五里霧中
【ここからは自力で帰らないといけないから、頑張ってね】
そんな台詞を最後に見知らぬ場所で一人取り残されてしまった。
いや、正確には白蛇の【シロ】と二人(?)になるのか。
「シロ。ここがどこか分かるか? 」
【正確にはわからんが、龍穴と言うからには、龍脈が近くを通っているじゃろう。まずは力を強く感じる方に向かってみればよい】
答えは期待しないでとりあえず聞いてみたが、予想外に協力的な返答があり少し驚く。
【何を驚いておる? 力を感じることも修行じゃから、わしは力を貸さんからな? 】
なるほど。そう言うことか。そう考えるとシロがここがどこか知らないというのも怪しいが、知ったところで自力で帰らないといけない事には変わりない。
さてどうしたものか。
これ以上聞いても助言はなさそうだからな。
一旦情報を整理しよう。
まずここは日本のどこかの龍穴だ。
ここから自力で帰らないといけないが、周りは見渡す限り木木木と緑一色。正に役満。
シロの助言は強い力を辿っていって龍脈を探せ。
龍穴は龍脈に流れているエネルギーが溜まった場所だから、必ず近くに龍脈が流れている。
力を辿るのは修行の一貫なので俺がやる必要がある。
さて、この力を辿るってのはどうすればいいのか?
ハッコもシロも余計な説明をしなかったと言うことは、今の俺には出来る下地があると言うことだろう。
ここまで考えてからハッと気づいてシロを見てニヤリと笑みを浮かべる。
こと字の能力において、ここに来て出来る様になった事を含めても俺に出来る事は殆どない。
【自己治癒】・・簡単な怪我が早く治る
【止水】・・心を落ち着かせて集中力を高め、周りの状況を俯瞰で感じる
【水鏡】・・自身の問いに対して大まかな正誤の判別をつける
この中では【止水】だろうな。
【水鏡】は今の俺には二者択一位しか出来なそうだ。
道があり二又でどちらが帰路か?といった状況にならない限り使えないだろう。
さて、やるべき事が決まったら後は実行するのみだ。
先程と同じ様に足は肩幅に開き肩の力を抜いて気持ちを落ち着かせる。目をつぶり徐々に水面の波紋が収まっていくイメージを浮かべる。
要領は解っているので先程よりはスムーズに【止水】に入る。
すぐそばにある大きな気配はシロのものか。
夜が明けて太陽のエネルギーを犇々(ひしひし)と感じる。
太陽の方向に右手をおき南に向かう。
すると南東方向から太陽とは違うが、力強い流れを感じて目を開ける。
これか?
【ふむ。では進むがよい。あぁ、【止水】はそのままにしておくのじゃ】
一旦消えるぞ。と言い置いてシロは姿を消した。
さて、進むとするか。と朝靄に霞む大地に一歩を踏み出した。




