オノマトペ1
「……説明、しよう……」
ようやく説明してもらえそうだ。
「私の……霊獣は、この子……」
お面を指して言う。
「ここは、契約前に、霊獣と、会える、場所」
伊吹がこんなに話していることにも驚いたが、霊獣? 【シロ】の様なのが守衛室のメンバーそれぞれに存在するってことか? チラッと伊吹の顔を伺うと、狐の面と目があった。
「……その、通り……」
狐の面からまるでこちらの考えでも読んでいるかの様に伊吹が答える。
「まさか、考えている事が分かるのか? ! 」
驚いて後退りながら尋ねると、フッと雰囲気が和らぎ
「……言って、みただけ……」
と斜め上の返答があった。
このやり取りはいつまで続くんだ……精神的に非常に疲れる。
「ここからは、真面目に、ね? 」
俺が?
「オノマトペ、知ってる? 」
小野又兵衛? 誰だそれ?
「そんなやつは知らない。そいつがなにか関係あるのか? 」
「……人、じゃない。オ、ノ、マ、ト、ペ」
一音ずつ区切って言われても聞き覚えがない。
しかも日本語かどうかも怪しい。
「すまない。やはりわからない。教えてくれ。」
ここは素直に聞くしかない。
「……チッ、ggrks」
今舌打ちされたのか? その後なにか伊吹らしからぬ早さでボソッと呟いたぞ?
「いぶ……」
もう一度尋ねようとしたところで、伊吹が先に口を開く。
「オノマトペ、は、擬音語、や、擬声語、の、こと」
「擬音語や擬声語ってことはあれか? ワンワンとかにゃーにゃーとか、音にならないものを表すような事だよな? 」
マンガに描かれている「ドンッ! バーン! ジャーン! 」や小説なんかで「桜の花弁がヒラヒラと風に舞っていく」と言った様子、「ヒラヒラ」を表すのもそうだったはずだ。
「……大、正、解……」
伊吹がパチパチと手を叩いて言う。このパチパチもそうだ。
「で、そのオノマトペが何なんだ? 」
「字の力、は、オノマトペ、が、大事……力を、使う時、音を、イメージ、する」
たとえば……と言って手を子供の頃によくやった鉄砲の形にした伊吹はその手を上に向けて
「……バン」
という声と同時に、伊吹の指先から凄まじい早さで光が遥か頭上に向けて飛んでいく。
続けて握り拳を作り地面に向かって拳を構えると足元に向かってを降り下ろす。
「……ズン」
と言うと、伊吹の足元が陥没し放射状にヒビが入る。
あの小さな身体の何処にそんな力があるのかと驚いた。
少なくとも今の俺に同じことはできない。
ふぅ……と可愛らしいため息をついて俺の方に向き直る、ゴスロリ狐仮面
「……わかっ、た? 」
ひょこっと首をかしげて問う。
「何となくわかった。その音の持つイメージが字の力を使った結果として現れる……と」
「バン」はそのまま鉄砲を撃つ音だろうし、「ズン」は地面がめり込む音か。「ドンッ」でも同じ様な結果になるのか?
「オノマトペ、は、イメージ、の、補完、だから」
実際は俺が結果として「そうなるイメージ」を持っていれば、「ズンッ」も「ドンッ」も同じということか。
「……やって、みて」
言われる前から試す気満々で握り拳を作っていた。
ふーっと息を吐いて止める。
裂帛の気合と共に拳を振り下ろすと同時に発声。
「ドンッ! 」
拳が地面に届く。どうだ?




