六日後
目映い光に包まれて暫くしてから目を開けると、そこには八代、草薙、伊吹が笑顔で待っていた。
もうずいぶん時間が経った気がするが気のせいじゃない。
体感時間にして一ヶ月程祠の中で修行をしていたのだ。
初めの一週間はオノマトペを真言に昇華する為の座学の様なものだった。
まずは密教系の真言とは似て非なるものである事。
真言というのは《ノウマク・サンマンダ・ボダナン》 や《オン・アビラ・ウンケン・ソワカ》等に代表する、サンスクリット語で表される神仏の名前で、要は仏様に力を貸して貰う為の呪文みたいなものだ。
対してこちらの【真言】はあくまでも《実際にその音が出るかどうかは別にして、その事象が起きるときにイメージされる音》を強く発すると言うものに【手印】を合わせたものだ。
衝撃であれば『トン』『ドン』『ガン』『バキ』
斬るのであれば『サク』『ザク』『ザン』『スパ』といった具合で基本は二音だ。
一通りの真言を教えられつつ庸が実践するのを見ながら真似をして一週間が過ぎた。
次のステップは【手印】という手で数字を表す方法だ。
これはもう殆ど時間はかからない。
握り拳から人差し指を立てて《一》順番に指を増やして《二》《三》《四》。
五が特殊で再び握り拳から親指だけを立てて《五》その状態から人差し指を立てて銃の形が《六》順番に指を増やして《七》《八》《九》。
十は両手の人差し指を交差させて文字通り十字を作って《十》。
この手印を覚えたら【模法】アクセントは【『も』ほう】らしい。
先程の手印の六で銃を意味するように、一から九までの組合せで何かを模して武器とする。
コレが霊剣や霊槍とシロが言っていたものだ。
霊剣は一二で模す。これはこの形をどれだけ剣と思えるかが重要だった。発声することでイメージを固める。
ここが時間がかかった。
***
「一、二、模すは剣! 切れ! ザン! 」
唱えて指の延長線上に刀身をイメージする。
「うーんなんか違うな……お前刀見たことあるか? 」
庸が頭を掻きながら尋ねる。
「いえ、無いです」
正直に答える。
「だろうと思った。お前刀のイメージが貧弱なんだよな。俺にはペーパーナイフにしか見えん」
言ってがははと笑う。自分の例えが気に入ったようだ。
「しかし、見たことないものをイメージするって最早空想ですよ? 」
「空想でもなんでもイメージがハッキリしてりゃ良いんだよ! お前のはイメージしきれてないんだわ。おいハチ! 犬神影綱だ! 」
庸が言うと、ワフ! と一鳴きしてハチが一振りの刀となり、庸の手に収まった。
「これが刀だ。持ってみろ」
渡された刀はずしりと重たい。鞘から抜いてみるとギラリと光る刀身が見える。振ってみろと言われてそのまま降ったら重みで前につんのめってしまいそうになる。
転ばないように自然と腰が落ちて重心が低くなる。
両手で柄を握りしめ大上段に構え、片足を踏み出して一気に袈裟斬りに振り下ろす。
ビュン!
風切り音が耳に届くと斬れるイメージが固まった。
「ハチ。ありがとう。お陰でイメージは固まったよ」
礼を言うと、再びワフ! と一鳴きして元の姿に戻る。
【ちなみに白龍は龍神刀という大太刀に成れるんだけどね? 】
言われてシロの方を見る。
【大太刀なぞまだ早いわ! まずは霊剣を使えるようになれ! 】
ハイハイと言って先程の刀のイメージをする。
「あーちょっと待て、踏み込むときに歩くと自分の足切るから気を付けろよ? 」
それは洒落にならない。むしろそういう重要な情報は先に言って欲しいと思いながら気を取り直して再挑戦。
ザンッ!
「おぉ! 大分ましになったぞ! お前やっぱりセンス良いな! 」
その後は庸と模擬戦をひたすらやった。
オノマトペのみの模擬戦というのが中々面白い上に身になったと思う。ひたすら効果音だけで攻撃と防御を行うのだが、相手がなにをして来るか分からないのでそれに合わせた防御を瞬時に見極めて発するといった具合だ。
そうこうしている内にあっという間に時間は過ぎてしまい今に至る。シキがどの程度のものか分からないが、今なら負ける気はしない。まぁなんとかなるだろう。庸の口癖が感染たようだ。
「ただいま! 」
笑顔の三人に向かって言う
「「「おかえり! 」」」
な? 負ける気はしないだろう?
ここまできてようやく序章の戦闘シーンの基礎が出来上がりました。次話はいよいよ戦闘回の予定です。




