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記憶

「……いたい……うえぇぇぇぇぇん! い、いたいよ~おか~さ~ん! 」


小さい頃の私が転んで泣いている。

転んだときに擦りむいたのか膝から血が流れている。


「おーよしよし。痛かったね」


お母さんが私を抱き上げて「大丈夫」と言ってくれている。


「おかぁさん……ひっく……パクして……」


「はいはい。イタイノイタイノ~パクッ! ほら、もう痛いのはお母さんが食べちゃったよ! まだ痛い? 」


傷口から痛みを食べる仕草をした後モグモグしながら母は問う。


「んーん。だいじょうぶ。もういたくないもん! 」


本当はちょっと痛かったが、お母さんが痛みを食べてくれたことで和らいだ気がした。


「おかぁさんあのね。このあいだ、りんちゃんが、イタイノイタイノはとんでけだよ っていってたの。でもね、おかあさんがパクしてくれるとわたしいたくなくなるから、パクだよっていったの」


お母さんは笑いながら説明してくれた。


「お母さんは飛んでけ~だと誰かに当たっちゃうかもしれないから、ぱくって食べちゃう方がいいかな」


自分は間違ってないと言って貰えているようでほっとする。

でもねと言ってから母は付け加える。


「飛んでけ~ってして貰うと痛くなくなる子もいるから、どっちもあってるよ」


だから、それで喧嘩しちゃダメだよ。と(たしなめ)められる。


「はぁい」


といいつつも自分が正しいと言う思いは変わらない。

子供とはそういうものだ。


「さ、そろそろ帰って晩御飯の準備しなきゃね。(かえで)は何が食べたい? 」


今日は一杯遊んだからお腹がすいた。


「んとね、きょうはおなかすいたからハンバーグがたべたいの! りんちゃんもハンバーグたべたっていってたの! 」


「楓はりんちゃんと仲良しなんだね。よし、じゃぁ帰りにスーパーでお買い物して帰ろう! ハンバーグ作るの手伝ってね! 」


「はーい! 手伝う! 」


母に頼りにされると嬉しかった。

料理は好きだったしお母さんはもっと好きだった。

車に乗って家路についたところで目が覚める。


頬を伝う涙に気付き慌てて拭う。

悲しい夢ではなかったはずなのに何故だろう?

時計を見ると午前三時だった。

さすがに起きるにはまだ早い。

今日は守が夜勤なのでクイーンサイズのベッドに一人だ。


「守さん今頃仕事中かな? ビクビクしながら見回りとかしてたりして」


フフっと笑いながら、守の枕に顔をうずめて臭いを嗅いでみる。


「あー守さんの臭いだぁ……」


守の臭いを嗅いでいると安心したのかいつの間にか眠りについていた。


「んーむにゃむにゃ……ハンバーグおかわり……」


暗闇に寝言とグーという腹の音が溶けていった。

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