七七七の喜呪
目が覚めると部屋の中は台風が過ぎた後のようにぐちゃぐちゃになっていた。
何が起きたか思い出せなかったが、シロが俺が意識を失っている間に起こったことを説明してくれた。
信じられないことだが、楓は震災の時にじいさんが助けた子供だったらしい。楓自信も瀕死の重症で助かったのは奇跡だったと医者に言われたと話していた。
どうやら瀕死の楓を助けるために、じいさんは強引に自分の中の黒龍を封印状態にして楓の体内に降ろしたらしい。
当然さい帯血は無いが楓を護るようにして母親が覆い被さって事切れていたため、その流れる血を使い字の秘術を施したらしい。
「それで結局、楓は悪忍なのか? 」
認めたくはないが本当にそうだとしたらせめて自分の手で…と考えていた。
【わしの知っている悪忍とは少し様子が違っておったのじゃ。楓の場合は瀕死の肉体に霊獣のエネルギーを無理矢理組み込むことで、覚醒者の身体能力と水の治癒力に頼ったのじゃろう】
そう言って少し考え込んでから続ける。
【黒龍が楓はなにも知らないと言っておった。あの姿も霊獣を降ろしたと言うよりは黒龍の人形の様にも見えた。楓が悪忍と言うわけではなく、楓の肉体を媒介にして、黒龍が顕現しているんじゃろう】
ふぅとため息をつくシロ。
「しかしお前が龍だったとは驚きだな。どう見ても蛇にしか見えない」
もう一つの衝撃の事実に触れてみる。
楓に関しては今出来ることはなにもない。
【それに関しては『どちらでもよい』が正解じゃ。霊獣と言うのはイメージや想いの集合体の様なものじゃから、蛇だろうと龍だろうと出来ることと役割は一緒じゃ】
蛇と龍なら圧倒的に後者の方が強そうな気がするんだが。
『強さ』と言うのは比べることで分かる相対的なものと周りは関係ない絶対的なものがある。
相対的な強さと言うのはあまり意味が無いのだろう。
「で、俺はこのままだと三週間後に悪忍になるのか? 後で詳しくと言っていた『七七七の喜呪』ってのはいったいなんなんだ? 」
首筋の刻印に触れながら聞く。
【うむ。それに関しては皆が集まってから話すこととしよう】
シロが言うには俺が気絶している間に、始まりの唄とやらで守衛室メンバーに悪忍から宣戦布告があったらしい。
霊獣同士は互いに異変があれば気付くからそのうち来るとの事だった。
「楓は元に戻るのか? 」
そうあってほしいとの気持ちを込めて聞く。
【わからん】
しかし、シロはそう述べるに留まった。
***
暫くするとシロの言う通り全員が家に集まってきた。
皆が家の中の片付けを手伝ってくれ、五人が座れるスペースを確保すると皆の視線が俺に説明を求めてきた。
シロに聞いたことをそのまま伝える形になったが、それぞれ思うところがあったのか暫くは皆情報を整理することで一杯だった。
【では、そろそろこれからの事を話すとしよう。まず、守には七七七の喜呪がかけられた】
霊獣たちに緊張が走るが人間たちは首をかしげる。
【ちょっと待ってくれ白龍。七七七の喜呪と言えば一日やそこいらで出来る呪いではないはずだけど? 】
犬神のハチが納得いかないと口を挟む。
【うむ。真に口惜しい事だが、ヤツはそれをやってのけた。すまん。わしの落ち度じゃ】
素直に謝るシロにそれ以上はなにも言えなくなり黙るハチに代わり八代が手を挙げる。
「ちょっと良い? そもそも七七七の喜呪ってのがなんなのか分からないんだけど? 」
全員のの顔を知ってる? と問うように見渡して言う。
【あぁ、すまぬ。七七七の喜呪とは、その名の通り呪いなのじゃつまり――】
シロの説明はこうだ。
七日に一度【シキ】という鬼が刻印から表れる。
黒龍は色のシキといっていた。
シキには種類があり色鬼は下から二番目だが、そもそもシキ事態が鬼を使役する術なので、相当高度だ。
シキの角を折ることで刻印を一つ解呪出来るが、最終的に全ての刻印を解呪しなければ、二十二日後に刻印の侵食が始まり、悪忍に堕ちることとなる。
シキに対抗するためには、最低でも真言と霊剣か霊槍を使いこなす必要がある。
【……と言うことじゃが質問はあるか? 】
「そのシキと言うのは我々全員で戦っても倒せないのですか? 」
草薙が問う。
【七七七の喜呪と言うのは掛けられた対象者が打ち破らなければ解呪できぬのじゃ】
「俺らは何をすれば良い? 」
庸が身を乗り出して問う。
【守の修行を手伝ってほしい。正直、六日でシキと渡り合うには実践形式の修行しかないじゃろう】
「御岳山……行く? 」
伊吹が手をあげて楽しそうに言う。
【うむ。これから向かえば日が落ちるまでには着くじゃろう】
良いか? とシロが全員を見渡す。
全員が頷き立ち上がると庸が手加減しないから覚悟しろと笑顔で言っていた。
残り六日間……




