霊獣3
【合点承知! 】
と、時代を感じさせる受け答えをしながら【ハッコ】が腕をガシッと鳴らして答える。
【まず、霊獣という概念から説明するね? 】
ハッコはいい? と問うように首をかしげて、俺はそれにコクりと頷く。
【字の秘術を施した者が、その字に対して持っているイメージとか想いが代々集積されて象ったもの。コレが私達霊獣の正体だよ! 】
つまり、代々の忍達恐らくはその一族のイメージする【水】の概念として蛇が根底にあったため【シロ】は蛇の形をとっているというこか。
【最初に施した方のイメージの核となったものを基本として代々踏襲しているから、最初の方も一応形はあったよ?】
と付け加えて続ける。
【字の力というのはとにかくイメージが鍵となるんだ。オノマトペもそのために必要な事だったでしょ? アニメとかで必殺技名を声に出すのは、画と尺の問題もあるけどその方が本人にも観てる人にもイメージがしやすいからなんだよ! 】
フフンと胸をそらせて得意気に説明するハッコ。
後半は蛇足だろうが話している内容は大体理解できた。
一度実践しているのも大きいだろう。
オノマトペはその行為や状態などを表現する際に使われる、擬音語や擬声語と呼ばれるものだ。
「そこまでは大体分かったんだが……霊獣がいる意味は何かあるのか? 」
今のところシロは口喧しいだけの存在だ。
【霊獣がいる意味? うーん……そうはっきりと聞かれると困るんだけど……】
困るのかよ
【意思疏通ができる守り神とか守護霊と思ってくれれば良いよ。力に目覚める前からも明確ではないにせよ字の主を守るようになっているから、今までに大きな怪我とか病気は無かったでしょう? 後は過去にあった出来事とか、技で必要なこととかそういうのを教えられるよ。】
そう言われて振り返れば、今までの人生の中で命に関わるような事は無かったように思える。
【ちなみに私達を顕現するのは体力的にも精神的にも消耗するから、触媒となるものを用意しておいた方がいいよ】
たつみたんの場合は水ね。と付け加えてシロをチラッと見て続ける。
【まぁここは龍穴の一つで周りにエネルギーが満ちているからほとんど消耗はないでしょ? 安心していいよ】
なるほど。と言うことは体力をつける必要もあるわけか。
戻ったら楓に相談してトレーニングプランを作ってもらうか。
【ここまででなにか質問はある? 】
質問か……
「他のメンバーにも当然、霊獣はいるんだよな? 全員契約は済んでいるのか? 」
【そうだね。一番最後に来たのがたつみたんだから、たつみたん以外は全員契約まで終わってるよ! 】
ある程度予想はしていたが、知らなかったのは俺だけということか……
いや、情報というものは閲覧できる資格を持つもの以外には教えるべきではないのだから、そういう意味では正しい。
正しいが仲間外れにされていたようで少し寂しい。
「誰がどんな霊獣を……というのは本人に直接聞いた方がいいな……」
自分の知らないところで自分の情報をやり取りされるというのは想像以上に気分がよくない。これは戻って自分で聞くべきだろう。
【一応みんなからは説明を求められたら話していいとは言われているけど? 】
「いや、いい。落ち着いたら自分で聞くことにするよ。」
意固地とかそういうのではなく、そうした方がいいと思った。
【分かった。無理に話すようなことでもないから、たつみたんのタイミングで聞くと良いよ】
ハッコはビシッと親指(?)を立ててウィンクをして言うと、
最後に……と神妙な面持ちで切り出した。
【ここからは自力で帰らないといけないから、頑張ってね】
テヘッと言って前足で頭をコツンとすると、今の姿になった時と同様ドロンと音が聞こえそうな靄を出してハッコと伊吹は文字通り消えてしまった。
なん……だと……?
見知らぬ場所で一人取り残されてしまった。




