ないので、無視して進もうかと思ったがさすがにコレは性質(たち)が悪いので止めに入ろうとしたその時、


「じいさんにそっちのお連れさんもよ。あんま若い子捕まえて苛めないでやってくれや。山の基本は挨拶と助け合いだろ? 」


な? と言ってこちらに目配せをする。先に行けと言うことだろう。ここは若いやつが出ていっても火に油を注ぐだけになりそうなので、(いさおみ)に任せて先にいくことにした。


「くそ、じじ、いー」


伊吹(いぶき)が両手の人差し指を口にいれて左右に引いてイーッとして小走りで駆けていった。よっぽど腹が立ったんだろう。

だが、余計なトラブルで時間を食うのは勿体無いので何か手はないかと伊吹(いぶき)に聞いたところ急に指をパチンとならした。

伊吹(いぶき)の周りに三つの狐火が現れて周囲を回り始めた。


陽炎(かげろう)


伊吹(いぶき)が呟くと同時に狐火が弾けて、そこには登山スタイルに身を包んだ伊吹(いぶき)が現れた。


「あれ? お前あれほど嫌がっていたのに、下にでも着こんでいたのか? 」


「コレ、は、陽炎(かげろう)。光の、屈折、で、そう、見せ、てる」


そこまでして着たくないかと改めて呆れてため息を吐ている三人を余所(よそ)に、当の本人は意気揚々と歩き始めた。


***

再び入り口付近。


辰巳達が去って一時間ほど(のち)、およそ登山には全く向いていないセーラー服姿の美少女と警察官という二人組が今まさに山へ入ろうとしている。


周囲の登山客は老人だろうとファミリーだろうとカップルだろうと、男だろうと女だろうと子供だろうとその美少女を視界に入れてしまったが最後、目を離すことも口をきくことも出来なくなって魅入(みい)ってしまった。


「こんにちは。今日は暑いですね」


少女と目があった大学生カップルはそのあまりにも美しく繊細な声が耳にはいると、ふらふらと吸い寄せられる様に少女に近づいていく。


「のどが渇きますね」


少女が連れの警官に向かって言うと、警官は無言でバックパックからサバイバルナイフを取り出し近付いてきたカップルの男の方に手渡す。


美少女は「あら。それをどうするの? 」と問うように首をかしげると、女の方が恍惚(こうこつ)の表情を浮かべながら少女の目の前に出てきて(ひざま)ずく。


男の方は少女の役に立てることが至高の喜びとばかりに、跪ずいた女の首もとにサバイバルナイフを当てると一気に掻き斬った。


女の首から上は少女の前に転がり落ち、切断面からは間欠泉(かんけつせん)の様に血が吹き出し男はみるみる内に赤く染まる。


不思議と近くにいる少女には全く血がついておらず美しいままだ。


足元に転がった女の頭を拾うと恍惚の表情のまま事切れて開いたままの口にその頭が乗っていた胴体から吹き出した血を注ぎ、コクンと一口飲むと「ごちそうさま」と言って男に頭を手渡す。

それだけで男は達したように体をビクビクと震わせている。


「行きましょうか」


誰にともなく呟くと山に向かって歩いていく少女の目は血のように赤く光り、二人は昼間にも関わらず闇に溶けていった。


***


祠へ着くなり辰巳の首筋にある刻印が熱を帯びる。

まるでシキが出現する前のような熱さだ。


「ぐっ……」


首筋を押さえて(うずくま)る。

後ろを歩いていた草薙(くさなぎ)が異変に気づき駆け寄る。


辰巳(たつみ)さん! どうしました? 大丈夫ですか?! 」


「首筋の……刻印が熱い……シキが出現する直前の様な熱さだ……何か……」


嫌な予感がすると最後まで言えず

その場にドサッと倒れ込んで意識を失った。


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