霊獣1
「次は、霊獣、ね? 」
よし。と腰をあげて土を払い円錐状の穴の縁にいる伊吹に向かって歩いていく。
先程までと同じ、ゴスロリ狐仮面ではあるのだが、微妙になにかが違うような
具体的に言うと腰の辺りに白いもふもふしたものがひょこひょこ動いている。うん。あれはもしかしなくても尻尾だ。
「お。やっと気づいたみたいね? 」
伊吹の声で妙に軽快に話し掛けられてぎょっとして目の前のゴスロリ狐仮面を凝視する。
尻尾は右へ左へ実にリズミカルに動いている。
「私は伊吹の霊獣で【白弧のハッコ】て言うんだ! よろしくね? たつみたん! 」
ハッコと名乗ったゴスロリ狐仮面は、普段の伊吹とは凡そ真逆の性格のようにハキハキとした話し方で自己紹介を始めた。
凄まじい違和感だ。
さらに、たつみたん……だと?
「よろしくと言いたい所だが、どこから【ハッコ】だったんだ? まさか最初からか? 」
だとしたら、いくら面をかぶっているとはいえ仲間の正体を見抜けなかった自分にがっかりだ。
「んふふ~そこ気になる? じゃー問題です! 私はいつから【ハッコ】だったでしょ~か? 一、最初から 二、オノマトペ説明した辺り三、口伝を教えた時 四、たつみたんが穴開けた時 五、実は私は伊吹 さぁ! レッツ! シンキンッ! 」
親指をビシッと立ててノリノリで出題する自称【ハッコ】
五は流石に明日から伊吹にどう接すればいいかわからないから除外するとして……
一もこれでは問題にならないだろう。
それに狐の面に関して質問したときに「私の霊獣」と言っていたから除外だ。
二、三が怪しい……が俺も伊吹をほぼずっと見ていたし、視線をはずしたのは四の時以外ない……はずだ。
順当にいけば四なのだが先程から斜め上のやりとりが続いていたため、どうも素直に考えて出る答えでは無さそうな気がする。
まさかの五か? しかし、外したときの人間関係にダメージが大きすぎる。いや、しかし……駄目だ! 考えれば考えるほどわからない。
いや待てよ。そういえば上に登って尻尾に気づいた時にやつはなんと言っていた? 「やっと気づいた」と言っていなかったか? と言うことは五はないんじゃないか?。
こうなったら……
(おい【シロ】)
餅は餅屋だ。
(【シロ】聞いているのか? )
【なんじゃお主。こんな問いも解らんのか? 】
明らかにバカにした口調で言われてムッとするがここは我慢だ。
(五じゃないことだけ分かれば良いんだ)
実際、そこだけがネックだ
【ふむ。せっかくだから一つ良いことを教えてやろう】
【お主が先程集中するときに凪と言っておったのは技としての名を【止水】という】
お主のはまだまだじゃがと一言付け加えて
【水には【水鏡】という真実を見抜く為の技がある】
(なに? そんな便利なものがあるなら・・)
【わしが言えるのはここまでじゃ。後は主で考えよ。娘の言った口伝にある通り決まった形ややり方はない】
「水鏡……水面……写り込む……こうか? 」
左右の手それぞれで銃の形を作り、左手の親指に右手の人差し指を、右手の親指に左手の人差し指をそれぞれ当て、写真を撮るときの構図決めの様なポーズをつくる。
枠の内にゴスロリ狐仮面を捉え、左目をつぶり右目のみで覗き見る。
あいつは伊吹なのか?
特になにも変わりはないように見えたが、狐の面と尻尾が薄く赤みを帯びて縁取られている。目を指の枠から外して見ると赤みを帯びたような形跡はない。これはどんな意味があるのだろう?
【最初の問いに対して正しければ青く。正しくなければ赤くなるのじゃ】
今のお主のレベルではそこまで分かれば上出来じゃと付け加える。
と言うことはあれは伊吹ではないと言うことか。
ならば答えは決まった。
「答えは四!俺が穴を開けたときに入れ替わったんだろう? 」




