覚醒と山籠り2
「それは、私が、説明する」
急に聞こえた伊吹の声に驚く。
「うぉっ! ビックリした……いつの間に……」
と言って辺りを見回すも声の主の姿は見えない。
「あれ? 伊吹……さん? 」
なぜか嫌な予感がして、ついさん付けで呼んでしまう。
「……ここ」
と言う声が聞こえるなり、頭上から凄まじい圧力を感じて反射的に上を見る。
濃い緑で覆われた木々の隙間から明かりが見える。
夜明けかと思ったが、真上だしあり得ない。
しかもよく見ると輪郭がゆらゆらと揺らいでいるような気がする。
その明かりは徐々に数を増し、辰巳の頭上を中心として同心円状に広がっていく。
目を凝らしてみると一つ一つが燃えているように見える。
ヒ、ヒトダマデスカ?
「な、なんだ? なんなんだ? 伊吹! 説明するならさっさとしてくれ! 」
俺は目に見えないもの。所謂、霊やお化けのようなものは好きじゃない。いや、正直にいうと苦手だ。
伊吹の話し方とこの場の雰囲気が重なりあって、かなり嫌な具合に雰囲気を出している。
(……はぁはぁ、狼狽えてる、たつみたん、萌え……)
ぞくりと背筋に悪寒が走る。
なにか非常に良くない念の様なものを感じる。
これはダメなやつだ!
「……じゅるっ(ゴシゴシ)、今いく」
と言うなり、頭上を覆っていた火のようなものが空中で蠢き、螺旋状の階段を象ると頭上から人影が見えてきた。
明かりに照らされている筈なのに近くまで来ても黒いその姿は、ゴスロリファッションに身を包んだ穏田伊吹その人だった。
しかし、いつもの伊吹とは様子が違う。それもそのはずだ。
伊吹(と思われる)眼前のゴスロリ少女の顔には、狐の様なお面がつけられていて顔が見えない。
「伊吹……さん? 」
ゴスロリと狐の面と言う異様な組み合わせに、伊吹本人か確認してしまう。
「……いえす……」
ブイサインを出しながら、目の前の人物(?)は肯定する。
「そのお面は何なんだ? 取らないのか? 」
ようやく目の前の少女が伊吹だと認識できて落ち着いたものの、面をとらない理由が思い付かず本人に聞いてみる。
「……これは、私の、お稲荷さん、だ」
お稲荷さん? 狐の事か。
しかしどこかで聞いたことのある台詞……
「……察しろ……」
あれ? 不機嫌そうだぞ……お面に触れちゃいけなかったのか?
「あーおほん。えー本日はお日柄もよく……」
「……今日は、仏滅……」
すげなく返される。
「結婚生活に必要な3つの袋と言うものがありまして……」
「……お袋、給料袋、堪、忍、袋……」
あ、割と正統派な袋ですね。
そして堪忍袋の緒が切れそうなんですね……
「ごめんなさい。説明お願いします。」
こうなればもう謝るしかない。
「……ごめん、で、済めば……」
「警察要らないですよね! 」
どうしろというんだ……
「……説明、しよう……」
一通りいじり倒して満足したのか、ようやく本題に入ってくれそうだ。




