示(とき)を司(つかさど)る
再び御岳山
陽も落ちようと言う時間帯に男女五人組が入山する姿に、下山してきた年配の登山者から容赦ない視線を浴びる。
特に伊吹はゴスロリ厚底靴と年配の登山者から嫌われる要素満載で、酒に酔った老人に「そんな格好じゃ遭難するぞ! 」等と言われてムッとしていた。
山の頂上で酒を飲む方も相当危ないのだが……。
なるべく一般の登山客の目に触れないように登山道から離れた道なき道を登り、修行場である龍穴に着いた時はちょうど日没の時刻だった。
つい一日前にここから発った時は気付かなかったが、自分の回りに自然のエネルギーが満ちているのが分かる。
止水の待機状態の効果なのか自分が成長したのか分からなかったが、分からなかったことが分かると言うのは成長の指標だ。
前回気付いた場所からさらに奥の方へ行くと、古びた小さな祠が建っていた。古びてはいるものの朽ちているわけではなく厳かな雰囲気があり、神々しい圧力で回りの空間が歪んでいる様に見える。
「へぇ……こんなところがあったんだ? 」
八代が知らなかったわーと言って祠の周りをぐるりと一周して言う。
【八代! 不用意に近づくと危ないからね? 】
【うむ。正直なところ主らにはまだ早い場所じゃ】
【そうだな。だが、そろそろ良いとは考えていた】
カルラが八代に警告し、シロが同調し、仁王がフォローする。
【え? 伊吹はここ来たことあるよ? 】
【庸は大丈夫だ】
ハッコがふふんと鼻を高くし、ハチが当然だと言わんばかりに胸を張る。
【ならば話は早い。庸は守と。伊吹は八代と利と組んで修行じゃ。まぁまずは腹ごしらえをしておけ】
みんなが持ってきた携行品の中には支給品のワンタッチテント、寝袋、ランタン、食料品等が入っている。食料は足りないので入山する前に幾らか買い足している
飯盒炊飯というわけにもいかないので、出来合いの弁当や日保ちする缶詰と乾きものといった具合だ
一通り食べ終わると庸がさてと切り出す。
「んじゃ、俺らから先に入らせてもらうぞ。五日後――シキとの決戦前日――の朝には出てくる」
「入る? 何処に? 」
八代が言い俺と草薙と三人で首をかしげると、庸は少し先にある祠を指差していう。
「龍穴ってのは中心に近づけば近づくほど時間の流れが遅くなるんだ。だからっていきなり中心近くに行ける訳じゃないから、進む時間と戻る時間を考えて何処まで行くか考える必要がある。」
つまり、一日かけて進んだら元の場所に戻るのに一日かかると言うことだ。その上で修行時間が最大に伸びる所まで行く。
「前に俺が入ったときは一時間進んだ所に行くのがやっとだった。一先ずそこまで進んでどうするか考えよう。真言に関しての説明は進みながらだ。行くぞ」
言うと祠に向かって歩き始めたので後を追う。
「守くん! 」
八代の声に振り返ると三人が拳をつき出して口々に
「真言だかなんだか知らないけど、ちゃっちゃと覚えて楓ちゃん助けるよ! 」
コツン 八代の右手に拳を合わせる。
「初めて会った頃を覚えていますか? あなたは見よう見まねで治癒能力を発動した。あなたなら出来ます」
コツン 草薙の右手に拳を合わせる。
「オノマトペ、忘れない、でね? 真言は、その、延長」
コツン 伊吹の右手に拳を合わせる。
皆の顔を見ると満面の笑顔だ。俺に出来ると信じて疑わない眼差しに熱く込み上げるものがある。
「行ってくる! 」
そう勢いよく告げて先を行く庸の元に駆け寄る。
「まぁリラックスしていこうや」
と言って庸が拳を出す。
コツン と拳を合わせてから庸と顔を合わせてにかっと笑う。
「よろしくお願いします! 」
祠の扉が開き辺りは目映い光に包まれた。
打ちきりの最終回みたいですが続きます!




